著者:井上麻矢
出版社:集英社インターナショナル
そんな本をどうして私が手に取ったかと言えば、“井上ひさし”の生き様・死に様に興味を持っていたからだ。私が井上ひさしをきちんと知ったのは「井上ひさしと141人の仲間たちの作文教室」を読んだときのこと。これは宮城県一関市で彼がボランティア作文教室を開いた際の講義内容をまとめたものだが、その指導内容に、心底ひきこまれた。実際に自分の書き方にも生かされている。だから、とても尊敬していた。
77つの金言は、劇作家人としてのものだが、全て普通のビジネスマンにも当てはまるものだ。私の印象に残ったいくつかを紹介するとたとえば次のようなものだ。
・策略に勝つために策略を立ててもダメ。策略に勝つのは正直であること。正直は最良の政策。
・むずかしいことをやさしく、やさしいことをふかく、ふかいことをゆかいに、ゆかいなことをまじめに書くこと。
・言葉はお金と同じ。一度出したらもとに戻せない。だから慎重に良く考えてから使うこと。
・考えて、考えて、これ以上はもう考えられないと思って進み出したらもう考えない
・朝、目が醒めた時、「眠いし疲れているけれど、今日も一日頑張ろう!」と思えないのであれば、今の生活、どこかで自分に嘘をついて我慢している。その我慢がどこにあるのかを逃げないで見つめること
・人の批判は自分を律するいい機会。むしろ観察するつもりで聞いておいて損はない。
ただ一方で、冷静に捉え直すと、ふと疑問がもたげる。それは、仕事人としての格言ではあっても、家庭人としての格言になり得るだろうか・・・という点だ。著者によれば、井上ひさしは、(本人は生還するつもりではいたが)自分の死後3年のプロデュースはできていたと言う。よく見れば、77の金言も、全て仕事人として発言ばかりである。(Wiki情報だが)離婚前、家庭ではDVを起こしていたこともあったという。「いや、井上ひさしは、”こまつ座”という触媒をとおして、失われた娘との時間を取り戻そうとしていたのだ・・・親子愛じゃないか」という人もいるかもしれないが、どちらかと言えば、私には師弟愛のように写る。井上ひさしは、良くも悪くも、骨の髄まで職人だったということなのだろう。つまり、本書に述べられた彼の金言は、一人の道を極めるプロフェッショナルとしては参考になるが、一人の人間としての生き様・死に様までが参考になるわけではないかも・・・と、ふとそう思った次第だ。
ただし・・・ただし・・・井上ひさしが魂を注ぎ込みつづけた劇団”こまつ座”の劇・・・これは、ぜひ見てみたいと思った。本当に見てみたい。
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