2013年8月8日木曜日

書評: 知の逆転

本屋で中身をパラッと見たときに、知的好奇心をくすぐられて衝動買いした。

知の逆転
著者(インタビューワー): 吉成 真由美(よしなり まゆみ)
発行元: NHK出版新書

読みやすさ ★★☆☆☆
お勧め度 ★★★☆☆


■著名人へのインタビューに学ぶ人間・社会の本質

本書は、世界的な著名人6名に対するインタビュー本だ。

ここで著名人とは、本の言葉を借りると、いずれも限りなく真実を追い求め、学問の常識を逆転させた叡智の持ち主達・・・だそうだ。(信じられないことに・・・わたしは6人全員全く存じ上げなかったが)生物学や生理学の権威であり、ピューリッツァー賞をも受賞しているジャレッド・ダイアモンド氏。かの有名な「文明崩壊」の著者と言った方がわかりいいかもしれない。あるいは、ノーム・チョムスキー氏。ハーバード大学のジュニアフェローを勤める言語学者だそうだ。あるいは、オックスフォード大を卒業し、著書「レナードの朝」(あのロバートデニーロ主演のやつ!)で有名な脳神経科医オリバー・サックス氏などがインタビューを受けている。

なお、こうした著名人6名にインタビューを敢行したのは、自身もマサチューセッツ工科大学ならびにハーバード大学卒業生で科学や心理学に精通している知性派バリバリのサイエンスライター、吉成真由美氏だ。インタビューワーとしてはまさにうってつけの人材と言えるのだろう。

そんな吉成氏がインタビューした結果をまとめた本・・・そう聞いてもまだ「インタビュー?何それ?」とネガティブな印象を持つかもしれない。「インタビュー」自体は、単に本にまとめるための一つの手段に過ぎないのであって、「インタビューだからつまらなそう」とか「中身がごちゃっとしてそう」とかそう思ったのなら、それは早とちりである。実際、わりとピシッと一本の道筋の通ったインタビュー本なのだ。インタビューワが投げるどの質問も、人間の存在意義や言語・音楽・宗教・科学の意議・意味、非核化の現実性、教育論など・・・人間・社会の本質に迫るものばかりだ。

■”その道を極めた達人”が出す回答の違いが持つ意味

本書最大の魅力の1つは同じテーマに対する著名人6人それぞれの考え方の共通点・相違点を知ることができる点だろう。目指してきた道は違えど、曲がりなりにもそれぞれの分野で道を極めた人達なのだ。本質的な問いに対して、いわゆる”極みの境地”の域にいる達人達が出す答えは、なんだかんだで似てくるものじゃないのか・・・そんな気が起こるが、実際はどうなのか。同じ質問を投げて得られた回答がどんななのか? 同じなのか? 違うのか? 何が違うのか?・・・そんな想像をするだけでも、知的好奇心をくすぐられないだろうか。

単に好奇心をくすぐられるだけではない。彼らの回答の共通点・相違点を知ることは、われわれ読者に、その答えについて自らが考えることを促し、ひいては読者自身の答えを持つきっかけを与えてくれる。たとえば、「核兵器は必要悪か」というテーマについて「核を廃絶する以外に人類に道はない」と説くチョムスキー氏に対し、「人間には暴力性がそなわっているゆえ、制御するためにはそもそも武器は必要となる。論点はどうやってそれを使わずにすませるかだ」と語るダイアモンド氏。こうした意見の相違を知った瞬間、二人の意見は、どうしてどう相違したのか、自分はどっちにより賛同できるか?それはなぜか?と思考が働く。ちなみに本件については、わたし個人は、アメリカの銃社会の現実に鑑みれば、核兵器のみならず武器そのものを持つことが正当化できるとはとてもとても・・・と思ったのだが・・・。

■本書を読むべきかどうかの分かれ目とは

さて、いいことばかり述べさせていただいたが、本からの学びが多いかどうかと、本が面白いかどうか、は別問題だ。既にお気づきの方もいるだろうが、カバーするテーマが、社会問題や科学、哲学、人生論・・・など、幅広く、そしてやや重い感じなので、堅苦しい話題にアレルギーがある人には、つまらないかもしれない。

逆に、こうしたテーマに抵抗感の少ない人にはお勧めできる。その道を極めた達人達の考えに触れることは間違いないわけで、そこで取りあげられるテーマに少しでも関心を持てるなら、読む者の脳を何らかの形で刺激するパワーを秘めた本だ。


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