2015年4月26日日曜日

書評: BCG流経営者はこう育てる


著者: 菅野寛
出版社: 日経ビジネス文庫


BCGとはボストンコンサルティンググループのこと。すなわち、本書はコンサルタントのプロが考える理想の経営者に共通して見出されるスキルと、そうした経営者にどうやってなるか、その方法を具体的に示した本である。

BCGと言うから難しい内容かなぁと思いきや意外や意外、良い意味で単純な内容である。理想的な経営者に必要なスキルを、マネジメント知識とロジカルシンキングが必要な「科学系スキル」と、リーダーシップが必要な「アート系スキル」の2つに分解している。さらに、リーダーシップは「強烈な意志」、「インサイト」、「しつこさ」、「ソフトな統率力」に分解できる。これらの何が足りないのかを特定し不足している箇所にどういう手順で手当てを行うかを指南しているのだ。

本書の特徴が3つある。1つは、いわゆるソフトスキルと言われる教育や習得が非常に難しいエリアに対してフォーカスし、体系的な習得に挑戦していることである。すなわち先に触れたリーダーシップのことであるが、著者の考えは経営者と言うものは資質が全てではなく、育てることができると経験的に信じているからこそのフォーカスである。

2つには、そうして紹介されている手順がコンサルタントいう高名なイメージからは程遠く非常にアナログチックで泥くさいことである。1、特定のスキルを習得したいと言う強い意志を持ち目標定める。に、集中する一時期に1つのスキルの習得に専念する…のような感じだ。とにかく半年なら半年1年なら1年手順を決めたらそれを地道にしつこくやりましょう、というのが彼の持論である。

3つには、自らの発言の裏付けに著名人の名言を数多く引用していることである。本をパッと見た限りでは、ソニー元会長の出井伸之、京セラの稲盛和夫、信越化学工業の金川千尋、セブングループの鈴木敏文、ファーストリテイリングの柳井正などなど。しかもこの方々たちの多くの人に直接会って引き出した話をもとにしている。

以上3つの特徴だが、私の印象としてはとりわけ2点目の特徴である泥臭い手順については、個人的には評価したい。なぜなら、ソフトスキルの習得と言うのは結局実践からしか学べないと思うからである。ところがいざ練習しろと言われてもどうやってやればいいかわからない。まさに、その部分にスポットライトを当ててくれている点に本書の意義があるとも言える。

読んだ素直な感想としては、著者の実際の経験、著名人の裏付け、ロジカルな説明のお陰もあって、内容に納得感がある。先述したように現実的な手法であり、かつ、本書に示される手法は経営のソフトスキルだけではなく、世の他のソフトスキルすべてに通用する話だと思う。したがって経営者になることを目指していない人であったとしても自分の欠点を見つけて治したいと言う人には何らかの形で参考になると思う。私はこの本に出会えてよかったと素直に思っている。


2015年4月25日土曜日

書評: 3つの基本ルール+ αで英語の冠詞はここまで簡単になる





久々に自分にとっては大ヒットの本だった。

この本は、英語に関する超お手軽な勉強本だ。英語といっても文法や熟語ではなく、英語の冠詞に特化した本だ。英語の冠詞とは、aやtheを指す。そう、a dogなのか、dogsなのか、 the dogなのか、dogなのかといった言葉の意味や違いを理解し、正確な使い分けスキルを身につけさせることを目的とした本である。

実は英語の学習で1番難しいのは冠詞の使い方だ。英語を学習する者にとっての最後の難関といっても過言では無い。私も英語は苦手な方ではないが、もう何年も前から冠詞に関しては気にかけてきた。だがいまだに完璧からは程遠い状態である。冠詞なんぞ、そんな細かいことにこだわって意味あんの?という声もあるだろう。実はあるのだ。昔、アメリカ人相手にコンサルをしていた時に、何気に「君の会社の課題を見つけた」(I identified an issue)と言ったときに、アメリカ人からan issue? issues? the issues? the issue?と聞き返された。Because that makes a big difference (だって、それによって全然意味が違うぜ)と。そのときだ。初めて冠詞の大切さを実感したのは。

本書はそうした問題を解決してくれるのにとても有効な本である。あまりにもありがたくて、買ってからまだ1週間もたたないが、私は既に3周目に突入した。冒頭で久々の大ヒットであると述べたが本書の何がそんなにいいのか? 一言で言えば、抑えるべきところが全て抑えられていて、なおかつ、1番大事なポイントをおさえているからである。「抑えるべきところが全て」とは次のような点である。

