著者: 東野圭吾
出版社: 幻冬舎文庫
■警察に革新的技術がもたらされたときに何が起こるのか?
まさに夢のようなこの技術は極秘裏の試験導入ではあったが、警察において大きな成果をあげつつあった。そんな中、DNA捜査システムの開発・導入に携わった開発者の1人が大きな問題に気がつく。その問題発見のきっかけとなったのは照合時に頻出する”NF13”というコード。NFとはNot Foundの略で、DNAデータベース上で、照合元のDNAと一致または類似するDNAが全く見つからないときに表示されるエラーコードだ。その問題とは何なのか? それが明らかになろうとした矢先、その開発者が謎の死を遂げる。いったい何が起きたのか? そしてその開発者が指摘しようとした問題とはなんだったのか? 果たしてNF13というエラーコードが持つ真の意味は? 最新技術の裏に隠された巨大な陰謀が明らかになっていく・・・。
■最新技術をネタにした限りなくリアルなストーリー
この本を読み終えるまでの2日間。先が知りたくて知りたくて、隙間時間はひたすら本にかじりついていた。ストーリーや結末をどうとらえるかは人によって異なるところだが、少なくとも「読者を捕まえる魅力を十分に兼ね備えた本」ということだけは間違いなく言える。この本の何がいったい・・・そんなに興味をそそるのか。
それは、フィクションでありながら、ノンフィクションのような・・・妙なリアリズム感にあると思う。まず、小説に登場するDNA捜査システムだが、まだ現代の科学技術では無理とされるが、決してあり得ない話ではない。事実、この書評を書いている今、まさにこの瞬間、横にあるテレビでは遺伝子検査サービスなるものが登場した・・・と紹介されている。ただしちなみに、ネットで調べてみたところ現代の科学技術では、毛幹から適切なDNAを抽出できる成功確率は数パーセントだとか・・・。
妙なリアリズムを感じさせるもう1つの点は、このDNA捜査システムの活用のされ方だ。小説では試験導入という名目で、国民のDNAを極秘裏に採取しデータベース化を行っていることになっている。これは明らかにプライバシーの侵害で、違法行為だ。この話を聞いて何か思い出さないだろうか? そう・・・いま、アメリカで起きているプリズム(PRISM)だ。プリズムとは、テロ活動の予測や防止という目的のために、アメリカ政府が極秘裏にグーグルやフェースブックの個人情報を収集して監視するプログラムのことだ。この小説はこのプリズム問題が明るみに出る遙か前に書かれたものだが、権威ある者が、ひとたび強力な技術(力)を手にすると、どういうことが起こりやすいのか・・・DNA捜査システムの使われ方は、まさにノンフィクション以外の何者でもない。
■軽い気持ちで読めるなら・・・
さて、「プラチナデータ」の残念な点を1つ挙げるとすれば、後半にさしかかるとだいぶ色々な展開が読めてきたという点だろうか。最後までワクワク感を持ちたい読者としてはあともう少しだけ頑張って欲しかったところだ。
まぁ、仕掛けや最後のオチに満足するかどうか・・・これは人によって大きく分かれるところだと思うが、先に述べたように読者に「先が知りたい!」思わせる点では十分成功しているし、また、娯楽要素を提供しつつ、さりげなく今後の我々一般国民へ警鐘を鳴らしている・・・という点は興味深い。大きな期待を持って読むと裏切られるが、軽い期待で読むなら、そこそこ愉しめる価値ある本だと思う。
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