2012年9月3日月曜日

書評: 清須会議

「”清須会議”という本を出しまして・・・」

J-Waveのラジオ番組(23:45~0:00)Making Senseで、三谷幸喜氏が自身の本の紹介をしていた。

日本の歴史を左右したといっても過言ではない一大会議・・・清須会議(きよすかいぎ)の場面を、今風の会話言葉で表現したとしたら・・・そして、そこに三谷幸喜風の味付けをしたとしたら・・・どうなるか?・・・そんなタラレバを実現させたのがこの本だ。

清須会議
著者: 三谷幸喜
出版社: 幻冬舎
発行日: 2012年6月27日



ちなみに、清須会議とは1582年7月16日に清須城で開かれた会議だ。織田信長が本能寺で自害し、そのきっかけをつくった明智光秀は秀吉に打たれた。この直後、織田家の跡継ぎ問題及び領地再分配を決めるために開かれた会議である。

■三谷幸喜風味が史実に見事にブレンド

現代語風にアレンジされた歴史小説であるにも関わらず、意外にも、違和感なく小説の世界に入り込めた。

それでいて、強い個性を放つ登場人物の人間性がページいっぱいに広がる。余計な情景描写をなくし、現代語を使い、登場人物一人一人にスポットライトを当てる・・・三谷幸喜氏の上手さなのだろうが、これにより当時の登場人物の心境が、テレビドラマを見ているかのように手に取るように伝わってくる。

実際、改めて、羽柴秀吉(後の豊臣秀吉)の傑出した人心掌握力を実感したし、柴田勝家の無骨さ・・・というか不器用さも、「あー、今の世の中にもこんな人、いるいる・・・」といった親しみ感を覚えた。

加えて、史実に忠実でありつつも、三谷幸喜氏特有のコミカルさは欠かさない。たとえば、次は冒頭、織田信長が本能寺の変で火に取り囲まれた場面の一節だ。

『熱いな。だいぶ熱くなってきた。それにしても、まさかこんなカタチで死を迎えるとは。だって昨日の夜まではごく普通の一日だったんだ・・・(中略)・・・俺の周囲を囲んでいる紅蓮の炎は、やがて俺の体を焼きつくすであろう。せっかくなんで、ちょっとかっこよく言ってみたよ。・・・』(本書より)

■期待すべきは”斬新さ”にあらず

ただし、三谷氏の映画にいつも見られる”斬新さ”・・・これを期待しすぎて読むと裏切られるかもしれない。

これはある意味、仕方のないことだ。どこまで言っても、所詮、史実からはみ出すことはできないので、これまでの映画のような「先がどうなるんだろう・・・」といったワクワク感を作り出すには限界があるからだ。

■本書を読む3つのメリット

まとめると、この本を読むメリットは3つある。

1つには、三谷節の心地いい小説のお陰で、いいリラックスできるという点。
2つには、日本史の一大イベントを、頭に刻みつけることができるという点。
3つには、昔も今も変わらない人間の本質とは何か、を学ぶことができるという点。

とりわけ2点目だが、歴史も捉え方1つで、こうも興味の強さが変わるなんて・・・と思う。「ハーバード白熱日本史教室」もそうだったし、「学校では教えてくれない日本史の授業」もそうだったが、見方1つ変えるだけで、興味の持ち方が全然変わってくる。興味が強くなれば、記憶への残り方も断然違ってくる。

クライアントを教えるコンサルタントとして、部下を育てる上司として、子を育てる親として・・・こうしたものにヒントを得たい。


【歴史を面白く学べるという観点での類書】
書評: ハーバード白熱日本史教室
書評: 学校では教えてくれない日本史の授業

0 件のコメント:

書評: 3 行で撃つ <善く、生きる>ための文章塾

  「文章がうまくなりたけりゃ、常套句を使うのをやめろ」 どこかで聞いたようなフレーズ。自分のメモ帳をパラパラとめくる。あったあった。約一年前にニューズ・ウィークで読んだ「元CIAスパイに学ぶ最高のライティング技法※1」。そこに掲載されていた「うまい文章のシンプルな原則」という記...