この記事は、黒田博樹がカープに戻るという決断にいたった流れを描いているものだ。こうした類の記事は多いが、他の記事と何が違うと感じたかというと、この記事では、「どう悩み」「何を基準に判断したのか」について、本人の思考プロセスを深く掘り下げていたのだ。少なくとも私はこの記事を読んで、彼のこうした考えを初めて知った。以下は、その一部だ。
『12月中旬に入ってもどうしていいか分からない状態が続いていました。メンタル的にもかなり追い込まれ、「このまま雲隠れしてしまったらどんなに楽だろう」とまで思いつめてしまい、体にはじんましんが出たほどです。』(記事より)
私の学びは次の3つだ。
●人生の岐路にたったときは、自分の心の原点に帰るのが大事
記事では、黒田選手が「日本に戻ろうかどうか」といった悩みだけでなく、「ドジャース時代にチームが早々に優勝戦線から離脱した際に他球団の誘いに乗るべきかどうか」といった悩みや、「3年で契約するのか4年で契約するのか」といった悩みにぶつかったときに、何をよりどころに意思決定をしたのかを紹介している。彼の一貫した判断基準は、「そもそも自分は何をやるために今ここにいるのか?」「そもそも自分は何をやりたかったのか」といった”自分の心の原点”に問うものだった。
振り返れば、私も(比較にならないほどちっぽけな話だが)、これまでの人生2度3度、岐路にたたされたことがある。具体的にはたとえば、「希望通りの額面を払うが将来大きく増えることはないと言ってきた会社と、額面は払えないが結果次第で大きく増えると言ってきた会社」のどちらにするか悩んだときのことだ。最後の判断基準は「お金」ではなく、「自分はそもそもなぜ転職しようとしているのか」だった。結果、後者を選んだわけだが、前者の会社はその後倒産の危機に瀕した。別に倒産しても仕方のないことだが、自分の原点から離れて選択した結果の”危機”であれば、いくら後悔してもしきれなかっただろうと思う。
別に、自分が正しかった・・・ということを自慢したいわけじゃないが、黒田選手の話を聞くにつけ、その重要さを再認識した次第だ。
●努力は人を裏切らない
記事中、若い頃、アテネ五輪では、松坂や上原投手の控えに甘んじていたことを「なにくそ」と思って、ひたすら努力をした、とある。あれだけスポットライトを浴びて前を走っていた人を、気がつけば追いつき追い越せたのは、すごいことだと思う。ビジネスの世界で自分にはかなわないな・・・と思う人がたくさんいるが、それは追いつけないものではなく、努力次第で何とかなる可能性が十分にあるのだ。黒田選手の記事は、それを教えてくれた、という意味でとても自分の自信になった。
●但し、賢く、本質を見抜いて実践することが大事
黒田選手は、アメリカでの成功要因を「柔軟さにあった」と自己分析している。アメリカと日本は、環境が違う。たとえば、投球間隔も、アメリカの方が短い。だから日本式の練習をそのまま持ち込むのではなく、アメリカの理論を学んでそれを実践しようという頭が働いた、と述べていた。これには実は2つの意味でびっくりした。1つは、他の日本人メジャーリーガーとは、異なる考え方の持ち主ではないかと思ったからだ。以前、確かいずれかの日本人メジャーリーガー選手が、「成功要因は、自分のスタイルを崩しちゃ行けないことだ」と言っていたのを覚えている。黒田選手のそれはこうした考え方と異なるし、それで成功している。しかも、極めて納得性のある考え方だ。驚かされた2点目は、その熟慮の深さだ。「自分はこのチームに何が貢献できるのか?」「ローテーションや移動が厳しいメジャーで通用するためには何に気をつけるべきか?」といったことを、しっかりと考え、実践に移していたことだ。前段で「努力は人を裏切らない」なんてことを言ったが、それには前提条件があるのだと思う。つまり、闇雲に努力すればいい、というものではなく、そこにはしっかりとした考えを持って望む必要があるということだ。スポーツでも一流と言われる人は、頭がいい、と言われるが、私は黒田選手は、会社員になっても一流になれるほど頭がいい人だと思う。
たまたま読んだ月刊VOICE(2015年5月号)で、俳優養成学校を運営する梶原涼晴(かじわらりょうせい)という人が、ニューヨークに演技を学びにいったときに、常に「(その演技の)目的は?」「(目的を達成するための)手段は?」「それはなぜ?」とひたすら問いかけられ、それが大変良かった・・・という記事を読んだ。野球であろうが、俳優であろうが、一般事業会社の会社員であろうが、本質を見抜くことを意識することは全業種共通で重要なことなんだなーと改めて感じた。
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