自分で物事を考えるためのインプットを得ることができたという意味で本当に良かった。いつも読んだ後、線を引くのだが、読了後に見返してみると多くの箇所に線を引いていた。
本書を読み始めて真っ先に思い起こした記事がある。佐藤氏の記事ではないが、ギリシャの破綻に関して、EUが“見放す・見放さない”のすったもんだをしている背景に関する村田奈々子東京大学特任講師の次の記事である。
『ギリシャの(EU)加盟には、七十年代半ばの冷戦時代の状況が深くかかわっている。・・・南欧諸国の政治の大変動が、EC諸国にとって脅威となりかねなかったからである。1974年、ギリシャの軍事政権が崩壊した。ギリシャは軍事政権を支えたアメリカへの対抗心から、NATO軍事機構を脱退した。一方それまでギリシャ国内で抑圧されてきた、左翼による政治活動が活発化した。民政に復帰したとはいえ、ギリシャの将来は不透明だった。・・・このような南欧の不安定な政治状況は当時のEC諸国にとって真の脅威だった・・・民主主義を擁護するヨーロッパという、政治的アイデンティティを表明することで、他の南欧諸国の左傾化を阻止できると考えたのである。・・・』
(月刊誌中央公論2015年4月号「ギリシャ国民がヨーロッパに突きつけた“NO”」より)
多くのニュース番組が、ギリシャは甘え過ぎだとか、ドイツはどれだけ恩恵をうけているかを忘れているとか・・・などと表面的な報道だったのに対し、こうした歴史的背景から考察を述べた記事は目から鱗だった。
そして、佐藤氏が書いた本書。同じようなこと・・・すなわち、起きた事象の表面だけを見て良し・悪しを判断しようとしていることが他の問題でも起きてないか・・・まさにそこを掘り下げた本だと思う。取り上げるテーマは、ウクライナ問題、スコットランド問題、中国問題、中東問題、沖縄問題など・・・多岐にわたる。
例えば、アルカイーダなどイスラム原理主義の話。本書のお陰で、他の多くの事案同様に、民主主義 vs. 共産主義の戦いがその背後にも、あったことを理解できた。民主主義に対抗するため、ムスリムコミュニストという概念のもと、民族を一致団結させようとあおったのもロシア(レーニン)ならば、それが大きくなりすぎて脅威を減らそうとトルキスタンを無理矢理5つの国に分割したのもロシア(スターリン)だったとのこと。ソビエトが崩壊したあと、混乱が起き、イスラム原理主義を生み出すことにもつながったという・・・。
東ドイツや西ドイツ、韓国や北朝鮮、イラクやシリア、パレスチナ、ベトナム・・・そして、タジキスタン、ウズベキスタン、キルギス、トルクメニスタン、カザフスタンなど・・・今起きている世界の悲劇は、勉強すればするほど、主義、宗教、民族など複雑に絡み合った結果であると感ずる。週間少年ジャンプに出てくるような正義対悪などといったそんな単純な構図ではないことが本当によく分かる。
ところで、本書を読んでそうしたことが分かると何がいいのか? 何が自分の人生に役立つのか? 単にうんちくが増えるだけじゃないか、そういう見方もあるかもしれない。
佐藤氏は、一義的にはビジネスマンである国際的なセンスが求められるからこうしたことは当然のように知っておくべきだと言う。そういえば、先日読んだライフネット生命会長の出口氏の「人生を面白くする本物の教養」の中でも似たようなことが書いてあった。世界のトップを走る政治家やビジネスマンは、一見ビジネスに関係なさそうなことでもしっかりと勉強している・・・と。私自身も本書に書いてあったようなことを2000年頃にイギリスに渡る前に知っていれば、当時一緒に働いていたクルドやパキスタン人の同僚と、もっと良く立ち回れただろうな・・・などと心底思う。
佐藤氏は次のようにも語っている。歴史は繰り返す。それは歴史が証明している。だからこそ、本書を読み、歴史を学び、そこから今起きている本質を見抜く嗅覚を身につけることで、過去に起きた戦争が再び起きてしまう・・・という最悪の事態を避けたいのだと。
佐藤優氏の記事は過去に色々な雑誌で見るが、いつも彼の鋭い洞察力には感心させられる。中学生程度の歴史や地理の知識があれば、そして集中して読めば、頭に入ってくる。池上彰さんの本よりもちょっとでも難しい本は無理・・・という人で無い限りはオススメだ。
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