2012年12月29日土曜日

書評:「セブン-イレブン終わりなき革新」&「個を動かす」

今回は、コンビニエンスストアにスポットライトを当てた二冊の本について、まとめて書評を書いてみたい。

セブン-イレブン終わりなき革新
著者:田中陽
発行元:日経ビジネス人文庫


個を動かす ~新浪剛史、ローソン作り直しの10年~
著者:池田信太朗
発行元:日経BP社

  ■セブン-イレブン終わりなき革新

セブン-イレブンの全てを書いた本だ。創業者であり現代表取締役会長でもある鈴木敏文氏のこの”会社に対する想い”セブンが今日の地位を築くまでの”苦労・進化の歴史”・・・この両方をたどることで、セブン-イレブンの哲学と業界ナンバーワンたらしめる強みに迫っている。

この本の魅力は、一冊で、おおよそセブン-イレブン・・・いやコンビニ業界・・・いや小売業のことが理解できてしまう、という点にあるだろう。なぜなら、小売り業の最先端を突っ走っていると言っても過言ではない業界でナンバーワンをはるセブン-イレブンの強みを知ることは、小売業における一つの理想像を知ることにもつながるからだ。セブン-イレブン関連の本はたくさん出ているが、我々一般人がセブン-イレブンを適度に理解するにはこれ一冊あれば十分な内容だ。

では、本が言及するセブン-イレブンの強みとは何か? 

幾つかを参考までに紹介すると、例えば、常に”顧客ありき”を前提にした単品管理・・・この軸をぶらさない姿勢がある。また、鈴木敏文氏の常に諦めない粘り強さ・・・が印象的だ。国内にコンビニエンスストアという業態がまだなかった時代に第一号店を立ち上げるまでの苦労、従来はあり得なかったメーカーの垣根を超えた商品開発協力体制の構築の話は、素直にすごいと思った。法規制やしがらみを打ち破ってのATMマシン設置にこぎつけるまでの話は、フィクション小説さながらに興奮した。さらに何と言っても、タイトルにもあるように、常にイノベーションを追い求める姿勢だ。POSシステム導入にはじまり、ふっくらしたおにぎりの開発、商品棚の改善、店舗の24時間化など、挙げれば枚挙にいとまがない。

こうした努力は数字に如実に表れている。コンビニ一店舗あたりの日販が、セブン-イレブンで66万9千円、ローソンが54万7千円、ファミリーマートが53万千円だそうだ。

最初に、本屋で見かけて「少しくらいは何か役立つことが載っているかな」と何とはなしに手にとった本だったが、良い意味で大きく期待を裏切ってくれた本だ。

個を動かす ~新浪剛史、ローソン作り直しの10年~

先の本がセブンーイレブンの全てを描いた本だとすれば、こちらは新浪剛史氏率いるローソンの全てを描いた本である。

「セブン-イレブンって、実は見た目以上に強いんだなぁ。他社は勝ち目なさそうだなぁ。」

「セブン-イレブン 終わりなき革新」を読み終わったときは、そう思った。しかし、この「個を動かす」を読むと「いやいや、何の何の。ちょっとでも隙あらばトップを奪いとるよ」・・・そんな力強さが伝わってくる。

セブン-イレブンよりも後発・・・加えて、ダイエーが三菱商事に譲り渡したときは、負の遺産もたくさんあったローソン。ローソンの強みは全都道府県にプレゼンスがあったという点。セブングループに比べ、売上も資金力も遠く及ばないローソンが、自社のこうした弱み、強みを認識した上で、独自の戦略を打ちたて、熾烈な戦いに挑み続ける・・・そんな姿勢が描かれている。その姿勢は極めてオリジナリティに溢れている。

本書の特徴を1つ挙げるとすれば、ローソンをより良く知るために、ローソンのみならず、セブンーイレブンの特徴について幾度と無く言及している点だろう(「セブン-イレブン 終わりなき革新」は、他社との違い・・・というよりも、あくまでもセブンーイレブン自身についての言及に終始している)。事実、比較のため「セブンーイレブン終わりなき革新」からの引用が数多く見られる。

三菱商事で学んだ現場ありきの実行力・・・そして、ハーバード・ビジネス・スクールのMBAの知識・技術・・・いい意味での頑固一徹なリーダーシップ力・・・新浪氏の魅力がひしひしと伝わってくる。

■二冊を合わせて読むのがベスト

両書を読んで浮き彫りになるのは、同じコンビニ・・・業界一位、二位を占める会社であり、見た目は同じような商売に見えるが、実は、両社が”似て非なるもの”・・・であるということだ。フランチャイズという形態、顧客第一主義・・・それ以外の点では何から何まで違うといっても言い過ぎではないのではなかろうか。これは本当に驚きの事実だった。

セブンーイレブンが本部の強烈なガバナンスの元で店舗運営をしているのに対し、ローソンはできる限り店舗運営を地域に任せている。セブンーイレブンが商品発注を店舗の人判断に任せているのに対し、ローソンはITを駆使して自動化させようと試みている。セブンーイレブンが同じエリアに大量出店するドミナント戦略をとっているのに対し、ローソンは広範囲に出店する戦略をとっている(あるいは、とってきた)。

ビジネスは生き物、ビジネスは戦い、ビジネスはやりよう・・・両書を読むと、いや、両社を知ると、それを実感させてくれる。それが、とてつもなく魅力的で面白い。興味がある方には、ぜひ、この二冊を読み比べることをオススメしたい。


===コンビニ商品力で格差(2013年1月11日追記)===
日経新聞2013年1月10日付け朝刊によれば、コンビニエンスストア大手5社の2012年3~11月期決算がそろったとの報。それによれば、
1. セブン-イレブン・ジャパン 4,679 / 1,450 (売上高/営業利益)
2. ローソン 3,722 / 534
3. ファミリーマート 2,571 / 361
4. サークルKサンクス 1,193 / 169
5. ミニストップ 955 / 45

だそうだ。際立つのは、セブンとローソン、ファミマ3社が増益、残り2社が減益ということと、セブンの営業利益の大きさだ。今後が注目される。

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