2011年10月23日日曜日

書評: 運命の人

作風が大好きでほとんどの作品を読んできた。そして今回、ついに彼女の最新作「運命の人」を読むことができた。

「運命の人」(全4巻)
著者: 山崎豊子
発行元: 文春文庫

■1人の男を通じて見る沖縄返還史

時は、昭和46年。主人公は、毎朝新聞政治部記者、弓成亮太(ゆみなりりょうた)。政治家・官僚に食い込む力は天下一品、自他共に認める特ダネ記者。沖縄返還をめぐる鮮烈なスクープ合戦の中、弓成自身が、妻が、同僚が、仲間が・・・強大な国家権力の渦に巻き込まれゆく。

この本は、一言で言えば、1人の男の生き様を通じて戦後沖縄と沖縄を取り巻く世界を見つめ直す小説だ。

■山崎豊子節は健在

山崎豊子節は健在だ。作風は彼女の過去の作品、「沈まぬ太陽」「不毛地帯」を思い起こさせる。いつもものすごく近くを見ているようで、どこか遠くを見ている感じがする。全4巻だが、最初の1~2巻を読み終えても、話がどこに向かって進もうとしているのかが全く分からない。それがもどかしくもあり、エキサイティングでもある。

主人公、弓成亮太は山崎豊子氏のレンズであり、そのレンズを通して何かを訴えかけようとしている思いが伝わってくる。

■40年経つ今も何も変わっていない

小説の舞台は、今からなんと40年も前のこと。しかし、古くささを感じない。驚くべきは、今のこの時代2011年・・・この瞬間で起きている出来事と、小説で語られる当時の出来事が非常に似通っている点だ。沖縄を取り巻く、その全てが現代とシンクロしている・・・そんな印象だ。

沖縄国民の感情は、政治家・他の日本国民には、どこまでいっても他人事・・・。

我々は何も変わっていない、いや、学んでいない・・・そういうことなのだろうか。

■タイトルからは想像できない奥深い世界

これ以上、この本について語ろうとする、ついうっかり中身のことをしゃべり過ぎてしまいそうで怖いので、今回はこの程度にとどめておきたい。内容の濃い4冊でありながら、あっという間に読破してしまう・・・それだけ面白い作品ということなのかもしれない。特に、山崎豊子氏の作風が好きな人には、はずせない一冊ではないだろうか。ぜひ読んで欲しい。

【関連リンク】
 ・運命の人 in 渦中の人(ブログ)


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