「軍国主義の時代を生きた人にどんな学びを期待できるのか?」
「なぜ著名な経営者がこの本を勧めるのか?」
著者名を見てタイトルよりも先に、そんなことが頭に思い浮かんだ。
逆境を越えてゆく者へ ~爪先立ち明日を考える~
著者: 新渡戸稲造(にとべいなぞう)
出版社: 実業之日本社
※キヤノン電子の酒巻久社長が、日経ビジネス(2012年7月30日号)でオススメの一冊として紹介していた記事を見て、この本の存在を知りました。
■新渡戸稲造流ポジティブシンキング術
新渡戸稲造氏は、1862年(文久二年)生まれ。1933年に71歳で生涯の幕を閉じている。そんな人生の約3分の2を過ごした時点で、過去を振り返り「人間としての生き方はどうあるべきか」について、氏が感ずるところを著した。本書は彼の人生観そのものだ。
ところで、私はお恥ずかしいことに新渡戸稲造氏が何をしてきた人か・・・5000円札に選ばれた人・・・という以外、何も知らない。どんな人だったのかと著者プロフィール欄を見てみると、一言でさらっと伝えるのが困難なほど豊富な経歴の持ち主のようである。無理やり詰め込んで、ようやくA4サイズ1ページにおさまる程のボリュームだ。無茶を承知で、あえて私流にまとめると「当時にしては珍しく国際感覚に秀で、高い教養と豊富な知識、様々な経験を持った人であり、日米外交の修復や青少年の教育に非常に大きな情熱を注いだ人」といった感じだろうか。
さて、そんな氏が書いた本書だが、タイトルは「逆境を越えてゆく者へ」。ここからも想像できるように「逆境を乗り越えてゆくことこそが、人間の成長に欠かせない・・・いや、生きることそのものなんだよ」というストレートなメッセージが伝わってくる。文中、何度も「善用」といった言葉が登場するが、これは逆境(ネガティブな状況)を順境(ポジティブな状況)に変える・・・今風に言えば、ポジティブシンキングのことだ。そう・・・本書は、新渡戸稲造氏が身につけたポジティブシンキング術がいっぱいに詰まった本・・・とも言える。
■アタリマエが書かれていることの凄さ
出版社によれば、本書は1911年に刊行された「修養」と、1916年に刊行された「自警」・・・当時のベストセラーを基に出版社が編纂した本だ、とのこと。
いずれにしても、今から1世紀以上も前に書かれたモノである。当時は日本が軍国主義に突き進んだ時代。今の思想と全く違う世の中・・・というイメージが先行するが、その時に書かれた本が果たして、今の我々の心にどう響くのか、素直に興味がわく。
読んでみてわかったのは、実は書いてある多くが「アタリマエ」であるということだ。「アタリマエ」というと響きが悪いが、誤解しないで欲しい。いい意味で「アタリマエ」ということだ。最近は、メディアが発達したおかげで、それこそ世界中の成功者が語る”生きるヒント”を、日々、目や耳にする。が、実は、そのほとんどは新渡戸氏の指摘と重なっている・・・という印象を持った。
例えば、「一事に通じれば万事に適用できる」という新渡戸氏の体験談は、スティーブ・ジョブズが、カリグラフィーを極めた話にも似ているし、「日本人には、(来年の話をすると鬼が笑うという諺もあるように)個人として長期計画を立てて実行する者は少ないが、そうすべきだ」という指摘は、今やどの自己啓発本にも取り上げられるような話だ。
現代において「アタリマエと感じること」が書かれている・・・ということは、それだけ新渡戸稲造氏の本が本質をついているという証拠でもある。ゆえに、この本の一言一句に、重みを感じ、その全てを自分の中に取り込みたいという気にさせられるのである。
■偉大な先人の知恵を活かす
わたしは小さい頃、親に「とにかく、何か1つでも続けた方がいい」と言われたことがあった。
それがどう心に響いたのかは分からない。が、「きっと、長く生きてきた人(親)の言っていることは正しい。実践してみよう。」・・・そう信じ、他の教科こそあまり勉強しなかったが、たとえば英語の勉強だけは、中学の頃から毎週一時間・・・大学生になっても続けていた。40歳になる今、それは間違いなく正しい行いであったと胸を張って言える。
これは私の親から授かった知恵であり・・・卑近な例だ。が、今、ここに100年前に立派に生きた偉人の知恵について書かれた本がある。それこそ、もっと昔からある孔子の論語の方が素晴らしい。そういう人もいるだろう。確かにそうかもしれないが、我々のような凡人には、新渡戸氏の本くらいが理解しやすくてちょうどいい。
きっと”生きるヒント”の多くが、この本に載っているのではないか。そんな気がしてならないのである。
【人生論という観点での類書】
・書評: 人間の基本(曽野綾子)
・書評: 石橋を叩けば渡れない(西堀栄三郎)
・書評: 40歳からの適応力(羽生善治)
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