2012年3月4日日曜日

書評: ドキュメント 宇宙飛行士選抜試験

「自分の夢は何か?」
「それはどれほど実現したい夢なのか?」
「その夢の実現のために能動的な努力をしているか?」

この本を読んで、こうした問いかけを頻繁にするようになった。

ドキュメント 宇宙飛行士選抜試験
著者: 大鐘 良一、小原建石
発行元: 光文社新書
発行年月日: 2010年6月20日

■オリンピック出場チャンスよりも遥かに少ない就職試験物語

なれるチャンスは四年に一度どころか、十年に一度・・・いやそれ以下の確率でしか巡ってこない。生活環境は激変、収入は激減、命を失う危険性まである。しかし、応募は殺到。試験は1000人応募して2人しか通れない超難問。そんな意味のわからない職業があるのか。そう、それが宇宙飛行士という職業だ。

宇宙飛行士を目指す人たちの過酷な選抜試験・・・1次試験から、2次、3次・・・最終選抜にいたるまでのプロセスを、ドキュメンタリータッチであますところなく描いているのがこの本「ドキュメント 宇宙飛行士選抜試験」である。

■受験者を丸裸にする選抜試験

963人の応募に対し書類選考で230人、1次選抜で48人、2次選抜で10人まで絞られ、最終的に3次選抜で宇宙飛行士になる資格を得られるのは2~3人しかいない。本書ではそうした試験プロセスはもちろんのこと、試験の内容、そこで選ばれた当事者達の精神的内面にまで切り込んでいる。実際に出された例題も一部掲載されているので試しにやってみると面白い。ちなみに、わたしは最初の設問で轟沈。

ハイライトは3次試験だ。選ばれた10人が宇宙飛行士に選ばれる瞬間までの道のりに全体の9割が割かれている。最終選抜に残った10人の個人プロフィールも掲載されている。もちろん、みんな立派な経歴の持ち主だ。この3次試験・・・全2週間超の工程のうち、最初の9日間は国内の筑波宇宙センターで、後半の1週間はアメリカのNASAで行われる。最初の筑波宇宙センターの試験では、国際宇宙ステーション”きぼう”を模した船内で受験者全員が共同生活をする。この試験描写が非常に生々しい。9日間を一緒に過ごし、ロボットを作るグループ課題を出されたり、何羽もの折り鶴を折るという司令を出されたり・・・。受験者たちの一挙手一投足がカメラに映し出され、音声はマイクに拾われる。小手先のテクニックは通用しない、今までの生き様を見られる世界だ。

■誰が選ばれるのか最後までわからないドキドキ感

単に試験風景を客観的に描いているだけではない。10人それぞれの心情・・・そのときどうしてそんな言動をとったのかが、克明に描かれている。

「自分は、もともと目立つタイプではないので、その意味であの自己アピールは、正直言ってかなり恥ずかしかったです・・・(中略)・・・でも、想像以上にみなさんのアピールが強烈で、これはまずいと焦りましたね。このまま普通に終わらせたくない、ここで遅れをとることはできないということが自分の中にはありました」

そして気がつくと、当事者に自分をおきかえて読んでいることに気がつく。最終試験の結果報告・・・これを読んだとき自分の頬は涙で濡れていた。

『(夫の試験結果を聞いて・・・)実は皆様が出発された後、しばらく何も手が付けられず、ニュースを見たときは、涙がとまりませんでした。なぜ、ここに主人がいないのだろう・・・と。娘たちは「お母さん、頑張ったじゃん。だから悪くないんだよ。」と言って励ましてくれました。』

■果たして自分はどうなのか?

10年に一度しか巡ってこない試験、しかも受けても1000人に2人しか合格するチャンスはない試験・・・この本は単にそうした宇宙飛行士に選ばれることの難しさを伝えようとしている本ではない。

人を突き動かすものが何か、そしてそれを”夢”と呼ぶとするのなら、それがどれだけ信じられないくらいのパワーを生み出すのか、そして、結果を恐れずその夢を賢明に追い求めて頑張る人がどんなに輝いてみえるのか・・・それを思い知らせてくれる本だ。

この本を読んで「宇宙飛行士になりたぁーい!」と梅雨とも思わなかったが、

「今の自分は彼らに比べてどうなのか?」
「今の自分は彼らに負けない夢を持っているのか?」
「今の自分はその夢を能動的に追いかける努力をしているのか?」


今まで以上に、そう強く問いかけるようになった。




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