2016年1月3日日曜日

書評: 考えすぎた人(お笑い哲学者列伝)

いやぁ~、久々に笑わせてもらった。小難しい哲学者の本で笑えることなんてそうそうあるだろうか。

お笑い哲学者列伝 考えすぎた人
著者:清水義範
出版社:新潮文庫


本書は、有名な哲学者12人の考えや生い立ちについて、わかりやすく・面白く・・・物語調で解説した本である。12人の哲学者とは、

ソクラテス
プラトン
アリストテレス
デカルト
ハイデッガー
ウィトゲンシュタイン
ルソー
カント
ヘーゲル
マルクス
ニーチェ
サルトル

だ。あらかじめ言っておくが、私は哲学が好きじゃない。むしろ、どちらかと言えば嫌いだ。先に挙げた12人の哲学者の中には知らない名もある。ウィトゲンシュタインなぞ、初めて耳にした。ではなぜこの本に手を出したかと言えば、自分の知らない世界のことも知っておきたい。ただしどうせなら、苦無く学びたい・・・そう思ったからだ。

結果から言えば、まさに要望を満たしてくれる“当たり本”だった。前段で述べたように、わかりやすく・面白く書かれている。そして途中で爆笑する機会が2回ほどあった。たとえばアリストテレスの論理学の話。三段論法に関してのアレクサンドロスとその氏師アリストテレスとの物語は、かけあい漫才のようだった。

学友(イヌチヨロス)『(1)すべての動物はフンをする。(2)すべての馬は動物である。(3)すべての馬はフンをする。どうでしょう』
アリストテレス『正しいよ。正しく三段論法を使っている。この三段論法は第一格第一式というものだ。では、第一格第二式の三段論法を教えよう』
アレクサンドロス『すべての馬がフンをすることぐらい、三段論法で考えなくたって知ってるよなぁ。先生が言いたいのは、この世に便秘の馬はいないってことなのか』
(本書「アリストテレスの論理が苦」より)

 本書・・・というか著者がすごいのは、とにかく小難しい話をあの手この手でかみ砕いて説明しようとしているその工夫の程度だ。あるときは、このアリストテレスの例のように、当時を舞台にした物語調で語っている。あるときは、現代社会に主人公を設けて、コンパの中で哲学者像を語っている。またあるときは、死んでいるはずの哲学者を特殊な装置でこの世に呼び出して対話する形をとっている。残念ながら、全てが全て、分かりやすく・面白いとは言えない。たとえば、箇条書き調で書かれているウィトゲンシュタインの章は、正直、読みたい気には全くさせられなかった。また、描かれている哲学者の考え方もどこまで正確なのかも分からない(著者も本書の中でたまに自信なさげに書いている場面があったからだ)。が、そのチャレンジ精神と実際にそのいくつかでは目的を達成させている点を強く賞賛したい。

参考までに私的に興味を持てて読めたランキングを以下に示したい。

1.アリストテレスの論理が苦 (←大爆笑)
2.ソクラテスの石頭 (←爆笑)
3.ヘーゲルの弁証法的な痴話喧嘩 (←哲学者の変人っぷりを実感)
4.サルトルの非常識な愛情 (←実はこんなやつが現代の自分の身近にいることに驚嘆)
5.マルクスの意味と価値 (←実は自分も思っていた疑問に思ってた)
6.プラトンの対話の変 (←難しいイデアの話を飽きずに読み通せた)
7.ルソーの風変わりな契約 (←授業で学ぶ前に読んでおきたかった)
8.デカルトのあきれた方法
9.ニーチェの口髭をたくわえた超人
10.カントの几帳面な批判
11.ハイデッガーの存在と、時間
12.ウィトゲンシュタインの奇妙な語り方

ところで、この本を読んでいて、なぜか以前に読んだ「感じる科学」(さくら剛著)が頭に思い浮かんだ。この本も難しい物理学の内容を愉快に読めるよう書かれたものである。今回、「考えすぎた人」を読んで、改めて本の無限の可能性とと人間の想像力の豊かさを感じた。人間の想像力・・・哲学者のみならず、本書の著者の想像力は非常に豊かだと思う。どうしても自分に照らし合わせたくなるが、自分の仕事で書く文章や各種資料もそうだし、ブログもそうだが、いつも一定の型を破れないでいる。本書は、哲学者たちが何を考えていたかを伝えてくれるだけでなく、真に想像力を働かせるとはどういうことかを知らせてくれるという点で、大きな価値を感じた。

そんな本書だが、世界史などにおいて意味の無いカタカナの丸暗記で困っている受験生や、私のように哲学なんて・・・と毛嫌いしている人たち、これから哲学を勉強しようかと思っている人たち・・・に特に向いている本だと思う。哲学者の考えが全てわかるものではないが、食わず嫌いを助けてくれる良書だと思う。


【楽しく学ばせてくれるという観点での類書】
 ・感じる科学(さくら剛著)
 ・数学物語(矢野健太郎著)

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