2013年6月7日金曜日

書評: 学校では教えてくれない日本史の授業2 天皇編

人生ではじめて日本史が頭に焼きついた。相変わらず面白い本を書いてくれる著者に感謝。

タイトル: 井沢元彦の学校では教えてくれない日本史の授業2 天皇論
著者: 井沢元彦
出版社: PHP出版


■点と点を結ぶ歴史の”裏教科書”

著者、井沢元彦氏特有の鋭い視点をもって日本の歴史を解剖するシリーズ第二弾だ(シリーズ第一弾はこちら)。今回は、天皇制についてだ。例によって歴史教科書にはおろか、学校の先生の話にも出てこないような”裏話”や”行間”を語ってくれている。

ところで、城郭研究者の西股総生(にしまたふさお)氏は、戦国時代の城のデザインから、当時の戦い方のみならず、当時の兵士達がどのように徴兵されていたのか、戦争のないときはどのように生活を営んでいたのか・・・を、ひもといて見せた。人文地理学の権威、足利健亮(あしかがけんりょう)氏は、地図に見てとれる地形や地名、番地などから、昔は土地が何に利用されていたのか、その土地に住む人々の昔の暮らしがどんなだったのか、どのような思いで戦国大名がその場所に城を建設したのか・・・をひもといて見せた。

実は、井沢元彦氏の”鋭い視点”というのもこうした人達に通ずるものがある。通常の歴史専門家が加味していない視点・・・すなわちたとえば、通常の学問に、宗教学や言語学などを加味することが新たな発見(著者曰く、当然の発見)につながっている。たとえば、幕府と朝廷の二立併存の話。かの藤原氏も、足利氏も、織田信長も、豊臣秀吉も、徳川家康も・・・決して、天皇を抹殺してその権威を奪うようなことはしなかった。著者はその理由について、日本人の怨霊を恐れる気持ちとケガレ(血を流すこと/流した者)を忌み嫌うという宗教観から見事に説明してみせている。仏教では輪廻転生や輪廻から解き放たれる解脱(げだつ)という考え方があるが、日本人(・・・いや神道といったほうがいいかもしれないが)にはどうやら、死=無/ろくなものではない、(だから忌み嫌うもの)といった考え方が強かったようだ・・・と、天皇のお墓の造りや埋葬の形態などから解説してみせているのだ。

■天皇を見つめることで日本史のすべてが浮き彫りになる面白さ

点と点を結んでくれる”学校では教えてくれない”シリーズにおける本書の見どころは、日本史に一本の太い線をとおしてくれることにあるだろう。逆に言えば、天皇制というテーマを深く掘り下げることで、これほどまでに、はっきりと日本史の全体像が見えてくるとは思わなかった。邪馬台国、豪族、聖徳太子、武士、大名、幕府、仏教、2・26事件・・・すべてが天皇制につながっている。

しかも本書で取りあげるテーマが誰もが興味を持つものばかりなのである。たとえば今ぱっと、私が思い出せるだけでも、以下のようなものがある。
  • 邪馬台国は結局どこにあったのか?
  • 古墳とはいったいなんなのか?
  • 白河上皇がとった院政(いんせい)は何がそんなに凄いことなのか?
  • 武士はなぜ天皇の地位を脅かさなかったのか?
  • 仏教は神道になぜ?どのように?とりこまれたのか? 

■読む者全ての頭を刺激してくれること間違いなし

著者も認めているが、この本に書かれていること全てが正しいとは限らない。だが、教科書に載っている歴史も正しいことは限らないのである。むしろ、そうでないことのほうが多いくらいだと思う(知っているだろうか? われわれが昔ならった仁徳天皇陵は、もう仁徳天皇陵とは言わないそうである。また、鎌倉幕府の設立年度は1192年よりももっと前だったという説が有力になってきているそうだ)。

であるとするならば、本書の価値を”書いている内容の正確性”だけで判断するべきではなく、むしろ、”どれだけ人の興味を刺激してくれるか”あるいは”既存の歴史をどれだけ補ってくれるか”で判断するべきだろう。そのようなわけでとりわけ、(もちろん、賛否両論はあるだろうが)
  • 受験勉強で日本史を丸暗記しようとして苦しんでいる人
  • 神道や仏教のつながりに疑問を持っている人
  • 天皇はいったい何者なんだと思っている人
  • 学校で歴史を教える先生方
といった人達には極めて有益になると思う。



【面白い切り口で歴史をひもとくという観点での類書】
 ・学校では教えてくれない日本史の授業(井沢元彦著)
 ・学校では教えてくれない日本史の授業 悪人英雄論 (井沢元彦著)
 ・地図から読む歴史(足利健亮著)
 ・戦国の軍隊(西股総生著)

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