2017年3月20日月曜日

書評: 三の隣は五号室

久々の小説だ。小島慶子さんの呟きでこの本の存在を知って読んだ。尊敬する彼女の進める本なら、きっと面白いだろうと。

著者: 長嶋有
出版社: 中央公論新社


ユニークな本だ。今までこのようなスタイルの小説を読んだことはない。どうユニークかって?  

私は、北川智子氏の「ハーバード白熱教室」を思い出した。北川氏は、ハーバードも歴史授業で定点観測の視点をとりいれていた。特定の(限定した)地域の歴史が時間経過とともにどのように変わって言ったのかを追いかけるのだ。その定点観測対象が地域ではなくアパートに変わったようなもの、それが本書だ。舞台となる第1藤岡荘の5号室を、何年にもわたって定点観測した小説なのだ。アパートの歴史、アパートに住んだ人たちの歴史、その人たちの意図しない繋がり、それらを小説という形で見事に描いている。

なるほど、藤岡荘に限らず、人の住まいには歴史がある。賃貸ならなおさらだ。そこには想像しきれないほどのストーリーが詰まっている。本来なら知り得ない住人のストーリーを小説の力を使って、体験させてくれる。

ただし、ユニークではあるが、楽しんで読めるかどうかは好みは分かれるところだろう。登場人物は多いし、アパートの描写も多い。こうした描写に想像力を掻き立てられる人は没入するだろうし、そうした想像が苦手な人は入り込むのに苦労するかもしれない。私は後者だったが。

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