2022年8月14日日曜日

書評: 3 行で撃つ <善く、生きる>ための文章塾

 「文章がうまくなりたけりゃ、常套句を使うのをやめろ」


どこかで聞いたようなフレーズ。自分のメモ帳をパラパラとめくる。あったあった。約一年前にニューズ・ウィークで読んだ「元CIAスパイに学ぶ最高のライティング技法※1」。そこに掲載されていた「うまい文章のシンプルな原則」という記事。そこで見つけた。

その記事のライターの名は、近藤康太郎。何気なしに買ったこの本と同じ著者だった。

3 行で撃つ <善く、生きる>ための文章塾
著者: 近藤康太郎

本書は、朝日新聞編集委員の名物・名文記者が、「文章がうまくなりたい」という人に向けて25の文章テクニックを紹介したものだ。しかも、その紹介の仕方が何せ上手い。分かりやすく、実践をイメージしやすく、心に残りやすい。

冒頭に挙げた「常套句を使うのをやめろ」がまさにそれ。なお、常套句とは「抜けるように青い空」や「喜びを爆発させた」といった決まり文句のことだ。もう一つ例を挙げる。文章はできる限り短くしろ。著者は次のように表現する。

「二つに分けられる文は、全部、二つに分ける。」

ところで、文章執筆術は人によって違うのだろうか。「ハゲタカ」で有名な真山仁氏は、ある文章講座※で起承転結の「転」こそが大事だ、と述べている。近藤氏も「転」を書けるライターが生き残る、とまで言い切っている。

「転とは文字通り転がすことです。起で書き起こし、承で大方を説明した事象、この事象を、自分はどう考えているかを書く。そのことで、読者を転がす。」

「転」は執筆者の「魂」と言い換えられるのかもしれない。執筆のプロ二人が意識する「転」を私は軽んじてきた。今まで書いてきた文章を見返すのが、怖くなった。

しかし、今からでも遅くはないはず。今日以降は、本書から学んだことを実践していきたい。そう意識させてくれた時点で、本書に払ったお金の元は十分に取れたと思う。

2022年8月10日水曜日

書評:クライシスマネジメントの本質 本質行動学による3・11大川小学校事故の研究 西條剛央

この本を読んで 久々に心を揺さぶられた。

クライシスマネジメントの本質
 -本質行動学による3.11大川小学校事故の研究

西條剛央

そう感じたのは、世の中の災害対応の課題が全て集約されていると言っても過言ではないと感じたからだ。本書は、東日本大震災での大川小学校事故の詳細が語られている。なお、大川小学校事故とは、2011年3月11日に津波が来た時点で学校管理下にあった76名の児童のうち69名が遺体で見つかって3人が行方不明となった事故のことだ。

最初の揺れから津波到達まで50分の時間があり、校庭から走って1分ほどで登れる裏山があったにもかかわらず、どうしてこのような悲劇が起きたのか。著者は、その原因について、客観的な調査・分析・評価を試みている。

災害対応の課題は、ひと言で言えば「正論だけでは語れない人間心理の厄介さ」だろう。言ってしまえば、天災というよりも人災だ。いざ災害に直面してみると意思決定ができず判断に迷いが出る。「自分だけは大丈夫」「これまで起きなかったから今回も大丈夫」「誰かに怪我をさせて責任問題に発展させたくない」などといったバイアスにも直面する。

以下は、それを浮き彫りにする一例だ。

「教頭先生は山に逃げた方が良いと言っていたが、鎌谷の人は『ここまで来ないから大丈夫』と言って喧嘩みたいにもめていた」(本書 第二章 あの日の校庭 より)

こうしたドロドロとした課題が想定されるからこその、事前の取り決めであり、訓練の徹底なのである。本書を通じて見えてきたのは「何が本当に大事か」を形式ではなく本質で考え、幹部と日頃から意識共有しておくことの重要性や、有事のスピーディーな意思決定を実現するための行動基準の明文化の重要性などだ。

