2012年9月23日日曜日

書評: 日本企業にいま大切なこと

最近、コンサルティング支援をしている企業の担当部長と親しくさせていただいている。

時折、この方から「こんな本を読んだけど、君にどうかな・・・と思って」と、本を紹介いただくことがある。偏見なく、色々な本を読みたい・・・そう思っている自分には願ってもないことだ。今日は、その中からの一冊だ。



■経営の指南書

「著者の一人である遠藤さんとは、以前、仕事で一緒したことあるけど、ときどき過激なこと言うときあるよね。まー、でも的を得たこと言っている人だから・・・。」

これは担当部長の弁。

そんな弁とともに頂戴したこの本は、ビジネス界で著名な二人が、日本・欧米企業の成功体験に基づき、日本企業が、これから世界でどのように戦っていけばいいかを指し示した指南書である。

なお、著者の一人である野中郁次郎氏は、あの有名な・・・日本軍が敗れた原因を客観的・科学的に紐解いた・・・「失敗の本質」を書いた著者の一人だ。個人的には、ややアカデミックな人という印象を持っている。

また、もう一人の著者、遠藤功氏は、これまた戦略に関して豊富な知識と現場経験を持つお方で、数多くの本を出版している。氏の書いた「IT断食のすすめ」という本が私の印象に残っている。

■主張をキャッチボール形式に展開

もともと月刊「VOICE」誌上での両氏の対談をきっかけに、構成を大幅に見なおして互いに加筆・修正を施し、まとめられたものだ。

だから本書最大の特徴は、良くも悪くも、著者二人が、それぞれの観点からキャッチボール形式で話を展開させている点にある。

ただし、意見を対立させて話を昇華させていくディベートというよりは、「そうそう、そのとおり。僕もそう思う。なぜなら・・・」というように、ほぼ同じ主張に対して、二人がそれぞれの根拠を述べ、話を広げていく・・・そんな感じだ。

で、気になる”ほぼ同じ主張”・・・というやつだが、それは本の帯にもあるように「アメリカ型はもはや古い!」ということを指している。

もう少し、噛み砕いて説明すると次のようになる。

「欧米でも、特にリーマン・ショック以後も成功している企業は、株主を第一!に考えてきた企業というよりは、実は人材育成や終身雇用、現場主義など日本企業の良さを体現した企業だ。日本企業は欧米の良さを取り入れようとするあまり、そういった良さまでも打ち消してきてしまった。日本企業は、もっと自分たちの培ってきた経験や知識を信頼し、それらを軸にしつつ、グローバルな戦いに真に必要な部分だけを取り入れていくべきだ」

すなわち、本書は、従来の日本企業が持っていた強み、グローバルにも通用するもの、グローバルに戦っていく上で、欧米企業に見習う点、その理由・・・について、説いているのだ。

■文章全体にぎこちなさも・・・

ところで、先ほどキャッチボール形式とは言ったが、両氏の話が、ところどころ気持よく噛み合って流れているように感じなかった。その理由だが、一つには、やはり別雑誌(VOICE)向けの記事が基になっているせいだろう。そしてもうひとつには、お互い、それぞれの視点で言いたいこと、引用したいことなどが一杯ありすぎたのだろう。話の展開のさせ方に、しばし強引さを感じることもあった。

また、スピード、現場、量より質・・・本書を読んで出ていると当然、色々なキーワードが出てくるのだが、「とてもアタリマエなことだよな」と感じることが少なからずあった。ただ、これについては、私自身が心のどこかで、”魔法のように経営者の悩みを問題を解決してくれるとっても素敵な成功の法則”を求めていたせいだろう。良く考えてみれば、どんな世界でも、成功に求められることは実は非常にシンプルで、アタリマエのことなわけで、私のこの本に対する期待の持ち方が正しくなかったのだろうと納得している。

■一冊でトレンドに追いつけるMBA的な本

繰り返しになるが、両氏の主張は、実際の企業の成功事例をはじめ、ハーバード・ビジネスレビューに載るような世界の権威ある専門家たちの考え方などをベースに展開されている。

つまり、この本を読むメリットは、たった200ページで、日本企業に求められる・・・いや日本企業がとるべき最新の経営戦略のヒントを得ることできるということではないかと思う。それはまるで、短期間のうちに最新のマネジメントスキルや知識を習得できるMBA的なお得感にも通ずる。

多忙を極め、経営戦略に関わる最新本を何冊も読んでられない経営者には、短期間に知識を吸収し、頭を整理するのに、うってつけの本となるだろう。



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