著者:中村祐輔(なかむらゆうすけ)
発行元:講談社
最近、高齢化社会の影響か、やたらと健康をテーマにした本を見かけるようになった。ガン関連の本もその例外ではない。そこでふと思った。自分の持っているガンの知識は大分古いのではないかと。そんなときにたまたま目にしたのが本書だ。
■ガン退治に有効なペプチドワクチン療法に迫る
ガン退治に有望視されている最新医療を紹介している本だ。その目的は、ありとあらゆる最新医療の紹介ではなく、新薬としての正式な承認が期待されているペプチドワクチン療法の紹介だ。
ところで、ペプチドワクチン療法とは何だろうか。少しだけ触れておきたい。ペプチドワクチン療法とは、著者の言葉を借りると「免疫力を高めてがん細胞を殺す治療法」、つまり、免疫療法と言われるもののひとつだ。ペプチドワクチンを投与することで、がん患者の体の中に、がんと戦う精鋭部隊を増やし、多勢に無勢だった状況をひっくり返し、がんに勝とう、という考えだ。
というわけで、本書にはガンの特徴にはじまり、既存医療の特徴と限界、ペプチドワクチン療法の特徴と仕組み、実験段階での実績、正式な新薬化に向けた活動進捗、ガンに対する専門家間のアプローチや意見の相違、これから進むべき方向性などについて書いている。
■本書がもたらす3つの驚き
以下、読んでの率直な感想だ。
まず、有望な新薬が登場しつつあるという事実に驚いた。「がんはまだまだ不治の病」という印象をもっていただけに、「いつの間にこんなに世の中は進んでいたんだ!?」とびっくりしたほどだ。
つぎに、これだけ情報技術が発達した世の中になっても、いまだに情報格差があるという事実に驚いた。ガン治療に関して、ガン患者を救うかもしれない情報が、タイムリーに届いていないのだ。本書で紹介されているペプチドワクチンの恩恵を受けた末期ガン患者の多くの人が、自らが、または近親者が、能動的に調べに調べ上げて、ようやくペプチドワクチンにリーチできたという事実は見逃せない。
最後に(どこでそう思うようになったんだかは思い出せないが)「なんだかんだで、免疫力さえ高めれば、ガンには勝てそう」という自分の思い込みが、いかに浅はかだったかを知って驚いた。がん細胞の膨れ上がり方は、気合いや、ちょっとした健康術による免疫力向上効果でなんとかなるような代物ではないようだ。ちなみに、中村先生によると、これを「多勢に無勢論」というのだそうだ。
■決して小さくない本書の意議
さて、ペプチドワクチンが全てのガンにたいする答えとなりうるのかといえば、答えはNOだ。それは著者自身も認めている。だが、ペプチドワクチンが、がん患者の希望の光になるのは間違いない。ガン患者には生きる希望が何よりのパワーだ。それこそが本書の意義でもある。
そして、本書の意義はもうひとつ。先述したように、ガン治療に関する情報格差をなくす手助けになることにある。大野更紗さん著の「困ってるひと」を読んだ時にも感じたが、生きたいなら受け身ではダメなようだ。自らが積極的に動いて情報を得る活動をしなければならないと思うのだ。「誰かが教えてくれる」「〜してくれる」という姿勢ではダメだ。本書は間違いなく、そうした意識を持つ者の助けになってくれるはずだ。
【医療という観点での類書】
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