訓練の重要性は言うまでもないが、本書が挙げた、多くの児童が無事に避難することができた保育所の有事対応の背景がそれを裏付けてくれる。

「では、保育園ではなぜ避難訓練を徹底できたのであろうか。実は管轄となる省庁が違うためである。就学後は文科省の管轄となるのに対し、『5歳児までを預かる保育所では厚労省の基準に基づいて火事や地震を想定して少なくとも月一回以上避難訓練することが義務付けられている』のだ」(第5章 あの日、何を最優先にすべきだったか より)

事は有事対応だけではない。悲惨な事故が起きた後の原因究明においても、人間心理が邪魔をする。とりわけ人が自分のせいで亡くなったかもしれない、となれば、尚更だ。そこにメスを入れようとすればどうしたって保身に走ろうとする者が出てくる。当時、学校を留守にしていた校長が、責任追及を恐れてメールを削除したり、市教委が当事者からの報告内容を添削・加筆したりしていたことがわかっている。

だからこそ、そうした点も含めて、深く潜り込み、客観的に調査・分析・評価した本書の意義は大きいと言える。

ただ、私たちが決して忘れてはいけないのは、大川小学校と同じ過ちを犯す可能性のある組織・個人はたくさんあると言うことだ。私自身もそうだ。東日本大震災で死傷者を出さなかった学校でも、たまたま運が良かっただったかもしれない。東日本大震災以降の災害でも、例えば平成26年の西日本豪雨などでも、逃げるべき時に逃げずに亡くなった方が大勢いる。

大なり小なり同じ悲劇が繰り返されていることを忘れてはならない。「自分たちはこのような過ちを犯すわけがない。大川小学校の人たちだけが悪かったんだ。もう学んだし大丈夫なんだ」と思ってはいけないんだ。

組織を率いるリーダー全てが本書を読むことで、世の中が少しづつ良い方向に変わっていくのではないか。そう思った。

2022年7月10日日曜日

書評:「なぜ危機に気づけなかったのか 組織を救うリーダーの問題発見力」

 この本を読むとリスク感度がどうして人によって異なるのか、それはどうやれば養えるのかのヒントを得ることができるだろう。

タイトル:なぜ危機に気づけなかったのか 〜組織を救うリーダーの問題発見力〜
著者:マイケル・A・ロベルト

冒頭で述べたように、本書は、誰よりもいち早く問題に気づいて行動を取ることができた人はどういう人だったのか、それはどういう理由だったのか、そこに共通要素はあるのか、あるとしたらそれはどうやったら標準化できるのか、それをやった事例はどんなものか、などといったことについて書いてある本だ。

例えば、オーストラリアのいくつかの病院で、容態が急変し亡くなる前に、患者の異変にいち早く気づくためにどうしたらいいのかについて取り組みを行なった事例が紹介されている。彼らがやったことはおおよそ3つあり、1つ目としては各病棟に心停止の前兆となりうるトリガー例を貼り付けてあるそうだ。2つ目としては、そうしたトリガーに基づいてアラートをあげた看護師の声に、いち早く処置できる緊急対応チームを立ち上げたそうだ。第3に、看護師が誤った警報を出しても、一切咎めないというルールを徹底したそうだ。なお、緊急対応チームは、火災で言えば、いわば煙の段階に対応・処置するチームであり、消火役のコード・ブルー・チームとは一線を画している。

言い換えれば、本書は昨今よく言われる「バッドニュースファースト」をどうやったら実現できるのか、について解説している本ということもできる。組織では、「なかなか問題が起きていることに気づけない」「気付いたとしても上げようとしてくれない」「あげたとしても情報にフィルターがかかってしまう」など、あらゆるところにインシデント対応上のハードルがあるが、それをどうすれば取り除けるのか、についてたくさんのヒントが書かれている。

組織の再発防止やインシデント管理を洗練させたいのなら、おすすめの一冊だ。


2022年6月5日日曜日

リスク心理学(中谷内一也)を読んで

 「人のリスクの捉え方を知っておくことで、リーダーは、適切なリスクコミュニケーションを取れる可能性が高まる。だからリスク心理学を学ぼう」


著者のメッセージをあえて一言で言うなら、こんな感じだろう。

著者は、人のリスクに関わる行動を、思考を構成するシステム1と2の組み合わせで論ずることができると言う。

システム1が持つ思考の特徴は直情径行型で思ったことを身軽に実行に移すことであり、システム2の特徴は慎重居士で腰が重いことである。じっくりしっかりとものを考えるため、その分、知的な負担は大きい。だから、我々の判断は、リスク認知を含めて知的な負担の小さいシステム1思考に依存しがちになると言う。

