どんな本か?
文字通り、裁判官の法廷での被告への発言の中で、著者の視点でこれは面白い、というもの(100近い発言)を一冊にまとめた本である。
感想は?
いくつかあるが、先に少し残念だった部分について触れておこうと思う。これは書き手の問題というよりも、構成を考えた人の問題(そして個人の好き嫌いの問題)だと思うが、私は何となく読みづらかった。事実、何度も、見開きページの左側と右側を行き来する形で読むことが多かったので、多少ストレスがたまった。
本は、裁判官の発言1つにつき見開き2ページが使われる構成で、右側1ページで”裁判官の発言”と”裁判の概要”、左側1ページで”著者による考察”が述べられる形式になっている。これは読み終わった後で「あの裁判官のあの発言についてもう一回読みたいな」とふと思ったときにすぐに探しだせるようになっている点でメリットだが、構成が時系列になっていない分(裁判官の発言→その発言をした裁判の概要→著者の考察)、各発言の意図をぱっと理解しづらい点でデメリットだと思う。
ただし、本の中身自体はタイトルに違わず、ユニークで興味深いものであった。
何で興味深いのか?
過去に、裁判官をこれほど身近に感じさせるような本はなかったからではないか。自分の偏見だけなのかもしれないが、少なくともこの本を読む前までは、法廷でのやりとりには全て決まりごとがあって、裁判官が自由にできる部分なんてものは、ほとんどないもの、と思っていた。
ところがどっこい、いざ読んでみると、そんなこはない。裁判官によって、仕切り方も違えば、被告に対して投げかける言葉も表現の仕方も、果ては、与える刑までもが、大きく違うことがある、ということが分かった。
「(判決を出すのを延期するので)2ヶ月間ボランティアをしてみなさい」という裁判官もいれば、「反省文を書いて提出しなさい」という裁判官もいる。また「今、この場で子供を抱いて、もう二度としないと誓いなさい」という裁判官もいたり、「検察の求刑は甘すぎる」と言って求刑を超える刑を出す裁判官がいたり・・・。本当に千差万別。
他に何を感じたか?
この本は、”裁判官が被告に投げかける言葉”を取り上げた本だが、これを読むにつけ、逆に”被害者(または遺族)に対して投げかける言葉”ってないのか!?とふと疑問に感じた次第である。この点について、著者は、本の中でこう述べている。「刑事裁判では検察と被告が当事者とされ、被害者は無視に等しい扱いを受けてきた。(変わりつつはある・・・が)」と。つまり、被害者(または遺族)に対して、裁判官がかける言葉はほとんどないのだろうと推察される。
と聞くと、さらに次の疑問がわいてくる。事故や犯罪で身内を殺された遺族には、どのような救済措置があるのか? もちろん、犯人が資産家であれば損害賠償請求によって、金銭的な部分は解決できるだろうが、まぁ、資産家であることなんてまず滅多になさそうだ。
調べてみたら、「犯罪被害者等給付金の支給等に関する法律」という保護制度があるらしい。これによれば、遺族給付金や重症病給付金、障害給付金などがあるようだ。ただし、たとえば、被害者が死亡したときに支給される遺族給付金の給付額は、上限で1573万円だそうだ。どう考えても安いように思うが、どうだろうか。
こういった制度に加えて、2007年に損害賠償命令制度(被害者が刑事裁判所に申し立てをすれば刑事裁判の有罪判決後、同じ裁判官が損害賠償の審理をして賠償額を決定するもの)が導入されるなど、ものすごいスローペースではあるが、改善の方向には向かっているようである。決して他人事では済まされない事柄であるだけに、今後、ますます一層のアクションを期待したい。

おわりに一言!
本書は、200ページちょっとの比較的薄い本である。決して厚みはないが、タイトルや中身が単にユニークというだけでなく、日本の司法制度をより身近に感じさせ、そして、様々なことを考える良いきっかけを与えてくれる本であることは間違いない。
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