2013年5月4日土曜日

書評: 感じる科学

駅から自宅までの道のりで、普段とは違う角をまがって歩いて帰ってみる。すると・・・「ええっ! こんなところに、こんなにいい店があったのか!?」なぁんていう発見があったりする。いつもとちょっと違う行動をしてみただけなのに、とてもすてきな発見ができた・・・みなさんは、そんな体験ないだろうか!? そのときの得した感・・・といったら、もうなんともたまらない。

実はつい最近、そんな体験があった。この本を読み終えたときだ。

感じる科学
著者: さくら剛
出版社: サンクチュアリ出版



本はたいていアマゾンで買う。そしてたまに市営図書館で借りる。しかし、このときは地区センターという地元にあるとても小さな図書室に足を運んで本を借りた。蔵書も少ない。雰囲気も暗い。普通であれば、借りるモチベーションがわきおこらないところだが、「意外にこんなところでしか出会えない本があるかも」などといういい加減な期待をもって、借りたのだ。

■相対性理論から進化論まで

本書は、習ったはずだけど覚えていない、ニュースでよくみるけど理解できない、重要なハズなんだけど好きになれない・・・そんな”科学”のテーマを、かき氷の氷のようにかみ砕いてかみ砕いて・・・易しく解説した本である。光の話にはじまり、相対性理論や量子論・・・そこから発展してテレポーテーションやタイムマシンの実現可能性、宇宙の創世から終焉・・・果ては進化論にいたるまで、順を追って、幅広いテーマをカバーしてくれている。

たとえば、最近よく聞く暗黒物質(ダークマター)という言葉も登場する。ダークマターとは、宇宙を構成する要素の1つだ。人間が知っている要素(星やガスなどといった物質)だけでは宇宙全体の5%程度しか説明できないらしいが、宇宙の残りを構成する多くはダークマター(とダークエネルギー)だと言われている。だが、ダークマターは目で見ることも触ることも難しく、いままでずっと「そこにあるだろう」と言われ続けながら、まだその存在が証明されていないものだ。「空気のように風を切るように走ってみると肌で感じることのできるものならいざ知らず、なぜ、見ることも触ることもできないものを”あるはずだ!”なんて言えるのか!?」 わたしはこのことずっと疑問だった。この疑問について新聞の解説欄を読んでも、理解できなかった。が、本書はそんな疑問もあっという間に解決してくれた。

※ちなみに、この答えは逆説的に導かれたもので、ダークマターなるものが存在しないと、万有引力の理論だけでは、今のように地球が太陽のまわりをくるくるまわったり、月がいつまでも地球のそばから離れなかったり・・・ということを説明できないからだそうだ。

さらに、ここ数年で話題になった”神の粒子(ヒッグス粒子)”のニュース・・・覚えているだろうか。この本が発刊されたのは2011年12月なので、さすがにこの話題自体には直接、触れていないが、本書のお陰で、このニュースの持つ意味もある程度、理解できるようになった・・・かな。

欧州原子核研究機構(CERN)が、2012年に発見した「ヒッグスらしき」粒子は、本当に長らく見つかっていなかったヒッグス粒子であるとの確信をこれまで以上に深めたと発表した。ヒッグス粒子は、宇宙の物質が質量を持つ理由を解明するカギとなる粒子だ。(2013/3/18 ナショナルジオグラフィック ニュースより)

■数式の出てこない物理の教科書

前段で「かみ砕いてかみ砕いて・・・易しく解説した本」と書いた。そうなのだ。本書のすごいところは、物理バリバリの本なのに、数式がほぼ全くといっていいほど登場しないところにある。唯一登場するのはE=MC^2だが、これもまじめに理解する必要はない。自慢じゃないが、わたしは高校のときに数式の意味が全く分からず意義も見いだせず物理から脱落したクチだ。だが、そんなわたしが楽しんで読めてしまう本なのだ。

そして何よりも、この本を読んでいると、常になにかを頭に思い浮かべながら読んでいることが多いことに気がつく。いわゆる”ビジュアル化”しながら読めるというやつで、記憶に残りやすいのだが、著者の文才によるところが大きい。

『彼ら(ゴースト)が物体を通過する体を持ちなおかつ地球の重力をうけているのなら、ゴーストは床をすり抜けて地球の中心に向かって落ちていかなければおかしいのです。・・・(中略)・・・よってパトリック・スウエイジや松嶋菜々子さん演じるゴーストは、物理法則にのっとるならば恋人からはるか遠い地球の中心部で、身動きがとれないままクリンクリンと永久に回転を続けることになるのです。』(本書 万有引力の章より引用)

このように、数行に1回は、かならず”たとえ話”・・・というのか”横道”・・・というのか・・・映画やドラマの話、ドラえもん、北斗の拳、こち亀、ミニモニ、佐々木希、クレオパトラ・・・メジャーな話からサブカル的な話題に逸れる。もしかしたら、それがウザいという人も少しはいるのかもしれないが、わたしにはそれが、愉しくてたまらなかった。難しいテーマのハズの本なのにがっついて読んでしまった。

■普段と異なる世界へ足を踏み入れてみるのも一興

「聴いていて絵が自然に思い浮かび、なおかつ論理が通っていると、ストンと腹に落ちる、それが本当の意味で伝える力なのだ」

とは、池上彰氏が人にモノゴトを伝える上で大事にしている信条だそうだ(「学び続ける力」より)。そして、このビジュアル化を”科学”という世界で見事に体現したものが本書と言っても過言ではないと思う。難解であるはずのテーマをここまでわかりやすく、しかも、おもしろおかしく伝えてくれる本は、そうそうないハズだ。私もモノを書く立場でもあるので、著者の才能に嫉妬すら覚えるほどである。

「科学を理解したいけど、意味わかんねー」と嘆いている人達
「たまには変わった本、読んでみてー」と望んでいる人達

この書評を読んだのも、何かの縁だ。だまされたと思って、一度手に取ってみてはいかがだろうか。「ええっ!こんなところにこんな本あったの!?」・・・と、そんなお得感を味わえるかも。


【”楽しんで学べる”という観点での類書】

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