・ネイティブの解説付きである
・分厚すぎない適度なボリューム感である
・練習問題もある
・Kindleもある

そして「1番大事なポイント」とは、本の8割を練習問題で占めているという事実である。これは大きい。古今東西どんなスキルを身につける場合でも最終的には実践に勝るものはないと思うのだ。実は、以前、やはり冠詞を勉強すべく実践日本人の英語 マーク・ピーターセン著」を読んだことがある。俺はこれで非常に役に立った。ただ理解するのと実践するのとはまるで違う。その意味で本書は実践重視の構成を取っているので、本当の意味でのスキルアップに役立つ。

コーヒーはすばらしい香りがします。
(         ) Coffee has (            ) wonderful aroma.
(本書より)

上記のような設問が全部で192問ある。

ちなみに本書をやってみて改めて感じたのは英語の冠詞は、全て綺麗な法則で片付けられないものもあるということだ。だからこそ、繰り返しになるが実践が重要なのだと思う。

ターゲットになる読者は狭いと思うが、もし英語の冠詞を勉強したいと言う人、文法ある程度習得していてさらにスキルアップを図りたいという人には間違いなくお勧めの1冊だ。個人的には移動中の電車で手軽にできるKindle版をお勧めする。


2015年4月13日月曜日

黒田博樹の生き様に学んだこと

文藝春秋(2015年5月号)に、こんな良記事が載っているなんて思いもよらなかった。その記事のタイトルは、「黒田博樹 男気じゃない、ただブレないだけです」

この記事は、黒田博樹がカープに戻るという決断にいたった流れを描いているものだ。こうした類の記事は多いが、他の記事と何が違うと感じたかというと、この記事では、「どう悩み」「何を基準に判断したのか」について、本人の思考プロセスを深く掘り下げていたのだ。少なくとも私はこの記事を読んで、彼のこうした考えを初めて知った。以下は、その一部だ。

『12月中旬に入ってもどうしていいか分からない状態が続いていました。メンタル的にもかなり追い込まれ、「このまま雲隠れしてしまったらどんなに楽だろう」とまで思いつめてしまい、体にはじんましんが出たほどです。』(記事より)

私の学びは次の3つだ。

●人生の岐路にたったときは、自分の心の原点に帰るのが大事
記事では、黒田選手が「日本に戻ろうかどうか」といった悩みだけでなく、「ドジャース時代にチームが早々に優勝戦線から離脱した際に他球団の誘いに乗るべきかどうか」といった悩みや、「3年で契約するのか4年で契約するのか」といった悩みにぶつかったときに、何をよりどころに意思決定をしたのかを紹介している。彼の一貫した判断基準は、「そもそも自分は何をやるために今ここにいるのか?」「そもそも自分は何をやりたかったのか」といった”自分の心の原点”に問うものだった。

振り返れば、私も(比較にならないほどちっぽけな話だが)、これまでの人生2度3度、岐路にたたされたことがある。具体的にはたとえば、「希望通りの額面を払うが将来大きく増えることはないと言ってきた会社と、額面は払えないが結果次第で大きく増えると言ってきた会社」のどちらにするか悩んだときのことだ。最後の判断基準は「お金」ではなく、「自分はそもそもなぜ転職しようとしているのか」だった。結果、後者を選んだわけだが、前者の会社はその後倒産の危機に瀕した。別に倒産しても仕方のないことだが、自分の原点から離れて選択した結果の”危機”であれば、いくら後悔してもしきれなかっただろうと思う。

別に、自分が正しかった・・・ということを自慢したいわけじゃないが、黒田選手の話を聞くにつけ、その重要さを再認識した次第だ。

●努力は人を裏切らない
記事中、若い頃、アテネ五輪では、松坂や上原投手の控えに甘んじていたことを「なにくそ」と思って、ひたすら努力をした、とある。あれだけスポットライトを浴びて前を走っていた人を、気がつけば追いつき追い越せたのは、すごいことだと思う。ビジネスの世界で自分にはかなわないな・・・と思う人がたくさんいるが、それは追いつけないものではなく、努力次第で何とかなる可能性が十分にあるのだ。黒田選手の記事は、それを教えてくれた、という意味でとても自分の自信になった。

