2011年10月10日月曜日

書評: 中国人は本当にそんなに日本人が嫌いなのか

日本は中国という国を正しく理解しているだろうか?
中国は日本という国を正しく理解しているだろうか?

雑誌VOICE2011年9月号を読んでいたとき、そこで「中国で最も有名な日本人」という若者の存在を知った。彼の北京大学での学生生活時代のエピソードや中国文化に対する考察を読み、自分はあまりにも中国のことを知らなすぎる・・・そう気づかされた。そんな彼が日本で本を出版したという。

■「中国人はなぜそれをやるの?」の答えが分かった

この本は、人生の前半17年間を日本で、後半(大学生以後)9年間を中国で過ごし、両方の文化を肌身で体験した若者が、両国の違いについて語った本である。目次を見れば、おおよそどんな内容の本であるかが見えてくる。
  • 中国人は、なぜ感情をあらわにするのか
  • 中国人女性は、なぜそんなに気が強いのか
  • 中国の「八〇後」は、30歳にして自立できるか
  • 中国人は、なぜ値切ることが好きなのか
  • 中国人は、なぜ信号を無視するのか
  • 中国の大学生、特にエリートは真の愛国者なのか
  • 中国はなぜ日本に歴史を反省させようとするのか
  • 中国は、実はとっても自由な国だった!?
  • 中国は、既に安定した経済大国なのか
  • 中国は計画が変更に追いつかない!?
  • 中国では「政治家」と「官僚」は同義語!?
  • 中国の「ネット社会」は成熟しているのか
  • 日中関係は、なぜマネジメントが難しいのか
  • 中国人は本当にそんなに日本人が嫌いなのか
もちろん、私には知らないことだらけ。とても勉強になった。中には、自分がいつも思っていた次のような疑問についてドンピシャリ、明らかにしてくれた。

海外で駅の切符売り場などに並んでいると、中国人はいつも平気で横から割り込んでくる。本当に平然とだ。「どういう神経構造をしているんだ!?」と都度、そう思ったものだ。本を読むと、加藤嘉一氏自身(著者は現在、中国在住だ)、そんな経験を毎日していると言う。しかし、それについて加藤氏は次のように語っている。

『自分の欲しいものを、手段を選ばず手に入れようとしなければ、馬鹿を見る - こう考えているから、中国人は、公共の場において、なにひとつはばからない』

なるほど、正直者が馬鹿を見る社会と、そうでない社会にいる者の違い・・・。そういう見方をすると腑に落ちる。ただし、最近は日本社会でも原発事故の政府対応に代表されるように「正直者が馬鹿を見ることもある」という事件・事故が徐々に増えつつあるような気がするが・・・。

■著者は、どのように日本のことを外に伝えているか

著者は、中国でブログを開設して以来、3ヶ月500万、半年で1,000万、現在2,500万アクセスを突破したそうである。この他にも、英フィナンシャルタイムズ中国語版コラムニストをつとめ、香港フェニックステレビでコメンテーターをつとめるなど大忙しだ。こうした活動の結果、受けている取材の数は年間300以上にも及ぶそうだ。「日本と中国の架け橋として活躍したい」というのが本人の希望だそうだが、もはやそれを実現しつつあるようにも見える。

ところで、本の中で「なぜ日本人女性は専業主婦という社会的に男性より劣っている地位に甘んじていられるのか?」という中国人女性の疑問に対して、著者が次のように答えている。

『日本の女性が重い負担を嫌がらないのは、一家の財政をコントロールしているからだ』

私は、これが必ずしも、日本の今の姿を正しく伝えていないように感じた。これは答えの一部にしか過ぎないのではないだろうか。いや、それ以前に、そもそも”専業主婦=社会的に劣っている地位”という疑問の出発地点が正しくないようにも感じる。

架け橋になるほどの影響力を持つ、ということは、逆にそれだけいい加減な発言ができなくなってくるという意味でもある。「中国人が持つ日本人像」という者が、著者の持つ日本人像の投影になる可能性があるわけだ。この点については、著者が日本人だから、いや日本に住んでいたから、と言って日本人像を正しく理解しているとは限らない。著者には、日本人というものをこれまで以上に理解して外国に発信していってもらいたい、そう願う。

■裸の王様にならないために読むべき

日本では中国のことを理解している人は、まだまだ、ほとんどいないのではないだろうか。冷静に考えれば当たり前のことかもしれない。

韓国については、それこそ色々な形で報道されているし、日本のテレビにアイドルが頻繁に露出するなど、知る機会が多い方だが、中国について我々が知る機会というのは、決して多くない。私が触れる機会なんて、たまに起きる日本を敵視した暴動ニュースくらいだ。しかもそうした暴動も、中国全土で起こっているものではなく、ごく一部の地域の若者(言ってみれば、先日の花王に対する韓流デモ程度のようなものだろうか)が起こしたものであることが多いと聞く。しかし、我々はこうした一部のニュースにのみ左右され、「中国はなんて怖い国なんだ・・・」という誤った印象を持ってしまう。

「中国は、情報統制されて正しい諸外国の事情を把握できず、かわいそうな国だよね」という声を良く聞く。しかし実は、我々日本人こそが正しい外国の情報を実は把握できていない・・・いや、把握できていないという事実に気がついていない」

そうなのだとしたら、それこそ情けない話だ。裸の王様にならないためにも、こうした本を読む機会を増やすことは大事だと感じた。


【関連リンク】

【”中国を理解する”という観点での類書】
2014年、中国は崩壊する(宇田川敬介著)

4 件のコメント:

丘山太一 さんのコメント...

勝俣さんの書評を読んで、日中関係に関心を持っている日本人の方と偶然に出会ってよかったと感じました。私は中国で生まれ、中学校からシンガポールに滞在しており、今アメリカで留学している中国人です。大学に入った時、日本語を勉強し始め、去年交換留学生として早大で留学することまでしました。日中の文化における相違点より共通点のほうが多いと思います。お互いの考え方をちゃんと理解するためにも、まず一人ひとりの交流が大切だと思います。なので、もし宜しければ、これから勝俣さんとネットで色々な面で語り合うように望んでいます。よろしくお願い致します。

りょう さんのコメント...

丘山さん。コメントの投稿、どうもありがとうございました。と同時に返信が遅くなり、申し訳ございませんでした(最近、極度に忙しかったもので・・・)。

私も人間ですから、色々な点でまだまだ自分自身が偏見を持っていると思っています。でも、分け隔て無く様々な情報・人・モノ・文化に接して、そういった偏見を無くしていければと切に願っています。

隣国なのになんとなくケンカばかりしている・・・。これは兄弟と同じなんだと思います。兄弟も、仲が良いからこそ、逆にケンカしてしまう。そう考えると、本当は中国と日本は(韓国もそうですが)実は兄弟で仲がよいのではないか、といつも思っています。

今後ともよろしくお願いいたします。

丘山太一 さんのコメント...

勝俣さん、返事ありがとうございました。今日、読書のために新しいブログを作りました。勝俣さんのようにブクログをホームページに載せています。これから、勝俣さんといろいろな本について話させていただきます。:)よろしくお願いいたします。

りょう さんのコメント...

丘山さん、ご連絡ありがとうございます。継続は力なり。お互い気長にやりましょう。ちょくちょく拝見させていただきますね。

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