2012年3月24日土曜日

書評: ふしぎなキリスト教

23億人・・・この数字が何かお分かりだろうか?

全世界に存在するキリスト教徒の数(2010年)だ。イスラム教徒や仏教徒に比べても約2倍近い数・・・そんなとてつもない信者を生み出したキリスト教の世界観を知ることは決して無駄ではないはずだ。

ふしぎなキリスト教
著者: 橋爪大三郎、大澤真幸
発行元: 講談社現代新書

■キリスト教のタブーに迫る!

「なぜ、キリスト教がここまで広まるにいたったのか?」「キリスト教とはそもそも何か?」「ユダヤ教と何が違うのか?」「イスラム教と何が違うのか?」・・・誰もが持つキリスト教に関する疑問に対する答えを約300ページの文庫本の中に詰め込んだ本である。ちなみに同書は”新書大賞2012”において栄えある第一位に選ばれた本だそうだ。

この本の最大の特徴は、本が一方的な解説口調でまとめられたものではなく、社会学者である大澤氏と橋爪氏の対談形式でまとめられている点にあるだろう。キリスト教徒ではない一般読者の立場・・・ともすれば辛辣ともとれる質問の数々を直球で投げる大澤氏に対し、宗教観に理解の薄い人でも分かるように様々な喩え話を用いて回答を返す橋爪氏。

わたしが”直球”と喩える大澤氏の質問には(全体のほんのごく一部だが)例えば次のようなものがある。

「食べていけないのなら、なぜ、神はわざわざアダムとイブの側にそのリンゴの木をおいたのか?それはまるで囮捜査ではないか!?」「神が完全体というのなら、なぜ、不完全体(人間)を作ってしまったのか?」「なぜ、ユダヤ人が選ばれたのか?」「なぜ、イエス・キリストについて異なる説明をする書物(福音書)が複数存在するのか?」

また、橋爪氏のわかりやすい喩えでとても印象に残っているのは「イスラエルを追われたユダヤ人が信仰するユダヤ教にはなぜあのような厳しい戒律が存在するのか?」といった疑問への回答だ。

『もしも日本がどこかの国に占領されて、みながニューヨークみたいなところに拉致されるとする。百年経っても子孫が、日本人のままでいるにはどうしたらいいか。それには、日本人の風俗習慣を、なるべくたくさん列挙する。そして、法律にしてしまえばいいんです。正月にはお雑煮を食べなさい。お持ちはこう切って、鶏肉と里芋とほうれん草を入れること。夏には浴衣を着て・・・(中略)・・・これを守って暮らせば百年経っても、いや千年経っても、日本人のままでいられるのではないか。こういう考え方で、律法はできているんですね』

■宗教に関心の無い人にこそ

ここまで深く掘り下げたベストセラー本を、たった3回の対談で作り上げてしまったというのだから、ただひたすら驚くばかりである。さて、

この本・・・キリスト教をはじめ宗教の世界に興味がある人よりもむしろ、「宗教なんて・・・」とか「おれは無神論者だから関係ねぇ!」とか思っている人に読んでもらいたい。この本を読むと宗教は誰にとっても決して無縁なものではなく、むしろ、我々の生活に深く入り込んでいることがわかるからだ。

何かを強く信じることが宗教であるとするならば「わたしは無神論者である」と頑なに主張することそれ自体が、1つの宗教観である・・・そう大澤氏は語る。見識を広めるためにも、私たちの生きる世界をより本質的に知るためにも、ぜひともオススメしたい本の一冊である。



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