2011年10月7日金曜日

ディズニーランドが東日本大震災という苦境を乗り越えた理由

”東日本大震災での対応が素晴らしかった企業の1つ”と言えば、ディズニーランドの経営で有名なオリエンタルランド社が思い浮かぶ。従業員の9割がバイトという社員構成でありながら、迅速かつ懇切丁寧な来場者への対応で数万人の安全を確保した。その手際の良さといったら見事というほかない。

実際、同社6月の株主総会では、経営陣に対して賛辞の声があがったそうだ。TBSテレビでは特集が組まれ、その対応の素晴らしさについて専門家の方も素直に褒めていた。地震、液状化、数万人の帰宅困難者、不要不急のビジネス・・・こうしたネガティブキーワードのオンパレードの中にありながら、賞賛を浴びるにいたった事実を単に偶然と片付けることはできない。

さて、そんなオリエンタルランド社の方から最近、同社の地震対策について話を聞くことができた。

「同社のいったい何が最も評価されるべきことなのか?」
「我々が学べる点はどこにあるのか?」

私自身の率直な感想を以下に触れておきたい。

同社の対応について、震災後良く語られるソフト力とハード力・・・テレビでも報道されていたが、この両方についてバランス良く対策が取られていたのは間違いなさそうである。ソフト力という点では、年180回の防災訓練に裏付けされた従業員1人1人の防災スキルの高さはもちろんのこと、「自分たちがお客様を守らなくて誰が守るんだ」という現場での当事者意識の高さが際立っていたように思う。ハード力という観点では、最悪のシナリオを想定した備蓄管理(5日間数万人分の水と食料の確保をしていた)、独自のレスキュー車の所有、液状化への事前の備え、リスクファイナンス(保険の一種)の用意、といった点を挙げることができるだろう。

ただし、これらを”彼らがとってきた対策そのものが素晴らしかったから良い結果が出たんだ”と、安易に片付けてはいけないと思う。

本当に着目すべきは「何故これだけの対策をとる気になったのか」・・・という理由そのものではないだろうか。

「どうして従業員は当事者意識が高かったのか」
「どうして年180回も防災訓練をしようと思ったのか」
「どうしてそこまでお金をかけて液状化対策を実施してきたのか」
「どうしてレスキュー車まで自社で保有する気になったのか」

思うに、理由はいくつかあるだろうが、その1つには「従業員誰もが、ディズニーランドという夢の国の世界の一員なのだ」という意識付けを会社が徹底的に行ってきたことにあると思う。オリエンタルランド社では、従業員のことをキャスト(出演者)と呼んでいる。

そして何よりも最大の理由は、オリエンタルランド社の経営方針やコアコンピタンス(強み)・・・いやレゾンデトール(存在意義)が、マネジメントをはじめ社員全員にはっきりと理解されていたためではなかろうか。そうしたものを守らねばならない・・・と理解されていたからこその、こうした対策だったのではないか。

オリエンタルランドの経営方針には次のようにある。

『我が社のミッションは、自由でみずみずしい発想を原動力に すばらしい夢と感動 ひととしての喜び そしてやすらぎを提供することである』


※リスクファイナンス
リスクの顕在化に備える資金面での対応のことであり、同社のケースでは、災害規模(被害の程度ではなく、発生した地震の大きさに比例させて)一定額が速やかに支払われる保険を特別に組んでいた、と言われている。

【関連リンク】
・東日本大震災後に同社への影響を心配した私の記事
・オリエンタルランド社(企業ミッションをうたったHP)

0 件のコメント:

書評: 3 行で撃つ <善く、生きる>ための文章塾

  「文章がうまくなりたけりゃ、常套句を使うのをやめろ」 どこかで聞いたようなフレーズ。自分のメモ帳をパラパラとめくる。あったあった。約一年前にニューズ・ウィークで読んだ「元CIAスパイに学ぶ最高のライティング技法※1」。そこに掲載されていた「うまい文章のシンプルな原則」という記...