2011年2月28日月曜日

書評: 「この命、義に捧ぐ」

「どうせ大分、脚色して書いたんじゃなかろうか?」・・・多少、そんな想いを持ちながら読んだことは否定しない。

「この命、義に捧ぐ」 ~台湾を救った陸軍中将根本博の奇跡~ 門田隆将 集英社

というのがその本のタイトルだ。ここ最近読むようになった月間VOICEでの著者門田氏のインタビュー記事を読んでいて偶然知った本だが、ノンフィクションでありながら、ドラマのようなあらすじに興味をかき立てられ、購入した。

さて、根本博陸軍中将とは誰か? 本によれば「終戦後の昭和20年8月20日、内蒙古の在留邦人四万の命を助けるために完全と武装解除を拒絶し、ソ連軍と激戦を展開、そしてその後、支那派遣軍の将兵や在留邦人を内地に帰国させるために奔走した人物」、とある。

このプロフィールだけを聞いても、なんとなく「凄い人だったんだな」以上の感想は正直出てこない。

何がこの人物に対する興味をかき立てたのか?
それを知るためには、蒋介石(しょうかいせき)について触れる必要がある。蒋介石と言えば、中国の内戦で、共産党の毛沢東(もうたくとう)と激しく戦った国民政府軍(国府軍)の指導者だ。

1947年イギリスのエリザベス女王がフィリップ王子とのご成婚を果たした際に、蒋介石(しょうかいせき)はお祝いのためにと、景徳鎮(けいとくちん)で贈り物を作らせたのだが、その品物の中に、一対の花瓶(3セット)があった。この花瓶の一対はイギリスに送られ、もう一対は日本の皇室に送られた。残った最後の一セットを自らの執務室におき、この上なく大切にしていたそうだが、その後、この一セットのうち「一つ」を、根本博陸軍中将に贈ったそうである。

根本中将は、それほど大きなことを成し遂げた人物なのである。敗戦後の余裕のない日本から、内密に命をかけて台湾にわたり、金門島にて国府軍が共産軍を壊滅させるのに大きな貢献をした人だ。

ところが、2009年春、台湾の国防部で「金門島の古寧頭戦役六〇周年記念式典」が計画された際には当時の大勝利に日本人が関与していたという事実を知る者は・・・ほとんどいなかったそうだ。また、当時の大勝利を記念して建てられた古寧頭戦史館には、彼の写真は一切無かったそうである。

「蒋介石が心から感謝を示した根本中将」「台湾史からほぼ消されかかっている根本中将」・・・ともすれば矛盾する2つの事実を、史実はどのように結びつけていたのか? この本は、それを明らかにしている。

そして、戦後忘れ去られたもの・・・家族だとか、右翼だとか、左翼だとか、国府軍だとか、共産軍だとか、アメリカだとか、日本だとか、そういった概念を遙かに超えた、義を重んずる武士道精神とは何か・・・それを脚色なく伝えている。

この本は、物語調で語られる部分と、実際にそれを裏付けるために関係者に会って拾ってきた現場の生の声を紹介する部分から構成されているためにリアリティが伝わってくる。

その全てが、私の興味をかきたて、そして、最後に私に感動をもたらした。「台湾を救った陸軍中将根本博の奇跡」・・・我々は、この男とそれを支え懸命に生きた人たちの生き様を知るべきである。


【歴史物語という観点での(私が読んだ)類書】
南海物語(加藤和子著)

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