2012年12月22日土曜日

書評: 南海物語 ~西郷家 愛と悲しみの系譜~

南海物語 ~西郷家 愛と悲しみの系譜~
著者: 加藤和子
出版社: 郁朋社



この本は、西郷隆盛(さいごうたかもり)と彼に深く関わった人々の人生を描いた歴史物語だ。

西郷隆盛と名乗るようになる遥か前のまだ24歳・・・そう、彼がまだ吉之助(きちのすけ)と呼ばれていた頃、切腹同然の罪を犯す。吉之助を失うことを”著しい損失”と考えた藩は、切腹の代わりに、当時侵略先として検討していた台湾で密偵役をこなすよう命を下す。琉球からの流れ者と偽り、とある台湾漁民と家族同然の仲になるが、そこの娘と恋仲になり妻として娶る。妻は身籠るが出産間近のタイミングで、藩命により吉之助は薩摩へ帰投することになる。残された妻子・・・とりわけ妻は、嘆き悲しむばかり・・・。産後の肥立ちも悪かったためか、ついには亡くなってしまう。

このように・・・物語は学校では習わなかった悲しい史実からいきなり始まる。

私のつたない記憶をたどると、西郷隆盛と言いえば・・・

「体の太い人」「銅像になってる人」「薩長同盟」「(最後は暴走気味に)西南戦争で負けた人」

といったことしか思い浮かばない(もし事実と著しく異なっていたとしても、それは私の教養不足のためであり容赦願いたい)。しかし、この本を読むと、おそらくは体型や薩長同盟に関すること以外、何1つ彼に対する知識が正しくなかったことがわかる。また、彼が台湾はおろか、奄美大島にもこれほど深い関わりを持っていた人とは知らなかった。さらに、そもそも隆盛という名が正しい名前ではなかった・・・ということも驚きだった。

サブタイトルの「西郷家、愛と悲しみの系譜」・・・これはパッと見、昼のメロドラマのタイトルのようで、この本に対して腰が引けなくもない(正直、私は最初の一ページを開くのに時間がかかった)。が、この本にはまさしく愛と悲しみがあふれている。読んでいると胸が張り裂けそうになるシーンも多々ある。

西郷隆盛に興味がある人はもちろん、明治維新に興味がある人、奄美大島に興味がある人・・・そして歴史に興味がある人・・・そんな人達にお勧めの本である。

【歴史物語という観点での(私が読んだ)類書】
この命、義に捧ぐ(門田隆将著)

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