2011年7月8日金曜日

書評: 生き残る判断生き残れない行動

(※あまりに多忙で、読むべき雑誌や書籍に目を通せていない事態が続いていたため久しぶりの更新)

2011年3月11日東日本大震災当日・・・

・三陸沖は大津波に飲み込まれ信じられないほどの犠牲者を出した。
・東京電力福島第一原発も津波に飲み込まれ電力供給が停止した。
・帰宅難民が道に溢れ一歩間違えれば二次災害を起こしかねなかった。

被災から4ヶ月が経過する今に至っても、”想定外”という言葉が頻繁に耳に入ってくるが、果たして、これらはみんな想定外だったのか。いや、いずれもある程度、過去に予測されていた事態である。

実は、私たちの周りには、将来の悲劇を避けるためのチャンスがいくつも転がっているにも関わらず、多くの人がそれを見逃してしまっているのではないだろうか・・・と、つと思う。

そんなことを胸中に抱きつつ、読んだのが次の本だ。

タイトル: 生き残る判断、生き残れない行動
価格: 2,200円

この本は、アマンダ・リプリー氏が、大事故・大災害における人の意識や行動について、生き残る法則性を導き出すことを目的として、多くの事例データや実際の被災者インタビュー、著者自身の体験を通じて学んだことをまとめたものである。

■被災時に誰もが通る「否認」→「思考」→「行動」というステップ

簡単に中身について触れておくと、著者によれば、事故・災害に直面した人間は必ず一定のプロセス、「否認」→「思考」→「行動」を踏むという。最後の「行動」という段階まで昇りきれなかった人や、あるいは、このいずれかのステップで誤った判断・行動をとった人の多くが命を落としているというわけだ。

なお「否認」という段階とは、「危機に直面した直後に、現実を認めようとせず不審の念を抱く」という意味だ。たとえば「被災直後はあまりの事態の大きさに、信じたくない」というケースや、「過去の体験を過信するあまり、事態の大きさを、深刻なものとして受け止められない」というケースがこれに当てはまる。

この著者の主張を聞くにつけ、先日、仙台で被災された企業の常務にインタビューしたときのことが思い返される。この企業では工場の8割が被災したが、幸いにも死傷者は出なかった。しかし、津波が襲ってきた当初、再三の避難勧告を出したにもかかわらず、逃げなかった社員が4人ほどいたそうである。常務曰く「そんなにひどい津波になるわけがない、と高をくくっていたのではないか」とのことだった。

つぎに「思考」とは、否認から目覚めた(目の前で起きている事態を、ただならぬ事態であると気がついた)とき、人が次に踏むプロセスだ。この際、人は自分自身で結論を出さず、身近な誰かに相談することが多いそうだ。この相談にやたらと時間を費やし、一分一秒が大事な災害で命を落とした人も数多くいる、と著者は語る。

『911では生存者の少なくとも70パーセントが退去しようとする前に、他の人と言葉を交わしていたことが連邦政府の調査で分かった。生存者は何千本もの電話をかけ、テレビやインターネットのニュースサイトを確かめ、友人や家族にメールを送った。』

そして最後に「行動」という段階に移るわけだが、この段階でパニックに陥る人、麻痺したかのように全く身動きのとれなくなる人、ストレスにより視野が狭くなり(本では教唆視野と言っている)正しい行動をとれなくなる人が少なくないそうだ。

「では、どうすればいいの?」と疑問に思うところだが、色々な成功体験が載っているので、それは本を買ってぜひ読んでいただきたい。1つだけ触れておくと、”(体にたたきこむ)訓練”が大事である、ということらしい。911で死者を出さなかったモルガン・スタンレー社では、その8年前に起きた爆破事故を教訓として、毎年徹底的に訓練をやってきていたという。

そういえば今回の東日本大震災でも、高い評価を得られた組織(例:オリエンタルランドなど)の多くで、実は数多くの”訓練”を行ってきていた、というのは有名なところである。

■豊富な事例が魅力

正直、この本は全体的に”まとまり感”に欠けた感じが否めない。しかし、それも取り扱っている事例件数が膨大であるということを考えれば仕方のないことなのかもしれない。

1917年カナダのハリファックス港での貨物船モンブラン号の大爆発事故、1958年マンチェスター航空機事故、1979年のスリーマイル島原子力発電所事故、1993年の世界貿易センター爆破事件、2000年のヴァージニア工科大学銃乱射事件、同年ロシア原潜クルスクの沈没事故、2001年のアメリカ同時多発テロ事件、2005年のハリケーン・カトリーナ大災害・・・などなど、

ここには書ききれないほど多くの事件が取り扱われており、こうした事件を追うだけでも価値がある。

■自分を生かすも殺すも、結局は自分次第

さて、私自身はリスクマネジメントコンサルタントという肩書きの後押しもあってこの本を読んだことを否定しないが、正直、この本は誰が読んでも為になる本であると思う。私自身、この本で語られる様々な事例を自らに、また、家庭に当てはめてみて、改めて考え直さなければいけないなと思う点がいくつもあった。

今回の東日本大震災で災害に対する備えが必要だな、と少しでも感じた人は、読んで損のない本だ。

自らを救うチャンスは目の前にたくさん転がっている。それを活かすも殺すもみんな自分次第だ。


【リスクという観点での類書】
リスク、不確実性、そして想定外(植村修一著)
ケースで学ぶERMの実践(中央経済社)
地域防災力を高める(山崎登著)
巨大災害のリスク・コミュニケーション(矢守克也著)

===2011年11月5日(追記)===
2011年10月3日にNHKスペシャルで放送された”巨大津波「その時ひとはどう動いたか」”で、東日本大震災における名取市の動きを観察・分析した結果が印象深かった。正常性バイアス、愛他行動、同調バイアスといった行為が観察されたと言っていたが、まさにリプリー氏がこれまで過去の災害で見てきた行動と同じものが観察された、というのだ。我々はこれをどう活かせるだろうか、いや、活かさねばならない。

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