2011年1月29日土曜日

書評:「脳に悪い七つの習慣」 林成之著

「脳トレのゲームやドリルでは、脳を鍛えることなどできない」「新しい習慣を持つのではなく、悪い習慣を止めなさい」・・・そうすることで、本当の意味で脳が鍛えられる。運動であれ、仕事であれ、独創力が高まり、常に最高のパフォーマンスを発揮できるようになる・・・。

それがこの著者、林成之氏の主張である。

タイトルにあるように「脳に良くないこと」として、大きく7項目を挙げている。著者自身も認めているが、本に挙げている項目の多くは、過去に我々が良く耳にしてきたようなことばかりである。「愚痴を言うな」「無関心は止めろ」・・・。ただし、この本が特徴的なのは、(著者が脳神経外科医ということもあり)「何故、それをすることが駄目なのか?」ということについて、脳医学的・論理的にわかりやすく説明していることにある。読者に非常に大きい納得感を与える。納得感を与えるということは、すなわち、それがそのまま読んだ人の力になる、ということだ。

“姿勢を良くしろ”の意味をようやく納得できた

たとえば、小さい頃から誰しもが親に言われてきた“姿勢を良くしろ”という言葉。「男は堂々としていなければいけないから」、父は良くそう言ったものだ。何度言われたか分からない。だがなんとなく「重要なんだろうな」という意識はあっても、なかなか実践できなかった。何故か? 言い訳・・・なのかもしれないが、実は、その重要性をきちんと理解してなかったからではなかろうか。

この“姿勢”だが、著者によればこれは空間認知能と強い関係性を持つ、という。空間認知能とは、空間の中で位置や形などを認識する能力のことだ。モノを見て絵を描く、本を読んでイメージを膨らませる、バランスを取って自転車に乗る、など、人間が思考するときや体を動かすシーンで極めて重要な役割を担うもの、とのことだ。姿勢が悪いと、視覚情報がまっすぐ目の中に入ってこないため、一度、脳により補正処理する必要があり、これが反応を一瞬遅らせたり、空間認知脳の機能そのものを低下させてしまったりするのだ、という。なるほど・・である。今日から、もっと姿勢を意識しよう(笑)

ゆるぎない“ポジティブシンキング”の重要性

世間でよく言われる「ポジティンブシンキング(前向きに考えること)」。この点につき著者は、“情報が脳の中で処理される順番”を根拠に挙げている。脳に入ってきた情報は、なによりもまず感情のレッテルを貼られるそうだ。「この情報は好きだな」とか「この情報は嫌いだな」という感じだ。こういった感情付けをされてから初めて、理解する領域へと信号が送られる。これは言い替えれば、好きか嫌いかといった感情が、そのまま、その後の脳処理(パフォーマンス)に強く影響する仕組み、とも言える。これもなるほど・・・である。

実績を持つ医者とアスリート、その主張の類似性が興味深い

ところで、余談だがこの本を読んでいて「心を鍛える」の著者、白石豊氏のことを思い出した。氏はイメージトレーニングの大家だが、著書の中で自身の経験に基づき「ネガティブなことを言うな」「姿勢を良くしろ」「目的ではなく手段(目標)を立てろ」など、ここ一番というときに最も高いパフォーマンスを発揮できるようにするための方法を述べている。林先生は脳神経外科医、白石先生はアスリートという、それぞれ異なる立場ではあるが、それぞれ学んだ経験を基に得られた結果(しかも多くの実績を残している)が、酷似しているというのは極めて興味深い。

2時間で大きなものが得られる有意義な本

さて、これまでに2つの例を挙げて見てきた(ただし、7分の2を紹介し終わったわけではない)。本は大きく7つの分野に分けられてはいるが、実際には60近い項目についての解説がある。全体182ページとそんなに分厚い本ではない。2~3時間程度費やすことで、脳のパフォーマンスを最大限に引き出す手法について知ることができ、かつ、実践してみようというやる気を起こさせてくれる。そんな本である。


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