一流のアスリート同士の戦いを見ていると・・・・たとえば、世界陸上でいまだ100M 10秒を切れない日本人選手を見ていると、「生まれながらの資質」ってのがあるんだろうなぁ・・・と思わずにはいられない。
他方、アスリート個々人と自分を比較するとき、違う感情が湧くことがある。野球のイチロー選手、サッカーの本田選手・・・一流ではあるが、みんな「努力の天才」なんだな・・・って思うのだ。その思いの裏には「自分も、もし頑張れる人間であったならば、同じレベルとは言わないまでも、近いレベルになれていたかも」というおこがましい考えがあるのかもしれない。つまり、生まれ持った身体能力の違いというよりも、努力の差なのだと。
「生まれながらの差なんだ」という考えと、「努力の差なんだ」と言う考え、・・・果たして、結果に差をもたらす要因としては、どちらのウェイトが大きいのだろうか。
出版社:SB新書
「日本人の9割が知らない遺伝の真実」の著者、安藤氏によれば「生まれながらの素質」が、要素として極めて大きいらしい。どうしてそんなことが言えるのか? まさにそれこそが、本書がもたらす重要なポイントの1つだが、著者の専門である行動遺伝学・・・双生児や養子の膨大なデータにもとづいて分析を行うことで、解を導きだしたのだ。
分析の原理はこうだ。一卵性双生児と二卵性双生児の遺伝子の共有率の違いを利用するのだ。一卵性双生児の場合は、双子間の遺伝子が同じである率は100%。これが二卵性双生児の場合はその半分、50%だ。両者を比較すると、類似性は2:1。つまり、遺伝子がすべてを決めるというのなら、一卵性双生児と二卵性双生児の類似度の相関性は、常に2:1が成り立たなければならない。たとえば、一卵性双生児の場合の双子の指紋の類似性は98%であり、二卵性双生児の指紋の類似性は49%だそうだ。この両者の関係性は2:1。指紋の違いを生じさせるのは、遺伝子以外の何者でもないということの証だ。
同じような比較を、指紋だけでなく、性格や知能など、幅広い分野で分析し、導き出した答えこそが、「家庭環境以外の要因」が極めて大きい、というものである。「家庭環境以外の要因」とは、すなわち、「遺伝」と「家庭外の環境(例:たとえば外で誰と出会ったか、など)」のことだ。その要素が、我々・・・少なくとも、私が思っていたよりも遥かに大きかったという事実は新鮮だった。
本書には、こうした分析の方法やその結果が詳細に綴られている。そして、こういう事実(人は生まれながらにしてみんな大きく異る)をしっかりと前提においたとき、社会均一の教育制度ではなく、能力制へ変えるべき・・・など、今の世の中の仕組みを改善すべきではなかろうか・・・という著者の提言へとつながっている。
会社で部下を育てる際、「なぜ、この人は、これが苦手なんだろうか」「天才でもなんでもない自分ができるくらいだから、この人にも、同じ環境を与えればできるはずだ」などと思うことはよくあるはずだ。しかし本書を読めば、「適材適所」「悪いところではなく、良いところを伸ばしてあげよう」などという声が、いかに正しい考え方であったか、そして「早く人材の適性を見極めてあげることがいかに大事か」ということがよく分かる。
事実を受け止めどう考えるかはその人次第だが、改めてその事実を冷静に知るという第一歩のために、親、先生、リーダー・・・人を育てる立場の人は、読んでおいたほうがいいだろう。
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