2020年1月7日火曜日

書評:2030年の世界地図帳 落合陽一

SDGsという枠組みをもう少し真剣に捉えてみよう、自分なりに考察してみよう・・・そう思った。

本書は、2030年ごろに世界と日本がどうなっているのかについて、データからわかる事実とそこから想像される将来像、そのとき日本はどのような立ち位置であるべきかについて、SDGsという切り口をヒントに考察したものである。

なお、ここでいうデータとは、例えば各国の人口統計や、GDP、労働時間、保有資源、CO2排出量などの向こう10〜30年間の推移である。またSDGsとは、Social Development Goals(持続可能な開発目標)の略称で、文字通り、持続可能な開発のための17のグローバル目標と169のターゲット(達成基準)からなる国連主導の開発目標である(下図参照)

【図:SDGsの17のグローバル目標】

このSDGsという軸に加え、著者は世界を4つのデジタルに分類することで1つの解を導き出そうとしている。その4つとは、人の自由な可能性を探求するためにコンピュータを使うという想いが強いアメリカンデジタル。国家を後ろ盾にした成長を軸にするチャイニーズデジタル。ブランド力によるエンパワーメント、歴史が価値を創造するヨーロッパの中古文化ともいうべきヨーロピアンデジタル。そして4つ目が従来型とは全く異なる技術発想が生まれやすいインドやアフリカで起きているサードウェーブデジタル。

そしてこうした世界における日本の立ち位置は、「デジタル発酵」だと著者は述べる。

「伝統文化とその価値の継承が途絶えつつある日本で、ヨーロピアン・デジタル型の高い付加価値を持つ産業を起こす可能性を探ることで、強となる価値を探していく必要があると私は考える・・・『違和感のある接続』によって創造された『奇妙な日本』と言う方法論こそが、これから始まる2030年代の世界における日本の立ち位置を見つけるカギになると考えている。日本のローカルな文化でありながら、同時に保守的な伝統とは微妙に乖離した、フェイクの香りがするオブジェクトが解消を埋め尽くしました。端正とは真逆のアプローチで空間を埋めていく、この展示のコンセプト、私は『デジタル発酵』と名付けました」(本文より)

この複雑な世界を、SDGsというツールを使いながら、世界をシンプルに4つのデジタルにみてとる分類やそこから導き出す「デジタル発酵」というユニークなワードは著者らしい柔らかな発想だなと感じた。まさに1つのビジョンを示してくれているのではなかろうか。そして、これこそが、どっちつかずの曖昧ないまの日本に足りないものだと思う。

【図:著者の柔らかい発想を示す“4層の産業構造” (p291)より】

そして、本当に彼のいった通りになるかどうかは別として、改めてSDGsは1つの重要なツールなのかもしれない。国連主導であり、中身にも一部欠陥がある※とは言え、利害がぶつかってなかなか折り合えない今日の世界において、おりあえる可能性ある「落とし所」を指し示してくれている1つの道筋であることは間違いない。

私自身はこれまで、CSRやらESGやら、3文字言葉が氾濫する社会において、正直、「また3文字か・・・」と頭ごなしにSDGsを敬遠してきていただけに、自らの頭の固さに気づかせてくれたことだけでも、この本に価値を感じる。

※一部欠陥について、「軍事力の抑制やLGBTQの権利の保護といった先進国では当たり前のように議論されているトピックが抜け落ちている」などといった指摘が著者からなされている

来たるべき未来に備えて、まずは自分たちの頭の中で「デジタル発酵」を起こしておきたいものだ。


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