だから例えば10万人の飢餓が出ているから助けてほしいというメッセージよりも、そのうちの一人の悲惨な状態にスポットライトを当てた方が、システム1の思考に影響を与えやすく、結果として人は行動に移しやすいというわけだ。

逆にこのこと(システム1が主導権を握りやすいこと)が人の判断に違いや歪みを生む温床になっているとも言える。例えば、能動的な行為か受動的な行為かでも、リスク許容度が異なるようだ。具体的にはスキーや喫煙のような能動的に行う行為は、電力や自然災害のように通常の日常生活を送るだけで関わることになる受動的なハザードに比べて1000倍もの大きなリスクが許容されているとのデータがある。

結果として、本来ならそこまで害がないものを過度に恐れて、「そんなリスクは取れない」という意思決定をしてしまう場面を、私たちは数多く見てきたはずだ。「飛行機に乗って死ぬ確率の方が自動車事故で亡くなる確率よりも低いのに、飛行機に乗るリスクは取りたくない」と言うのも1つの例かもしれない。

そういう時こそ、リーダーは、システム2に頼ることが重要だと著者は言う。つまり統計データを示すなどより客観的に物事を捉え説明することだ。

著者の結論はこうだ。

「組織のリーダーとしてリスク管理を行う人は2つの思考システムの両方を機能させる必要があると言うことです

2022年5月8日日曜日

「土偶」は本当は何のために作られたのか!?

「土偶、が何のために作られたのか、謎を解いた」という話を聞いたら、皆さんはどう思うだろうか。


「え〜。100年以上、専門家が解き明かせなかったものが、そんな簡単にわかるかねぇ」



私は、そういうふうに思いながらも、好奇心を抑えきれず土偶を読むを手に取った。すでにヒントは本のカバーに描かれている。土偶の顔と栗が並べられた写真が掲載されている。

「そうなのか、答えは、土偶は食べ物を偶像化したものということなのか? でも、土偶は他にもたくさん人型をしたものがあったはずだが、それらはどう説明するんだ!?」


そう思いつつ読み進める。1例目はハート型の土偶の話。ハート型と食べ物が結びつくイメージが全くなかったが、著者が提示するある食べ物と並べた写真を見て、正直、驚いた。確かにそっくりだった。しかも、(これは個人的感想だが)ハートは現代でこそ「心」を模したものとされているが、5,000〜6,000年前の縄文人がそんなアナロジー思考ができているハズもない。これも私の拙い知識からの話になるが、実際「RANGE 〜知識の『幅』が最強の武器になる〜」の著書、デイビッド・エプスタイン氏はその本の中で、「知識を持っている教育を受けた人と未開の人との違いは、アナロジー思考ができるかどうかの差になって現れる」といったことを述べていた。いずれにしても、だとしたら、縄文人は何か身近なものを土偶に模写したハズで、その観点でも説得性がある。


「でも、たかだか1つの事例だけで信じてたまるか」


そう思いながら2例目を読む。栗と並ぶ形で表紙の写真に掲載されていた土偶の話だ。確かに似ているかもしれないな。続けて3例目を読む。ここに掲載された写真を見て「あぁ、これは確かにすごい」と思った。

その後は「よくもまぁ、ここまで調べて仮説を立てたものだ」と感心しながら、読み進める。


決定的に唸らされたのは、超有名な恵比寿田土偶の解説とそこに付された写真を見たときだ。「確かに、人間を模した土偶と説明する方がよほど信憑性がない。しかし、こんなものが、どんな食べ物を模したものだというのだ!?」


【「土偶を読む」恵比寿田土偶の写真より】

著者が読者に信じてもらうために、土偶写真の一部を、その食べ物に置き換えた加工写真を掲載している。俄には信じがたいのだが、「加工」に気づかないほど土偶の体の一部とそっくりなのだ。

