2011年1月9日日曜日

風評戦争 (Reputation Warfare)

おおっ、早くも今年2回目の投稿。自画自賛・・・。

今日は、リスクマネジメントコンサルタントとしての自分の仕事にも大きく関わる風評被害対策(レピュテーションリスクマネジメント)について書きたいと思う。

2010年12月号(米国版)のハーバードビジネスレビューで読んだ面白い2つの記事がある。1つはBranding in The Digital Age(デジタル時代のブランディング)、そしてもう1つは、Reputation Warfare(風評戦争)というタイトルだ。


前者の記事は、風評被害とは直接関係ないが、被害防衛とは逆に、企業ブランドをどうやって効果的・効率的に高めることができるのか、有効なマーケティング手法のありかた、について書かれたものだ。マーケティングの力点が従来の有料広告(テレビ・ネット・紙媒体など)から、無料の媒体、すなわち、Amazonのような口コミサイトや、ブログをはじめとするソーシャルメディアにかわりつつある、という。

後者の記事では、具体的な成功・失敗事例を交えながら、最近の風評被害の傾向と、それに対する有効な対応手段について解説している。

特に、後者のReputation Warefare(風評戦争)の記事では、なかなかどうして、あまり知らなかった数多くの事例が取り上げられているので非常にためになる。以下に、そのいくつか(概要)を挙げておく。

2009年
●Horizon Group Management
 従業員の一人が会社の信頼性を落とすツイートをフォロワー20人に対して行ったことに対して、会社が5万ドルの訴訟を行った。大きく報道されるところとなり、かえって風評被害を大きくしてしまい、会社の失態をさらした上に、敗訴した。

●ドミノピザ
 ノースカロライナの店舗従業員が、配達ピザに食欲減退を引き起こすような行為を行ったシーンを撮影し、YouTube(動画コンテンツ共有サイト)にアップ。莫大な機会損失を被ることになった。が、社長がすかさず同じくYouTubeに謝罪のビデオクリップをアップすることで被害拡大を防いだと言われる。

2010年
●BP
  メキシコ湾オイル流出事故に際し、偽のTwitterアカウントを使って信頼性を落とすツイートがなされた事件。本物のアカウントのつぶやきよりも、注目を浴び、被害を大きくした。

●米国国勢調査局
  アメフトの祭典であるスーパーボウルに国税調査実施の広告を2500万ドルかけて出したことに対して、議員の一人がツイッターで非難のつぶやきを行ったことから炎上がはじまる。しかし、国税局が導入していたモニタリングシステムを通じてすぐに事態を察知、予め開設し運用していたFacebook、Twitter、ブログアカウントを使って反対声明をだし、一気に沈静化させた。

●アメリカエアライン
  顧客が、ツイッター上に重量オーバーの際に顧客に50ドルをチャージするやり方に不満をつぶやいたことに対して、すぐさま、ブログ上で懇切丁寧な事情を説明して対応。

ところで余談だが、日本でもここ最近風評被害が目につく。

●勝間和代さんレストラン事件
  勝間和代さんが訪れたレストランの従業員が、そのことを元に、ツイッターで悪口を投稿。ところが、そのつぐやきを直後に勝間さん本人が発見。45万人のフォロワーを持つ勝間さんはツイッターでこの件を取り上げ、一気に炎上。その後、お店の懇切丁寧な対応で一件落着。

●バードカフェおせち事件
  広告と著しく異なる商品を顧客に発送。その事件およびその後の対応の仕方について、2ちゃんねるをはじめ、各種メディアで報道され注目を浴びる。風評が風評を呼び、雪だるま式に会社の悪評が流れ、莫大な損害を被った。


さて...

「これら2つの記事(事例含む)から何が見えてくるだろうか?」

中には、「改めてソーシャルメディアの影響の大きさを思い知った」という人もいるだろう。それはもちろんそうだが、私自身は何よりも

「企業信頼について、攻め(ブランディング)においても、守り(風評被害からの防衛)においても、ソーシャルメディアの存在が大きくなってきている」

という事実が一番の”気づき”となった。特に興味深いのは、先の「ドミノピザ」の事例だ。ドミノピザの社長は風評被害を防ぐ手段として、テレビや新聞を使わずに、あえてYouTbueを使った。ソーシャルメディアで広がった風評を抑えるためには、同じ手段、すなわちYouTubeを使って訴えかけることが最も伝えたい人にリーチできる、という考えに基づいたわけだ。

では、

「こういった海外事例に日本企業も学べきと、言えるだろうか?」

私は、答えはYESだと思う。しかし、一方で

「日本は米国に比べて、そこまでソーシャルメディアが普及していない。土壌が違うので一概に真似しても意味はない。」

という反論もあるだろう。確かに、選挙でツイッターなどソーシャルメディアの活用が禁止されている日本は、米国に比べれば何かと保守的と言えるだろう。他の先進国に比べても利用率がそれほど高くはないのは事実だ(※下図、参照)。

しかし「保守的=今後、普及しない」という意味にはならないはずだ。ツイッターのつぶやき数については、他の国に決してひけをとらない状態になりつつあると聞く。したがって、今後、攻めでも守りでも、ソーシャルメディアが舞台の中心に来るのは世の趨勢と言えるだろう。

さらに、この趨勢は見方を変えれば、

「組織は今後、より積極的に風評被害に対するマネジメントを行う必要性が増してくる」

とは、言えないだろうか? 

これまでは風評被害に対する対応は、様々な有料メディアとのコネクションを持つ広告業界の専門分野とされ、自組織でできることはあまりない、と思われてきた部分があるのも事実だ。だが、先の事例でも見たとおり、むしろ、風評の攻めや守りのツールは、誰もが極めて簡単にアクセスできるところにも転がっているのである。ソーシャルメディア以外の媒体は、もう不要である、とは言わない(HBRの記事の著者自身も相変わらずその重要性は否めないと述べている)が、今後、力点が徐々にソーシャルメディアに移っていくのは間違いないように思う。

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