●但し、賢く、本質を見抜いて実践することが大事
黒田選手は、アメリカでの成功要因を「柔軟さにあった」と自己分析している。アメリカと日本は、環境が違う。たとえば、投球間隔も、アメリカの方が短い。だから日本式の練習をそのまま持ち込むのではなく、アメリカの理論を学んでそれを実践しようという頭が働いた、と述べていた。これには実は2つの意味でびっくりした。1つは、他の日本人メジャーリーガーとは、異なる考え方の持ち主ではないかと思ったからだ。以前、確かいずれかの日本人メジャーリーガー選手が、「成功要因は、自分のスタイルを崩しちゃ行けないことだ」と言っていたのを覚えている。黒田選手のそれはこうした考え方と異なるし、それで成功している。しかも、極めて納得性のある考え方だ。驚かされた2点目は、その熟慮の深さだ。「自分はこのチームに何が貢献できるのか?」「ローテーションや移動が厳しいメジャーで通用するためには何に気をつけるべきか?」といったことを、しっかりと考え、実践に移していたことだ。前段で「努力は人を裏切らない」なんてことを言ったが、それには前提条件があるのだと思う。つまり、闇雲に努力すればいい、というものではなく、そこにはしっかりとした考えを持って望む必要があるということだ。スポーツでも一流と言われる人は、頭がいい、と言われるが、私は黒田選手は、会社員になっても一流になれるほど頭がいい人だと思う。

たまたま読んだ月刊VOICE(2015年5月号)で、俳優養成学校を運営する梶原涼晴(かじわらりょうせい)という人が、ニューヨークに演技を学びにいったときに、常に「(その演技の)目的は?」「(目的を達成するための)手段は?」「それはなぜ?」とひたすら問いかけられ、それが大変良かった・・・という記事を読んだ。野球であろうが、俳優であろうが、一般事業会社の会社員であろうが、本質を見抜くことを意識することは全業種共通で重要なことなんだなーと改めて感じた。







2015年4月11日土曜日

書評: 私を通り過ぎた政治家たち

佐々淳行氏が実際に付き合ってきた数々の大物政治家について、彼だからこそ知る実話を基に、人物評をおこなった本だ。ちなみに佐々氏は、知る人ぞ知る国家地方警察本部(現警察庁)出身の危機管理のエキスパート。彼の父は政治家だった。佐々氏自身は政治家にこそならなかったものの、自身を含め、常に政治に近い場所にいる家系らしい。

そんな”佐々氏を通り過ぎた政治家たち”とは、時代にして1950年代から最近(2014年)に登場する著名人ばかりだ。安倍首相や小泉元首相はもちろんだが、吉田茂にはじまり、岸信介、佐藤栄作、田中角栄、三木武夫、福田赳夫、大平正芳…など教科書にも名前が登場する人たちのオンパレード。話は、日本の政治家だけにとどまらない。フォード大統領やエリザベス女王など、海外の超著名人にまで及ぶ。正直、ここまでの大物たちと縁を持てる人は稀有なんじゃないだろうか。羨ましい。

■評論のモノサシ
評論を読むときには、論者がどのような価値尺度を持って人を見ているのかを理解することが重要だ。佐々氏が、人の善し悪しを判断する基準は何か。曰く、ステーツマンか政治屋か、だそうだ。著者の言葉を借りるとステーツマンとは権力に付随する責任を自覚している人で、政治屋とは権力に付随する利益や享楽を追い求めてしまう人のことだそうである。氏はこの基準に基づき、政治家たちを評する。

■カッパえびせんのような本
嘘偽りのない感想を言おう。著者がステーツマンとして上げる人たちは、いずれも右翼色の強い方たちな感じがしたし、そうでない人たちをバッサバッサと切り捨てるものだから、一瞬「右翼本を読んでいるのかな、俺は?」という気がして警戒感が走った(別に、私は右翼とか左翼であることが悪いとは全く思っていないことを付け加えておく。単に安易に何かの色に染まりたくないという警戒心が強いだけである)。

でも、これが「読み始めたら止まらない」のである。久々の感覚だ。300ページあまりの分厚さが、全然、気にならなかった。なぜ夢中になれたのか。

ひとつには、自分が知らない裏話が山ほど紹介されていたからだろう。しかも著者の言うところのステーツマンの裏話だ。今の現代、崇高な信念を持ち意地をつらぬく政治家ってあまり見かけない気がするだけに、実際のステーツマン話が聞けるって、何か爽快じゃないか。自分も頑張ってみようと勇気をもらえる。ちなみに佐々氏自身も、ステーツマンと同人種だと思うが彼自身の話も悔しいが面白い。

