2012年12月2日日曜日

書評: なぜフォークの歯は四本になったか

散歩途中に、コンクリート道路の隙間に咲いている花を見て・・・

「いったいなぜこんな場所に!?」

不思議に思い反応を示す人・・・、特に何も感じずそのまま歩き続ける人・・・。「バカの壁」 (養老孟司著)によれば、この2人の行動の違いは、それぞれが持つ「感情や興味の係数」の大きさによるという。

さて、みなさんの「感情や興味の係数」はいかがだろうか? ちょっと心配・・・という方にお勧めの本がある。

なぜフォークの歯は四本になったか 実用化進化論
著者: ヘンリー・ペトロスキー (忠平美幸 訳)
発行元: 平凡社



普段、わたしたちが”アタリマエのモノ”として目にする食器、文房具、大工道具、果ては建築物にいたるまで、それらがどうしてその形を持つにいたったのか・・・言わばダーウィンの進化論ばりに・・・但し、動物ではなくモノの・・・を徹底的に研究した本だ。

著者のペトロスキー氏はアメリカの工学者。学者らしいというか何というか・・・彼が最初から最後まで掲げている一貫した主張が「(人間が作る)モノの形は、機能ではなく失敗に従う」である。これをもう少し分かりやすく説明すると、たとえば(タイトルにある)フォークであれば、それに人が期待する役割(機能)は「食べ物をつかみ、安全に口に運ぶ」というものだが、それを満たすことがフォークの目的であれば、なんで何十何百種類ものデザインが存在するのか?とペトロスキー氏は疑問を呈する。「やれ、これがつかみづらい、あれが食べづらい・・・いや、このフォークの形はフォーマルな場には美しくない・・・」というように、モノの形を決めるのは、必ずしも機能ではなく、むしろ失敗(経験)だ・・・そういうことらしい。

著者はこの主張を証明しようと、本全体の9割近を”うんちく的な話”・・・に割いている。ナイフ、フォーク、スプーン、クリップ、ポストイット、ジッパー(チャック)、ジュース缶、マクドナルドのハンバーガー容器、ハンマー・・・世の中で普段わたし達が目にするモノの進化の歴史についての言及だ。こうした”うんちく”こそが、本書最大の特徴とも言える。

ところで、1つ難点を挙げるとすれば、この本は読むのに相当な体力を要するということだ。

読者の理解を助けようと、ところどころに出てくる挿絵はとてもありがたいのだが、残念ながら、取り上げられるモノの数の比して十分な量とはいえない。モノのデザインについて、その細かい部分を文章で描写されても、頭の体操をしたいのならともかく、気軽に読みたい読者にとっては疲労感を増やす要素以外の何者でもない。加えて、著者が終始言及する「ほらね、モノの形は失敗に従うじゃないか!」論・・・こちらについては、どうしても抽象的・概念的な話にならざるを得ず、やはり読んでいると疲れる。

しかしながら、こうしたネガティブな側面も、数々のモノのルーツを教えてくれる本書の魅力には抗えないと思う。それに、小難しい話は読み飛ばせばいい。

ポストイットで有名な3M(スリーエム)社が、元は砥石車やヤスリの製造業者だったという話・・・さらに聖書で読み進めた箇所をおさえておくのにしおりだと良くずり落ちて困るストレスを解消したい・・・という願いがポストイットを生んだという話・・・ほとんど目を丸くしながら読んだ。

読んだ次の日から「感情や摩擦の係数」が急上昇することうけあいだ。

「ふーん、このフォーク、このスプーン・・・このお箸は・・・どうしてこんなカタチに決まったんだろう??? なぜ?なぜ?なぜ?」・・・って。


【モノの起源にせまるという観点での類書】
 ・世界一のトイレ ウォシュレット開発物語(林 良佑著)
 ・舟を編む(三浦しをん著)

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