●顧客目線を実践したい一心で手を出した
著者の鈴木敏文氏が結果的に成功したものはその多くが、提案当初、たくさんの人から反対されたものばかりだった・・・という。セブン銀行やおにぎり販売、共同配送・・・などなど。セブン銀行のときは取引銀行の頭取までもが直接訪問してきて反対したというからびっくりだ。顧客目線が重要と言いながら、いかに顧客目線じゃない人が多いかということを示すのにこれほど分かりやすい例はないのではなかろうか。
セブン-イレブンに関する本は過去に1冊に読んでおり、鈴木敏文氏の考え方はある程度わかっているつもりだ。それでも、今回改めて彼の本に手を出したのは、顧客目線・・・が分かっていても、実践しきれていないと感じるからだ。まるで、顧客目線から引き離そうとする強力な磁場が働く中にいるかのようだ。油断するとすぐに売り主目線になっている。
この強力な磁場から抜け出すためのヒントが少しでも得られれば・・・という思いから、本書に手を出した。そして結論から言えば、その希望はある程度叶えられたと思う。
●顧客目線の第一人者が語る仕事術
「売る力」は、顧客重視の第一人者といっても過言ではない、鈴木敏文氏が執筆した本だ。ご存知の通りセブンイレブンは競争が激化しているコンビニ市場にあって、コンビニ業界・・・いや小売業界の王様と言える。その大きな原動力になってきたのは、間違いなく鈴木敏文氏である。どんな環境変化にさらされてもタイムリーに顧客の心を掴み、売れる商品を提供し続けてきた鈴木敏文氏のアプローチ方法が、本書には書かれている。
●本書が読者にもたらす3つの価値
3つの理由で価値ある本だと思う。
1つめは、顧客目線とは何たるかを教えてくれる点だ。顧客目線とは、売れる商品を作り完売させることではなく、顧客が買いたいと思う商品に欠品を出さないことだ・・・という鈴木敏文氏の話が、印象的だった。Francfranc(フランフラン)高島氏の「横(ライバル)を見るのではなくひたすら客だけを見続けた」と言う対談話は、胸にぐさりと突き刺ささった。
2つめは、顧客目線を持つにはどうしたらいいかを教えてくれる点だ。顧客目線を持つには、「顧客のために」という思考ではなく、「顧客の立場で」という思考が大事という鈴木氏の話は至極まっとうだ。そのほかにも、セブンイレブンのブランディングを担当したクリエイティブディレクター佐藤可士和氏の赤い携帯電話の事例話が面白かった。
3つめは、顧客自身も気づいてない顧客目線というものをどうやって持つかを教えてくれる点だ。ただし、この点については昨日読んだ堀江貴文氏の「アイデア自体の価値は下がっている。重要なのは実行に移すかどうかだ」という言葉も思い起こされる。その意味では、ヒントはごろごろ転がっているハズで、ちょっとした工夫で、気づけるようになる・・・ということなのだろう。AKB48で有名な秋元康氏の予定調和の壊し方に関する対談話や、自らの声にいかに耳を傾けるかという鈴木敏文氏自身の話が興味深かった。
●会社の仲間に伝えたい
あの鈴木敏文氏が敬意の念を抱いているという人達の話は、有名な人ばかりだ。そして期せずして共通しているのは、みんな地道で尋常じゃない努力をし続けているという点だと言う。
うちはB-to-Cじゃないから。そういう声もあるだろう。だが、顧客重視に業種・業態など関係ないはずだ。みんな顧客目線に立つために、地道で尋常じゃない努力をしつづけてきているんだ・・・ということを、わたしの会社の仲間にも伝えたいし、読んで欲しい。そう思わせてくれる本である。
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