2012年8月13日月曜日

書評: 数学物語

「こんな教え方をしてくれる先生がいたら、人生の幅がもう少し広がっていたかもしれない」

数学物語
著者: 矢野健太郎
発行元: 角川ソフィア文庫



■定規がなくて、直角はどうやって作る?

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「数学物語」は、数学が生まれた背景を通じて、数学の魅力に迫り、数学が好きになり、そして、いつの間にか数学力が身につく・・・そんな本だ。

本書の最大の特徴は、数学の起源・・・すなわち、”数字の誕生”にはじまり、私達がよく知る超有名な”数学の公式”にいたるまでを、歴史的背景や自然、日々の生活に密接に結びつけて、解説していることにある。

たとえば「定規のない時代に、どうやって直角を作り出したのか」という問題。直角が作れなければ、ピラミッドの石も作れない。

言われて、はたと気づく。直線は自然の対局にあるもの。そんな直線で形成される直角もしかり。今でこそ、定規や分度器を与えられて当たり前のように直角を作ることができるが、そういった道具のない時代に、どうやって直角を作り出せたのか?

ちなみに正解は、右図の通り。縄を1本用意し、これに12個の等間隔に開けた結び目を3:4:5に分けると直角ができる。

このほかにも、「棒きれ一本でピラミッドの高さを図るにはどうしたいいのか」、「海岸から船までの距離をどのように図るのか」など、読者の興味をそそる形で数多く紹介されている。


■宗教と科学は表裏一体

ところで、「ダ・ヴィンチ・コード」で有名な、小説家ダン・ブラウン氏は、小説「天使と悪魔」の中で、物語を通じて、”宗教と科学は表裏一体である”ということをうたっている。そのときは、そんなものかな・・・と何気なしに思ったものだが、「数学物語」を読んでいると、まさに、その意味を肌で感じた気にもなる。

たとえば、コンパスで円を描いて、そのコンパスの頭をそのまま円の中心部に当てて、コンパスの形に円を等分に切っていくと、ちょうど6等分になると言う。

「どうしてそうなるのか?」

そこには偶然とは思えない・・・誰かの意思が介在しているようでもあり、そのような法則を追求することは万物の創造主に近づける・・・そんな意識が芽生えてくるのは決して不自然なことではない・・・そう感じる。

実際、本書を読むと、昔の人達がいかに、定規とコンパスだけで定理を導き出すことに腐心していたのかが伝わってくる。その行為に”美しさ”を感じていたようだ。

そんな精神がフリーメーソンなどの秘密結社を創りだしたことすらも、なんとなく納得できてしまう。

■前半はとっつきやすいが、後半にやや息切れも

聞けば、我々が慣れ親しんでいる、アラビア数字・・・"1,2,3,4,5,6,7,8,9,10..."、元はインドで生まれたものだと言う。ところが、立地の影響で、インドからアラビアへ、アラビアから世界中へ伝播したらしい。

と、まぁ、こんな感じで非常にとっつきやすい本で、気がつけば数学力が身についている。

が、そんなわかりやすい本も、後半にいくにしたがって、徐々に難しくなる。小学校・中学校で習う数学が多いが、正直、全く頭を使わずにぼんやりと読める本とは言いがたい。

最後は、「パスカルの円錐曲線試論」や「オイラーの公式」にまで言及する。わたしは、数学力を身につけることが目的ではなかったので、難しくてつかれる箇所はさっさと、読み飛ばしてしまった。

■数学に面白みを感じられない人に

わたしは、数学は決して得意ではない。高校生のときには、サイン・コサイン・タンジェントの話についていけず挫折した。文系の道を選んだ。

そんなわたしでも、少なからず興味を持って読むことができた本である。学校で公式を習ったときは、なんとも思わなかったが、本書を読んで、これらを発見した天才達に改めて感動すら覚えた。

200ページたらずの本。ピタゴラスの定理やアルキメデスの原理などを習い始める中学3年生以上・・・そして、わたしのように数学を毛嫌いにしている人にオススメだ。

【楽しめながら何かを学習できるという観点での類書】
書評: The Goal(ザ・ゴール)
・書評: It's Not Luck(ザ・ゴール2)
・書評: 学校では教えてくれない日本史の授業



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