2017年1月22日日曜日

書評: なぜ「日本人がブランド価値」なのか

なぜ「日本人がブランド価値」なのか
〜世界の人々が日本に憧れる本当の理由〜
著者: 呉 善華
出版社: 光明思想社



■私が体験した文化の違いがもたらす衝撃
10年ちょっと前、私はまだイギリスで働いていて、同僚にインド人がいた。一緒のプロジェクトで働いていた時のことだ。2日後に期限が迫るタスクについて、彼にこう尋ねた。「明後日が期限だが大丈夫か?」。すると、彼はこう答えた。

「もちろん、なんの問題もない」

2日後、彼の姿はオフィスになかった。1週間の休暇で故郷インドに戻ったというのだ。大丈夫か?と聞かれれば、「大丈夫じゃなくても大丈夫と答えないと失礼」という考え方の文化があることをこのとき初めて知った。びっくりだった。

■外国人に衝撃をもたらす日本文化とその理由とは
では、逆に外国人に奇異に映る日本人の特徴はないのだろうか?

昔、石原慎太郎氏が「NO(ノー)」と言える日本―新日米関係の方策(カード) (カッパ・ホームス) を出して話題になった。これは日本人に「NO(ノー)」となかなか言えない特徴があることを踏まえてのタイトルだった。

ほかにも「日本人は原則論を盾に、すぐにダブルスタンダードを設ける」とは、よく言われることだ。もちろん良いことだってある。「治安がとてもいい。朝、自転車に財布を置き忘れても、夕方に戻ったとき自転車のカゴに残っている」なんてことは当たり前だ。「戦後数十年以上にわたった対外・対内ともに戦争をしていないこと」も誇るべき特徴だ。

そして、これらの特徴はどうして生まれたのだろうか。

私が聞かれたら、短絡的に「島国だから」「一回も侵略されていない一民族国家だから」などといった答えをすぐに思い浮かべるだろう。もちろん、ことはそんな単純なことではない。その根源的理由は日本誕生の歴史を深く振り返らないと見えてこないはずだ。これまでに誕生した芸術・美術、宗教観、死生観まで深堀りする必要がある。本書は、こうした深掘りをしつつ、外国人から見た日本人の特徴、素晴らしさ、これからの世界にとっての意義について、述べた本である。

■「神は自然に宿る」 vs 「神が自然を創りたもうた」
著者は、その深掘りの中で、日本人の持つ特徴を「自然との一体感覚のうちに生きていた時代の人間の心がもたらしたもの」と評する。

この評を聞いて思い起こされることがある。確かだいぶ前に読んだ「ふしぎなキリスト教(著者:橋爪大三郎と大澤真幸)」の中で、多神教では「神は自然に宿る」的な考え方を持つが、一神教は「自然は神が作りしもの」的な考え方を持っているというくだりがあった。日本は・・・八百万の神とも言われるように多神教だ。

神木と言って、大木を崇め奉ったり、庭園にミニチュア版の自然を創り出したり、自然を愛し、自然との調和を大切にする心・・・こうしたことから、すぐに散りゆく桜(著者は散華と言っていたが)にものの美しさを見出したり、武士道といった死生観を持ったり・・・といった考え方はとても腑に落ちる。

もちろん、多神教だったから日本の特徴が生まれた・・・というなら、同じ多神教徒であるヒンズー教徒のインドも全く日本と同じにならなければいけないし、そんな単純に解決する問題でもなかろうが、そうした奥深さもひっくるめて深い考察を述べているわけで・・・読み応えのある本である。

■日本を好きになった韓国人著者が、日本の良さとその理由を語った本であること
さて、そんな本書だが、その特徴はなんだろうか? 本書最大の特徴は、「世界との違い」でもとりわけ、日本と韓国との違いにスポットライトを当てていること、そしてその違いを語っている著者の出自が韓国であることだろう。

いくら日本びいき・・・であったとしても韓国出身の人が、そんな偏った考察をするわけがない・・・と考えてもいいのではなかろうか。実際、私は強いて言うならイギリス大好き人間で、イギリスびいき人間ではあるが、もし、イギリスについての本を書けと言われれば、好きだからこそ、出身国である日本と対比しながら、良い面・悪い面の両方について書くと思う。それと同じことだ。

ちなみに、一点、著者が書いていることで反論をしておきたいことがある。「日本に来る外国人は、日本人がみんな優しい。すぐに手を差し伸べてくれる」という例を挙げていたが、私はそうは思わない。イギリスにいたとき、前を歩いている人が先に扉を開いたら、次の人のために支えて開けておいてくれることが多い。これは日本ではあまり経験しない。また、ベビーカーを持ったお母さんが階段の下で立ち往生していたら、みんなすぐに駆け寄って助けてくれる。歩きタバコをしていたら、はっきりとした物言いで注意する。だから、一概に日本人が優しい・・・とは思わない。

■韓国文化との違いを知り、より良い付き合い方を学ぶために
私のMBA時代、韓国人の友人がいたが、この本が指摘する韓国人の特徴に気がつかなかった。おそらく、向こうも欧米の文化を勉強して、韓国人としての素を全てさらけだしていたわけではなかったからかもしれない。

しかし、この本をそのときに読んでいたらもっとうまい付き合い方ができていたのではないか、とふと思った。そしてこうした気づきを国対国のレベル・・・韓国対日本に当てはめても同じことが言えるんではなかろうか。なぜ、日本から韓国への援助に対し、韓国がありがとうの一言を言わないのはなぜか、それどころか、もっと支援して当然と思うのはなぜか?

そこには、どっちの国が良いとか悪いとか・・・そんな単純な理解を超えた、それぞれの国の精神的特徴の存在が垣間見える。欧米人と日本人との違いなどは、本でもテレビ番組でもよく目にする。なんとなくだが、体感して理解しつつある。だが、韓国と日本との違いは、ひょっとしたら、外見の類似性や距離の近さが、我々のメガネを曇らせ、お互いの価値観や文化の違いに対する理解を妨げてきたのではなかろうか。少なくとも、僕ら・・・いや、僕は韓国のことを理解しているようでなにも理解していなかったことに気付かされた。

壁を打ち破るにはお互いを理解することが最初の一歩。まずはこの本を読んでみてはいかがだろうか。

 
【日本人の特徴に触れるという観点での類書】
 




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