2013年5月18日土曜日

書評: 中学受験という選択

中学受験という選択
著者: おおたとしまさ
出版社: 日経プレミアシリーズ


■育児・教育ジャーナリスト・・・中学受験を語る

「中学受験したほうがいいよ」
「中学受験するなら小学校中学年からはじめないと」

小学三年生の息子を持つわたしは、最近、似た家族構成の親御さんたちから、このような言葉を頻繁に聞くようになった。わたしは現在40歳だが、学生時代にはこのような選択肢はほとんどなかったように記憶している。子供たちに選択肢が増えることはいいことだ。ただ、中学受験がなぜ注目されるようになったのか、なぜ人気を博しているのか・・・実のところ、わたしは中学受験のメリットがよく分かっていなかった。もっと言うと「勉強漬けになって子供がかわいそう」「結局は親のエゴに過ぎない」など・・・良く聞こえてくる主張は本当なのか、あるいは、ただの偏見に過ぎないのかさえも、理解できていなかった。そして、これはわたしだけではないハズだ。本書は、わたしを含めこのような疑問・悩みを持つ人たちのために書かれた本である。

ちなみに、著者のおおたまさとし氏は育児・教育ジャーナリストだ。どれだけの著名人なのか、実績を残している人なのかは知らないが、以前、水道橋博士のラジオ番組にゲスト出演した際に、氏の話す内容が至極まっとうに聞こえたので「では、本を読んでみようではないか」という気になり、本書に手を出すことになった次第だ。

■中学受験の良さを理解した上で、上手にトライするための虎の巻

こういった類の本を読むときには著者のスタンスを知っておくことが大事になる。人の意見に流されやすい人ならなおさらだ。著者が中学受験推進派なら、読み手も自然にそっちのほうに流されていくことになる。逆もまたしかりである。おおたまさとし氏はどうなのか。結論から言うと、”食わず嫌い否定派”である。つまり、「中学受験は駄目だ、駄目だ・・・とか色々言われているけれども、ちゃんと目を見開いて事実を確認して欲しい。その上で、そのメリットに納得ができたのであれば、積極的にトライすべきだ。」というスタンスである。

『中学受験といえば塾である。特殊な場合を除いて、まったく塾に通わないでの中学受験は無謀だ。しかし、塾に対する世の中のイメージがこれまた悪い。”お弁当をもたされて、夜遅くまで塾に通わされて、今の子供は本当にかわいそう”という声をよく聞く。多くの場合、思い込みではないかと私(著者)は思う。ベネッセ教育研究開発センターが・・・』(本書第二章 塾通いは本当に「かわいそう」なのか、より)

この著者のスタンスを本の構成で捉えると、全8章のうち、最初の1~3章(約4割)を中学受験に対する偏見払拭のために割いている。残りの4~8章(約6割)を中学受験をする上で知っておくべきことに割いている。特に後半では、中学受験に失敗した人、成功した人・・・の具体的事例を紹介することを通じて、読者に対する心構えを説いている。

■正しい決断を下すためのインプットの1つとして

この本から得られるアウトプットは人それぞれだ。たとえば私は(今後、どう気持ちが変化するかは分からないが、少なくともこの本を読んだ直後は)「あぁ、うちは中学受験はいらないかな」という結論を得た。これは本書のお陰で「中高一貫学校に進学した人のほうが、大学受験で有利になるのかも」という考えが必ずしも正しくなかったことがわかったからである。何よりも、やはり親子共々大変そう・・・という印象が強かった(笑)。もちろん、わたしとは逆に中学受験の合格発表のときにある家族が全員で涙を流した事例を目にして、「あぁ、やっぱり中学受験させてみようかな」と思う人がいてもおかしくはないだろう。

重要なことは、この本を読んだからと言って、過った決断を下してしまう・・・という可能性は低そうだ、ということである。むしろ、正しい決断をだすための有益な情報源の1つになるもの、と言えるだろう。自分の決断を担保するために、できれば別の著者の本も読んでおきたいところだが。

少なくとも・・・

・中学受験の功罪を知りたい人
・中学受験に疑念を持っている人
・中学受験をすると決めたけど、どんな心構えをしておくべきか知っておきたい人

そんな人にオススメの本である。

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