加えて、自分が持っていた政治家とのギャップがはっきりと見て取ることができる点も本書の大きな魅力であることに間違い無い。たとえば、加藤紘一氏(こちらは悪い意味で)や石原慎太郎氏(こちらは良い意味で)の話には、少々驚いた。特に加藤紘一氏に関しては、自分が知らなかっただけかもしれないが、佐々氏の話を話半分に信じたとしてもひどいものである。本当にそんな人が支持を集める政治家になれるものだろうかと読んだ後でも信じられない。

あとは、自分も危機管理の分野に足を突っ込んでいる者として、参考になる点が多々あったからだろう。まぁ、これは他の読者には関係あるまい。

■政治家の名前を多少なりとも知っているならば
そんなわけで、カッパえびせんのような本なのだから私としてはお勧めしたい。ある程度政治家の名前に聞き覚えがある人ならば、誰が読んでも面白いんじゃなかろうか。ちなみに、私がなぜこの本を買ったかと言えば、文化放送のラジオ番組「武田鉄矢の三枚下ろし」で、武田鉄矢が面白く紹介していた話を聞いたためである。自分が認識している政治家像と、実際に接してきた人が見る人物像と、どれだけギャップがあるのか、興味がわいたのだ。一言で言えば、自分がどれだけ人を見る目があるのかを知りたかったのである

「本書は間違いなく私のそうした興味を満たしてくれた」…これを今回の私の書評の結びとしたい。


【政治という観点での類書】
総理(山口 敬之)
天才(石原慎太郎)

2015年4月4日土曜日

M70 - 無線イヤフォン

M70
買って本当に良かった・・・と思えるものに出会える機会は多くない。そんな中、とても気に入っているグッズがある。それは、無線イヤフォンだ。これがあると、スマフォに触らずに音楽やポッドキャストを聞ける。もちろん、電話をとることも、電話をかけることも可能になる。

実は、初めて無線のイヤフォンに手を出したのは今から2年前のこと。一生懸命調べて、1万円弱する製品を買った。その名も Plactronics社のBackBeat Go2(詳しくは、2013年10月29日の記事をご覧いただきたい)それはそれで良かったのだが、とにかく一番の難点はバッテリーの持ち。3時間程度しか持たない。まぁ、それでもなんとかなるだろうと思っていたが、経年劣化もあり、通勤1時間使い続けると会社に着いた頃には、充電しなければならない・・・。ややイライラ感の募るものだった。

そんなとき、はやり同じPlactronics社からバッテリーが非常に長持ちする製品が発売された。それが、 M70という製品だ。この製品はいくつかの観点で、前者と、仕様が大きく異なる。

【M70の特徴】
・片耳用
・Bluetooth使用

【良い点】
・とんでもなく軽い(装着していることを忘れるほど)
・装着・取り外しがとても簡単
・耳を圧迫しないので、長時間使用できる
・バッテリーが長持ちする(10時間以上)
・耳を完全にふさがないので、外の音が聞こえ、運転や運動中はとても安全
・小さいのに、フリーハンドで通話ができる(自分の声をきちんと拾ってくれる)
・価格が3000円しない・・・比較的安い
・簡単に最大2製品まで接続記憶してくれる
・電源消費量が少ないせいか、充電時間も短くて済む

【悪い点】
・耳を完全にふさがないので、うるさい場所(たとえば電車の中など)だと音が聞こえづらい
・製品が小さく目立たないので、フリーハンドで話していると、独り言を言っていると思われ変な人だと思われる


この製品を買ったのは、半年以上も前。ずっと使っているが、とても満足している。激しい運動をして耳から落ちるので怖そう・・・という方や、うるさい場所で使うので、もう少ししっかりと耳に音を流し込みたい・・・という方向けに、同製品をよりしっかりと耳に固定するアクセサリーもついている。これまた、目立たず、使い勝手は悪くない。私はジョギング中に使っていたが、使わなくても耳からまず落ちることはないので、今では使わずにしまってあるが・・・。

確かに、電車移動中に何かラジオなどを聞こうと思ったら厳しいが、そういうときには、先のBackBeat Go2を使うことで、使い分けをしている。マジでオススメします。


書評: 3 行で撃つ <善く、生きる>ための文章塾

  「文章がうまくなりたけりゃ、常套句を使うのをやめろ」 どこかで聞いたようなフレーズ。自分のメモ帳をパラパラとめくる。あったあった。約一年前にニューズ・ウィークで読んだ「元CIAスパイに学ぶ最高のライティング技法※1」。そこに掲載されていた「うまい文章のシンプルな原則」という記...