アドラー心理学入門
著者: 岸見一郎
■アルフレッド・アドラーの考えを解説してくれる本
オーストリア生まれのユダヤ人精神科医&心理学者アルフレッド・アドラーの考えの解説書。主として、次のようなテーマをカバーした本である。
- アドラーはどういう人で何をした人なのか?
- なぜ、そういう考えを持つにいたったのか?
- 彼の代表的な考えは、つまり現代の日常に当てはめるとどう捉えられるのか?
■私が本書に手を出した理由
まず、なぜ、私がこのタイミングでアドラーに手を出したのか?理由は2つある。1つは、NHK番組の「100分 de 名著」で、アドラーのことを知る機会があり、興味を持ったからだ。心理学というと小難しいイメージがあるが、同番組では、モノゴトの捉え方について、どこか当たり前のようでいて我々が日々実践できていないアドラーのアプローチを紹介してくれていた。その際に、アドラー心理学には、学ぶべき点が大いにあると感じたのだ。もっと知りたいと思った。
本書に手を出したもう1つの理由は、「教養」になりそうな本であると感じたからだ。個人的な理由だが、最近、小手先のテクニック本ばかりに手を出してきたので、ここいらで路線を、より「中長期的に役立ちそうな本」に戻したいと思ったからだ。
■自分がいま持っている課題解決に役立つヒントを得ることができた
改めて、なるほどなと腑に落ちた部分があると同時に、子供に対する接し方はもちろん、社会における対人関係のあり方について、考えさせられる部分が多々あった。
具体的にはたとえば、「原因論ではなく、目的論でものごとを捉えなおするアプローチ」。私自身にも、周囲にも子供がたくさんいるが、彼らが大人から見て不可解または理不尽な行動をとったときの我々の対応方法についてだ。そういうときは、「何が原因で彼らがそういう行動をとるようになってしまったのか?」ではなく、「どんな目的を達成するためにそういう行動をとっているのか?」を、大人は自らに問いかけるべき、という考え方は「目からうろこ」だった。
その他にも、「幸福な精神であるためには、誰とでも対等の立場・・・縦の関係ではなく、横の関係を重視してつきあうべし」とか、「自分が、他人より優れていなきゃいけない・・・と思うのではなく、今の自分で十分良い・・・と思うようにすること」などなど、間違いなく、私の記憶に刷り込まれたものがいくつかある。
■「読みやすさ」「学び」という2つの観点で本書はどう評価できるか?
さて、本書の評価を2つの観点から述べておきたい。
1つは「読みやすさ」という観点。この点に関しては、全体的に読みやすい本であったと評価したい。抽象論に留めずに著者自身の経験談などが多数述べられており、「結局、読者自身の身に置き換えるとどういうことなのか?」のイメージを持ちやすかった。ただし、全5章のうち、後半2章(4章「アドラー心理学の基礎理論」と5章「人生の意味を込めて」)については他の章に比べ難しく、あまり頭に入らなかったことを付け加えておく。
「学び」という観点ではどうか? これは既に述べたように、目からうろこのポイントもあったし、その他いくつかの学びを得ることができたので、読んで良かったと素直に評価できる。「我々の人生の大半は人と接していくこと」だが、アドラーは「人間の悩みは全て対人関係に関するものである」と言っている。まさにその対人関係において、我々がぶつかるであろう課題解決のヒントを提示してくれる本書の意義は大きい。
■すべての人に役立つ本
アドラーの代表的な考えは育児と教育に関するものだ、と冒頭で述べた。出発点は確かに育児と教育だが、そこで述べられている内容は、企業生活における対人関係にもそのまま当てはまる。その意味では、本書の対象読者に垣根はない。入門書であるのでもちろんアドラー心理学の玄人は読む必要はないだろうが、それ以外は本書の漢字を読めるすべての人が読者対象だ。
ちなみに、一点だけ付け加えておくと、実は、アドラー心理学の入門書は他にも何冊か出版されている。私も、それらすべての本を読んだわけではないので、どの本がベストか?を論じることは私にはできない。間違いなく言えるのは、本書を読んで損をしたと思う可能性は少ないということだ。
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