「チェックリスト」は形だけの役立たず・・・「仕事をした気にさせてくれるだけでむしろ弊害の方が多い」と勝手に勘違いしていた私の誤解を完全に解いてくれた本だ。
本書はチェックリストの意義と、効果的なチェックリストの作り方、導入方法について解説した本である。
では、そのチェックリストの意義とは何か。一義的には最低限必要な手順を具体的に示すチェックリストがあることで「人間の記憶力」と「注意力」の危うさを取り除いてくれる。また、「手順を省く誘惑」を抑える効果もある。
そして「効果的なチェックリストの作り方」とは何だろうか。著者は次のように述べている。「・・・60秒から90秒かかってしまうとチェックリストはかえって邪魔になってしまうことが多いそうだ。また、ずるをしたり手順を省いたりされやすくなる。だから、ブアマン氏がキラーアイテムと呼ぶ、飛ばされがちだが致命的な手順に絞るべきだそうだ」
「チェックリストの文章はシンプルで明確でなくてはいけない。その業界にいる人ならば誰でも知っている言葉のみを使うべきだ。そしてチェックリストの見た目も実は重要だ。理想的には1ページに収まり、余計な装飾や色使いは避け、大文字と小文字を使い分けて読みやすくしてあるものが良い」
それでは「効果的なチェックリストの導入方法」とはどんなものだろうか。私は次のように読み取った。効果的なチェックリストの導入方法は、何度も試験運用を行い現場が使いやすい者に仕上げていくことそのもの。そして、導入時はそれなりに権限を持つリーダークラスを巻き込み引っ張っていってもらうこと。チェックリストの活用を忘れてしまわないように工夫も必要で、大きな警告(例:チェック完了したか?)をした紙を貼っておいてそれを剥がさないと次の工程に進めない・・・ようにするなどする。あとは無理強いせず、結果を出しその証拠を持って効果を広げていくことが重要なのだと認識した。
こんな感じでさまざまなことを学ばせてくれるが、本書の魅力はなんと言っても、具体的であること。どんな患者にどんな処置をしてどう失敗したか、どう成功したか・・・ともすればそこまで情報がなくても理解できる内容について、必要以上に事細かに説明してくれている。実証データも多い。本書が説得性を持つ所以だろう。
そして、汎用性の高さを身をもって示してくれている点も魅力的だ。汎用性の高さとは、「著者が所属する医療業界のみでチェックリストが有効であるのでは?」という疑念を吹き飛ばしてくれるという意味だ。そもそも著者は、「どうして複雑な巨大建築を作り上げることができるのか?そこに何か医療業界にも使えるヒントがあるのでは?」という疑問から建築現場に足を運び、そこで使われていたチェックリストに有効性を見出したという経験談を語ってくれている。また、緊急時でもすぐに使えるチェックリストを用意する必要がある組織と言えば航空会社だろうという考えから、やはり同じように航空会社に足を運び、そこで得た学びを紹介してくれている。こうした背景からも、チェックリストがどの分野においても効果をもつものであるということは明らかだ。
ただ、私が一番感動したのは、著者の「チェックリストはコミュニケーションツールである」という一言にである。チェックリストが残した実績をつぶさに見ていくと、チェックリストにチェックを入れたり、記録を残したりすることよりも、それをきっかけとしてコミュニケーションが生まれた・あるいは促進されたことで事故防止が劇的に進んだという事実が見えて来る、と著者は言う。すなわち、チェックリストはそれを使ってもらうことが目的ではなく、チェックリストを通じてチームワークと規律の文化を醸成してもらうことが目的なのである。冒頭でも述べたが、ともすれば形式化を促進するだけの悪しき道具・・・と思っていた(もちろん、本当に意味のあるものにするためには、先述の通り勘所を抑えておく必要があるが)私には本当にこれは目から鱗だった。
そして最後に、もう一言だけ述べておきたい。著者の観察眼と行動力には舌を巻いた。敬服の念を覚える。医療業界の問題解決のヒントを建築現場や航空会社に求めようとした想像力と行動力にだ。その思考プロセスや行動プロセスも私には大きな学びに繋がった。
明日から早速、この本からの学びを使って行動したい。
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