2012年3月5日月曜日

書評: 井上ひさしと141人の仲間たちの作文教室

「作文の秘訣を一言で言えば、自分にしか書けないことを誰にでも分かる文章で書くということだけなんですね」

そんな文章ではじまるこの本は、1996年11月15日から17日にかけての三日間、岩手県一関市で開催された「作文教室」での井上ひさし氏の講義内容をまとめたものだ。

井上ひさしと141人の仲間たちの作文教室
著者: 井上ひさしほか 文学の蔵編
発行元: 新潮文庫


■作文の基本から日本語のクセ、作文の添削例までを掲載

本は全4章(1時限目~4時限目)で構成されている。各章に小見出しがついていないので、わたしなりの解釈をもとに趣旨を書きだしてみると以下のような感じだ。

1時限目: 作文の基本について

1時限目だけで20を超えるポイントが掲載されているが、参考までにいくつか挙げると以下のようなものだ。
「タイトルをつけるということで三分の一は書いたということになります」
「みなさん、まず下書きを書きますよね。そうすると、だいたい前の方はいらない」

2時限目: 日本語について

1時限目同様、参考までにここで触れられているポイントをいくつか挙げると以下のようなものだ。
「点ひとつで意味が全然変わってくるわけです」
「木も葉っぱも長い草も、語彙の数は日本が一番だと思います」

3時限目: わかりやすく書くということについて

1時限目同様、参考までにここで触れられているポイントをいくつか挙げると以下のようなものだ。
「文章に接着剤を使いすぎるな」
「誠実さ」「明晰さ」「分かりやすさ」・・・これが文章では大事な事です

4時限目: 添削結果

■「思ったことを書きなさい」はプロにとっても難題

総じて参考になるものが多かったが、中でも印象に残ったことは「”思ったことをかく”はプロにとっても難題である」という井上ひさし氏の指摘だ。「プロでも書けないことを子供に書かせようとすることは何事かと」氏は学校の作文教育に警鐘を鳴らしている。本来子供に問いかけるべきは「(たとえば遠足などに行って)何を思ったのか書きなさい」ではなく「何をしたのか書きなさい」であるべきだろうと氏は言う。

つまり「何をしてきたのか、何を見てきたのか・・・モノゴトを正しく捉えそれを的確に表現すること」・・・まずはその訓練が最初だろうというわけだ。

この氏の指摘は”目から鱗”だった。わたしも子供に(ほんの数行だが)作文を書かせることがあるのだが「(子供が自分に)正しい質問を問いかけられるようになりさえすれば、文章なぞいくらでもかけると考えていた」。おそらく最終的にはそういうことなのだろうが、その前にまず「(遠足で)どこに行ったのか?何をしてきたのか?」あるいは「(読んだ本には)何が書いてあったのか?」・・・こういったモノゴトをとらえさせることが大事なのだ、と気付かされた。

もちろん、これは自分にも言える。

■文章を書くことに興味がある人に

と、こんな感じで色々な学びのある本である。文章の上手い下手に関わらず「文章を書くのが好きでもう少し上達してみたい」と思っている人・・・この本で述べられている「作文教室」の参加者たちはそんな人達ばかりである。同様の気持ちを持つ人ならば”買い”の本であると思う。





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