2016年1月17日日曜日

書評: 超一流の雑談力

“雑談”と言われて、あなただったら何を思い浮かべるか? 私なら、近所のおばさんが思い浮かぶ。同じ話題で1時間でも2時間でもしゃべり続けることができる力??? いやいやここで取り上げたいのはその“雑談力”ではない。そうではなくて人間関係や仕事の質を根本から変えてくれる魔法のようなメソッドとして力である。本書の著者はそれを“超一流の雑談力”と呼んでいる。

超一流の雑談力
著者:安田正
出版社:文響社

■雑談力を向上させる38の必殺技
雑談力をどうやって向上させるのかの指南書である。明瞭簡潔に全38からなる秘儀が書かれている。最後の章では「今日から始める雑談トレーニング」と称して、「エレベータで何階ですか?・・・と聞いてみる」など・・・明日からすぐに実践できるトレーニング手法を紹介している。

■特徴は即効性と新鮮さ
最近は出る本、出る本・・・読みやすさを意識したものばかりなので、もはや特徴とは言えないのかもしれないが、本書も例外なく読みやすい。そして、読み終えた瞬間から実践できるようにといろいろな配慮がなされている。とにかく恐ろしいほど早く読み終えることができるので、即効性がきわめて高いといえる本だろう。

加えて、本書の扱うテーマは意外に新鮮さがある。伝える力、失敗する力、学び続ける力、聞く力など・・・あえて勝手に呼ばせていただくが・・・いわゆる“力シリーズ”が、続々と出る中で、カバーされていない領域だったように思う(ただ、力シリーズは、個人的にはもうそろそろおなか一杯だけど)。

■結局は些細なことの積み重ね
冒頭で述べたように著者は本書で取り上げる雑談力を「人間関係を構築できる魔法のようなメソッド」と定義するが、“魔法”というのはどうかなぁ・・・というのが私の印象。むしろ、ちょっとしたことの積み重ねが大事といった印象で・・・この点では、“基本こそが大事”、“原点回帰”といった言葉のほうが適切なように思った。

些細なことの積み重ね・・・は、ほかの力にも通ずる点が多々ある。例えば、ファシリテーションやプレゼンテーションスキルなど。ファシリテーションであれば、アイスブレーク、休憩の取り方、喋りたくなる最大人数構成を意識した人員配置をする・・・など。プレゼンテーションであれば、目線の位置、抑揚、ジャスチャー、間の取り方・・・など。これが雑談力になるとどうか? 高い声であいさつを心がける。笑顔で接する。相槌や質問の仕方を工夫する・・・などなど。

■教養と一緒に身につけたい
面白いのは、この本を読んだ後、やはり心のどこかでそれを意識している自分がいるということだ。会社で仲間にあいさつする瞬間・・・エレベーターに乗った瞬間・・・ふと本書のことを思い出す。まぁ、半年もしたら忘れてる可能性は高いが・・・それにしたって、それはそれで読んだ意味があったというものだ。これはまごうことなき事実である。

ニワトリが先か卵が先か・・・。多分、営業マンになるような人は、そもそも著者のいう雑談力を兼ね備えているからなった人もいるわけで・・・必ずしも「自分は接客業だから」という理由で飛びつく必要はない。純粋に人間関係構築に自信がない・・・と思う人なら、読む価値はあるだろう。

ただし(本書に限った話ではないが、こうした類の本を読むうえで)一点留意したいことがある。知識・技術力向上には、短期的な視点と中長期的な視点の2つが必要だと思う。短期的な視点とは、本書が取り上げているような即効性の高いテクニックである。ちょっと意識するだけで、あるいは、ちょっと工夫するだけで人生が愉しくなるなら、知らない手はないだろう。そして、中長期的な視点とは、その瞬間は何に役立つかわからないが、じわじわと後から効いてくるもの・・・先日読んだ出口ライフネット生命会長兼CEOの「人生を面白くする本物の教養」に通ずるような・・・教養というやつだ。

短期・中長期・・・やはりこのバランスが大事だと思う。こうした認識だけはもっておきたい。


【いわゆる“力”シリーズという観点での類書】

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