2017年3月12日日曜日

書評: ビジネススクールでは学べない世界最先端の経営学

MBAに行ったのが10年前。直後に起業した。自ら経理をやり、最初の仕事を取るのに苦労した。リーマンショックも経験した。大企業との契約も勝ち取った。失敗体験も成功体験もたくさんした。その中でMBAはどんな存在だったか。

自分の名刺にMBAを刷り、信頼を得るのに役立った。本を書く際やコンサルする際の情報の整理分類ツールとしてフレームワークが役立った。お客様を理解する際の財務データの読み方が役に立った。自社のマーケティングを考える際には、MBAで学んだマーケティングの視点を持つのに役立った。会社が成長して環境が変わる中、経営者自身が変わることに失敗し、会社を台無しにたケーススタディを数多くやっていたおかげで、その変化を感じ取ることができた。世界で活躍するMBAの同級生にたまに会うことで、刺激をもらえることも生きる糧になっている。

しかし、同時に限界も味わった
  • 最初の一件目の仕事の獲得
  • 全速力で走りながらの人の採用
  • 全速力で走りながらの人材育成
  • 組織が大きくなる中でのルールや意識の定着化
  • 生業にしている“リスクマネジメントサービス自体”の付加価値の定量化
ビジネスを経営する上で、上記のような困難に立ち向かうにはMBAだけでは難しかった。自分はまだまだだな・・・と思った。そんなときに目にした本がこれだ。



本書を開くと、そこには確かに私が知らない内容がかかれていた。フレームワーク、リーダーシップ、CSR、ダイバーシティ・・・キーワード自体は良く聞くものだが、プラスアルファの話が一連の説得性あるデータにもとづき、わかりやすい説明でまとめられている。

たとえば、トランズアクティブメモリーに関する話。なお、トランズアクティブメモリーとは、組織の記憶力のこと。組織の学習効果、パフォーマンスを高めるために大事なのは、「組織のメンバー全員が同じことを知っている」ことではなく、「組織のメンバーが“他のメンバーの誰が何を知っているのか“を知っておくこと」だという。これについて、実験がなされていて、メールでもなく、電話でもなく、直接対話によるコミュニケーションの頻度が多い組織でこそ、最も良い結果が得られたという話・・・私は全然知らなかった。

単に知らなかったことがわかった・・・だけではなく、実際の仕事でも活かせそうだ。このトランズアクティブメモリーの話は、社内における情報共有のあり方についてヒントになったし、CSR(社会的責任)の効能に関する話は、私がリスクマネジメント活動を推進するにあたって、お客様への説得材料に活用できると感じた。最近の多くの組織が採用するブレインストーミング手法の功罪の話も、コンサルティングをどのように行えばいいか・・・のヒントになると思った。

ところで、「知らないことが載っている」=「ビジネススクールでは学ばないものか」という数式が成り立つかどうかについてはやや懐疑的だ。著者は、「最先端の経営学は、それを研究する側のモチベーションの問題もあり、なかなか学習材料になるレベルまで落ちてこない」と言う。著者の言い分もわかるが、私は、ある程度は、教壇に立つ教授次第だと思うのだ。

また、当たり前ではあるが、「知らないことが載っている」=「知りたいことが載っている」というわけでもない。自ら起業し、会社を経営する中でぶつかる壁や疑問に関する答えが、そこにすべて書いてあるわけではない。そこは注意する必要がある。

いずれにせよ、役立つ情報がかなり載っていると感じたし、強い魅力を感じたのは間違いない。本書を読むことで、実際の仕事を後押しするヒントが得られたし、自分がリーチ出来ていない情報の存在に気づけたのは収穫だった。「学習材料になるレベルまで落ちてこない最先端の経営学を、読者がわかるレベルまで落とし込んで紹介してくれた」・・・という点で、意義は大きい。この著者の本に続編が出るのであれば、追いかけてみたいと素直に思った。

戦略(人事戦略、事業戦略、を考える人(経営企画、コンサルタント(発想の源泉))なんかに向いている本だと思う。


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