2017年1月9日月曜日

書評: LIFE SHIFT 100年時代の人生戦略

MBAを卒業してから、はや10年。貴重な人生の一年を費やしてまで通ったMBAが私の人生のなんの役にたったのか? 昨年来、そんなことを考えていた。もちろん、役に立ってないなんってことは一ミリも思っていない。ただ、それをうまく言語化できないのだ。具体的に何がどうどのように役に立ったのかと・・・。

本書を読んでいて、その答えをもらった気がする。

著者:リンダ・グラットン / アンドリュー・スコット(著) 池村千秋(訳)
出版社: 東洋経済新報社


■寿命100年時代の人生設計
『人間50年、下天の内をくらぶれば、夢幻の如くなり』

かつて織田信長が好んで唄ったといわれる敦盛(あつもり)の一節だ。しかし、現代日本では平均寿命は80歳を超えている※。本書は指摘する。平均寿命は、正比例の形で延びていると・・・。たとえば、私は40代だが、50%を超える確率で95歳まで生きるそうだ。それが私の子供の世代になると、50%以上の確率で100歳以上まで生きるそうだ。ちなみに寝たきりを前提とした話ではない。カラクリはなんだ!?とおもわれるかもしれないが、食や医療の発展のお陰なのだそうだ。

※厚労省の平成27年の発表によれば、女性87.05歳、男性80.79歳だそうである

そう・・・本書は、100歳まで生きることが当たり前になりつつある今、70歳・80歳の寿命を前提に作られた世の中の仕組み、我々の考え方、人生設計・・・その全てを一旦見直すべきときにきていることを訴えつつ、どういう人生設計があり得るか、我々はそれに対してどのような心構えで臨むべきかについて、新しいビジョンを示すものである。

ベストプラクティス平均寿命
あなたがもし今「確実に100歳まで生きる」と言われたら、どういう人生設計を描くだろう。あなたが今学生なら、大学を卒業してすぐに就職をするだろうか。一つの会社に勤め続けるだろうか。何歳まで働きたい・働くべきだと思うだろうか。

■ゆでガエルになっていた
「昔に比べ寿命が延びた」とは、ずっと言われ続けてきたことだ。それによって自分が考え方を変えたか?と言われれば、そんなことはなかった。考えていた事といえば、せいぜい「自分は運が良ければ85歳くらいまでは健康的に生きるだろうか、いや、生きられればいいなぁ」「僕らの老後には、年金は支払われないだろうなぁ」とか、「定年は70歳とか75歳にどんどん後ろ倒しになっていくんだろうなぁ」とか、そんなことくらいだ。

本書を読んでハッとした。長く生きる可能性は自分が漠然と思っていたものよりも高いのだと。そして、平均寿命の伸長がもたらす影響の大きさは私が考えていた程度のものではないと。平均寿命が、経年変化とともに正比例して延びていくのだ。私自身の人生設計もさることながら、経営者として、私の会社で働いてくれている30代、20代の若者たちの人生設計も考えなければならない。「こうやって苦労してきているから、今の私がある。だから彼らも同じ苦労をすべきだ。させてあげたい」という短絡的な考えで接していては、みんな辞めてしまうのかもしれない。

■振り返れば、私のMBA時代も
寿命が長くなれば、高校・大学生時代に得たインプットだけで、一つの会社に勤めあげることはますます難しくなっていくだろう、と本書は指摘する。だから、一旦、会社で働くことを辞めて、また学生に戻る、自分の時間を持つ・・・という生き方もどんどん当たり前化するのだと。

しかし冷静になって考えれば、自分もそうして生きてきたと、はたと気がつく。イギリスで3年間働いた後、1年の空白期間を作り、イギリスの大学院でMBA習得に励んだ。30代の一年間は、働き盛りで貴重だ。本当に一年もの時間を潰して、勉学に励むような廻り道をしても大丈夫かと悩んだこともあった。しかし、それから10年が経過した今、その時に学んだこと、培った友人関係、その全てが役立っているといっても過言ではない。戦略、フレームワーク、会計、財務、マーケティング... あの時に学んだことがあったから、起業して色々な壁にぶち当たっても、そうした変化や課題に柔軟に対応できてきたのだと自信を持って言える。加えて、MBA時代に出会った友達には、今でも毎年何人か日本に来た時に会う。困った時に助け合うとかそういうベタな仲ではないが、久しぶりに会って話すといつも刺激を与え合う仲だ。新しい起業のネタをひたすら考えているカナダ人の友達に会うと、こっちまで、もう明日にでもまた新しい会社を立ち上げたくなる。わくわくする。

思えば、私のMBA仲間の生き方も多様化していた。MBA仲間である女性はMBAコースに進み、その間、彼女の夫が育児をしていた。そして、彼女が卒業後、今度は夫が進学、彼女がサポート役にまわった・・・そんなケースは彼女だけではない。他にもいた。本書で指摘する生き方の多様化はもうすでに始まっていたのだ。

■当たり前のことに意外に気がつけない
ぶっちゃけ、100年が平均寿命だと分かった時点で、本書を読まずとも自らの生き方の選択肢について考え直すことはできるだろう。実際のところ、先述したように、実際にそういう生き方を直感的に実践しはじめている人は周囲に少なくない。

ただ、私自身がそうであったように、寿命が延びる・・・可能性と、それがもたらす影響の大きさについて、ピンと来てない人もまだまだたくさんいるのではないだろうか。だから、本書は、高校生以上なら全ての人が読んでも意味ある本だ。学生や社会人であればこれからの生き方の人生設計のヒントを、親であれば多様化する子供の生き方に対する理解を、経営者であれば社員との接し方を... 得るためのヒントとなるだろう。

もちろん、事実を理解した上でどういう選択肢を選ぶかはあなた自身だ。だが今自分が立っているフィールドが、自分が遭遇する世界が、どんな場所なのか・・・それくらいは理解しておいて損はないはずだ。


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