2021年2月22日月曜日

書評:日本の論点 2021〜22

「まぁまぁかな〜」というのが本書を読んでの感想。

日本の論点2021〜2022
著者:大前研一

自らのマクロ視点を養うため何かしらの気づきが得られればそれだけで儲けものと、だいたい毎年買っている本だ。そんなわけで、今回も買った・・・。

多少、学びはあった。例えば、デジタル庁に関しての指摘。

「デジタル丁創設に関しては『庁』と言っている時点で期待値ゼロだ。世界中でデジタル化をうまく行った国・地域では『省』の上に『スーパーデジタル省』的なセクションを作ってあらゆる省庁に命令する権限を与えている」(本書より)

類似例を海外から引っ張ってくるのは大前研一氏の常套手段だが、確かに「おっしゃる通り」と感じた。縦割りの強い官公庁組織において横串を通す形で作った組織なのだろうが、権限が弱ければ実効性が心許ないのは明白だ。

また、カジノ不要論についての話。

「カジノはもはや斜陽産業である。ラスベガスはもはや「売春とギャンブルの街」ではない。1990年代にテーマパーク型のホテルとコンベンション施設を整備し、各種スポーツイベントやシルクドソレイユ、人気歌手の上を誘致するなどして展示会や見本市、国際会議、そしてファミリーデスティネーション、リタイアメントタウンに完全に路線変更した」(本書より)

これも私の意識からは抜けていたこと。カジノの話になると、いつも論点は「治安」になるが、「そもそもカジノは斜陽産業である」と言われれば、日本のそれは「論点ズレ」を起こしていると言わざるを得ない。しかも、よくよく考えてみれば、日本の統合型リゾートも「カジノ」ってメディアが騒でいるが、「統合型(IR)」なのでカジノって全体のごく一部で、確か、IR全体の3%程度で・・・「カジノ=論点」はいよいよ変だ。

さらに、景気の話。

「資産リッチな国では、金利が高い方が資金に余裕が生まれる。1900兆円もの個人金融資産がある日本では、金利が1%上がれば19兆円の余裕が生まれ、個人消費につながる。安倍政権と黒田日銀のいわゆるアベクロバズーカはここに着目せずに10世紀の経済に則ったリフレ派の誤った政策を実行、金利を下げて国債を乱発した。その結果今日に至るも成果ゼロである。資産課税を一律1%とするだけで所得税をゼロにしてもお釣りがくる。個人と企業の固定資産と金融資産の1%を課税すれば50兆円。これに10%の付加価値税を加えれば、合計100兆円。」(本書より)

「へー、そういう考え方があるんだ」と思ったのだが、ただし、こちらは「はい、そうですか」と納得してはいけない分野だと感じた。実際、リフレ派の中にも説得力ある専門家がいて、その人たちからすると「は!?」的なところもありそうだ。

実際、大前研一氏は有名な人だし、ロジカルな説明の仕方をするので、説得力があるのだが、色々な分野における彼の発言に対する別の専門家の指摘を見ていると、間違った発言(しかも割とはっきりと断言しているのに)も多いようだ。

加えて、本書は彼が過去1年間にわたって月刊プレジデントに寄稿してきたものをベースに加筆修正したものである。だから、普段から、週刊ダイヤモンドや月刊プレジデント、東洋経済、エコノミストなど、メジャーどころのソースを見ている人からすると目新しいものはないかもしれない。

そんなことをいうと、「じゃぁ、読みたくないわ」と思ってしまう人もいるかもしれないが、私にとっては相変わらず価値のある本だと思っている。本書に載っている彼の見識そのものが必ずしもすごいということではなく、すでにいくつか紹介したように、自分で疑問に思いもっと詳しく調べてみたい!と思えるきっかけを与えてくれるからだ。

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