ここで正解を述べたら面白くないので、これで興味を持った方はぜひ読んでもらいたい。本書の良いところは、著者の主張を裏付けるために、写真や絵がふんだんに掲載されているゆえ、読者自身が、自らの目で検証できる点にある。

ところでなぜ、我々は「土偶を読む」に興奮するのか。読んで、どんなメリットがあるのか。しばらく考え込んだ。自分が出した答えはこうだ。

「とにかくワクワク感が湧いてくる。なぜそんな気持ちになるのかといえば、キリストが生まれたとされる年よりも昔・・・はるか5,000年前の人間がどんな人間だったのかを知ることができるからだ。そして、食べ物等を土偶に模すことによって豊作を願うなんざぁ、今の自分達と何ら変わらない人間だったんじゃないか、と気付かされる。今の我々が5,000年前と全く同じ人間。そう思っただけで、自分が5,000年前にタイムスリップできた気がするのだ。この気持ちは、サピエンス日本上陸 3万年前も大航海を読んだときにもあった。」

この本一冊でそんなワクワク感を得られるのだとしたら、素敵なことじゃないだろうか。


2022年1月1日土曜日

書評:エンパワーメント 社員の力で最高のチームを作る ケン・ブランチャード著

 エンパワーメントとは、『社員がもっているパワーを解き放ち、それを会社の課題や成果を達成するために発揮させること』。チームがどうしたら自律的に機能するのか、エンパワーメントの方法を明快に解説してくれている。


エンパワーメント 社員の力で最高のチームを作る

ケン・ブランチャード著


ステップはシンプル。シンプルだからこそ、その本質を正しく理解して、端折ることなく実行することが求められる。

1.情報を全て共有する
2.境界線を決める
3.セルフマネジメントチームを作る

セルフマネジメントをするために必要な会社の情報を全て包み隠さず伝え、ただしどこまで自由に動いていいのか枠組みを伝え、その中で自律的に考えて動くように促していくのだ。

マーカス・バッキンガムの「最高のリーダー、マネージャーがいつも考えているたった一つのこと」が示すリーダーやマネージャーのあるべき姿を理解しつつ、このエンパワーメントを実践できたら、みんな十分立派なマネジメントになれるだろう。


書評:最高のリーダー、マネージャーがいつも考えているたった一つのこと マーカス・バッキンガム

 マネージャーとリーダーという軸に分けて、どうすれば優れたリーダーやマネージャーになれるかについて語っている本。


最高のリーダー、マネージャーがいつも考えているたった一つのこと

マーカス・バッキンガム


本書から、それぞれの定義や役割らしきものを抽出すると次のようにまとめることができる。そしてこれを知るだけで、自分がどうたち振る舞うべきかが見えてくる。

マネージャーは、部下の才能を業績に結びつける1番の方法を見つけ出す人を言う。マネージャーが企業のために働く唯一の道は、まず部下のために働くことだと本能的に理解している。そして、それは必ずしも短所をなくすことばかりが部下のためになるわけではないということも理解している。

リーダーは、優れたリーダーは、より良い未来に向けて人々を一致団結させる人を言う。リーダーは決して現状に満足しない。より良い未来が見えるからだ。リーダーが未来像を描くのは、そうせずには居られないからだ。未来があまりにもありありと鮮明にみえ、それが頭から離れないからだ。リーダーシップの鍵はより良い未来を思いあげくだけでなく、それを実現させるのは自分しかいないと、己の全存在をかけて信じることにある。現状をより良いものに変える責任を引き受けるのは自分しかないないと信じるのだ。

すごくシンプルですごくわかりやすく道筋を示してくれる本だ。


書評: 3 行で撃つ <善く、生きる>ための文章塾

  「文章がうまくなりたけりゃ、常套句を使うのをやめろ」 どこかで聞いたようなフレーズ。自分のメモ帳をパラパラとめくる。あったあった。約一年前にニューズ・ウィークで読んだ「元CIAスパイに学ぶ最高のライティング技法※1」。そこに掲載されていた「うまい文章のシンプルな原則」という記...