2016年8月4日木曜日

書評: ジブリの仲間たち

きっかけはいつも単純だ。何か面白いラジオ番組(ポドキャスト)はないかなぁと探していたところ、たまたま見つけたのがスタジオジブリの名プロデューサー「鈴木敏夫のジブリの汗まみれ」だった。何気なしに聞いたのだが、これがもんのすごく面白かった。いったい、なぜ、面白いのか? 

単なる裏話以上のものが聴けるのだ。具体的には、次のような面白さがある。
  • あまり表には出ていない映画作成時の舞台裏の話が聴ける
  • セブン-イレブンの鈴木敏文氏を彷彿とさせるような”逆風をひっくり返し続けた話”が聴ける
  • 述べ観客動員数が日本の総人口に匹敵するほどのスケールのでかい市場の話が聴ける
  • 市場環境の劇的な変化に合わせた千変万化のマーケティング手法が聴ける
  • 著名な人と対談(化学反応)が聴ける(川上量生、押井守、上野千鶴子、園子温、秋元康...等)
そんな鈴木敏夫氏が本を出した、と言うではないか。即買である。


■ラジオで聞いた話同様、単なる裏話以上の話が満載
ナウシカにはじまって、天空の城ラピュタ、となりのトトロ、火垂るの墓、魔女の宅急便、おもひでぽろぽろ、紅の豚、平成狸合戦ぽんぽこ、耳をすませば、もののけ姫、ホーホケキョとなりの山田くん、千と千尋の神隠し、猫の恩返し、ハウルの動く城、崖の上のポニョ、借りぐらしのアリエッテイ、コクリコ坂から、風立ちぬ、かぐや姫の物語、思い出のマーニー...をヒットさせるためにどのような苦労や失敗、成功を積み重ねてきたか、舞台の裏側について語ってくれている。

これが冒頭に触れたラジオ番組同様に面白いのだ。最初、数十ページだけ手を出して、あとは次の日に読もうかなと思っていたのだが、気がつくと止まらなくなってその日のうちに一気に読破してしまったくらいだ。いったい、何がそんなに面白いのか? 基本的には、鈴木敏夫氏のラジオ番組「鈴木敏夫のジブリの汗まみれ」がなぜ面白いのか?の疑問に対する答えと一緒である。そうした面白さに加えて、良いスパイスになっているのが、鈴木敏夫氏をよく知る関係者・・・たとえば取引先の東宝宣伝プロデューサーなどの彼に対するコメントである。鈴木敏夫という人物は、客観的にはどう捉えられているのか、を知るのにとても良い材料になった。

■鈴木敏夫の凄さが肌感覚で伝わってくる
それにしてもつくづく、映画は、宮崎駿や高畑勲監督のような天才と、作った作品を宣伝する広告会社、劇場を持っている映画会社、コピーライターなど様々な人たちのパワーが合わさって出来上がる結晶なんだな、と思った。そして、こうした関係者個々の力を最大限に引き出し、どこまでパワーを融合させ、核融合を起こさせるか・・・ここの出来具合で映画の興行収入が決まるのだろうが、まさに、この役割を担うのが、プロデューサーである鈴木敏夫氏なのである。

スタジオジブリと言えば宮崎駿や高畑勲監督と言われるし、そのとおりだと思うが、同時に、鈴木敏夫氏の存在なくしてジブリの成功はなかったことが本書を読むと、よく分かる。宮﨑駿にとっての鈴木敏夫氏とは、ホンダの創業者、本田宗一郎氏にとっての藤沢武夫氏のような存在といったところだろうか。

■鈴木敏夫の凄さの源泉は一体、どこにあるのか?
鈴木敏夫氏の・・・次々と課題を乗り越える発想力や、人を巻きこみ、それぞれの力を引き出し、1+1を3にも4にもする能力の源泉は、一体なんであるのか?・・・後半は、それがただただ知りたくて貪るように読んだ。

一つ思ったのは、彼の教養の高さ。どのような手段で、彼がそうした教養を得たかは別にしても、たとえば映像や音楽を語るセンスは、彼のバラエティ豊かな知識が素になっていると感じる場面が何度かあった。あとは、好奇心の強さと興味を持ったものには、ステレオタイプにとらわれず食べて見ようとする柔軟性。ドワンゴの代表取締役会長、川上量生氏と接点を持ったときの話などは秀逸だ。どんなに途方も無く大きい話でも、そこに論理性・戦略性を持ち込む冷静さ・賢さ。人と異なる逆転の発想力。働かない宣伝マン博報堂の藤巻さんをポニョの主題歌の歌い手に抜擢する話は、間違いなく誰も思いつかなかった話だろう。

■楽しみながらリラックスして読めるビジネス書
だから、本書はマーケターにとってみればマーケティングの勉強になる。プロジェクトマネージャーにとっては、どうやって人を巻き込むか、そのパワーを引き出すか・・・プロジェクトマネジメントの勉強になる。もちろん、映画好きには裏話がたまらない。そして、普通の社会人にとっても、次々と市場や技術環境が変化する中で、自分の立ち位置を客観的に見つめ、どういう戦略を立てるべきか、その際に自分はどうあるべきか・・・勉強になる。出した本人はそんなつもりは全くなかっただろうが、楽しみながらリラックスして読めるビジネス書なんて最高じゃないか。


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