2012年7月15日日曜日

書評: 挑む力 世界一を獲った富士通の流儀

何か大きなことを成し遂げる上で、計画力と実行力・・・どちらが大事だろうか?

「そりゃー、決めたことを粛々とやる・・・実行力だろ、なんといっても。”言うは易し行うは難し”って言うくらいだもんな」

「いや、計画力だよ。”何かを成し遂げたい!”という想いを形にするはじめの一歩だぜ。ヤル気の持てない計画なんて最悪じゃないか・・・」


本書を読むと、この疑問への答えが見えてくる。

挑む力 世界一を獲った富士通の流儀
著者: 片瀬京子、田島篤(共著)、野中郁次郎(解説)
出版社: 日経BP社

■8つの事例に富士通のパワーの源泉を見出さん

タイトルにある”富士通”は、ICTサービスを提供する企業として国内第一位、世界第三位を誇る「世界最大級の日本企業」の1つだ。

採算が合わずNECが撤退を決める中、あきらめずに研究開発を続け、スパコン「京(けい)」で世界一を獲ったのは、まだ、みんなの記憶に新しいだろう。もちろん、富士通はスパコンだけじゃない。他にも数々の偉業を成し遂げてきた組織である。

そんな富士通が、今の地位を築けたのは単に幸運の連続が重なったからなのか?いや、そんなことはない。そこには何か他社(者)が学べる法則があるはずだ。それは何なのか?

この本は、富士通が持つ成功事例の中から8つを厳選し、描き、”成功の法則”の解明を目指した本である。
  • スーパーコンピューター「京(けい)」
  • 株式売買システム「アローヘッド」
  • すばる望遠鏡/アルマ望遠鏡
  • 復興支援
  • 「らくらくホン」シリーズ
  • 農業クラウド
  • 次世代電子カルテ
  • 手のひら静脈認証
『今回のシステムでは何を優先するのかが明確でした。機能を載せるとスピードが出ないような場合に「両方やってくれ」という話にはなりませんでした(アローヘッドプロジェクトの章より)』

『それから、瓦井さんが当時よく言っていたのは、チームのみんなが同じ強みを持っていても意味がないということ。それぞれ自分の強みがあって、お互い補完し合う、全体で、どんな大きな仕事もできるチームになると(すばる望遠鏡プロジェクトの章より)』

このように、プロジェクトを成功させた要素が、色々な形で描かれている。 

■”事例”と”考察”の2大特徴

本書の特徴は、2つだ。

1つは、先述したように8つの事例を紹介しているという点だ。しかも具体的に。

そしてもう1つは、米ハーバード大学経営大学院教授の竹内弘高氏をはじめ、富士通社員ではない外部の専門家が、富士通の強さについて、各自の観点から考察を述べているという点だ。考察は、実に本全体の約2割(約40ページ/220ページ)にも及ぶ。

こうした考察は、間違いなく、読者の理解を深める手助けとなる。8つの事例紹介だけなら、単に”富士通教の紹介本”・・・評していただけかもしれない。読者も、「ふーん、すごいね」という漠然とした感想だけで読み終えてしまっていたことだろう。

■プロジェクト責任者よりも、経営者にこそ読んで欲しい

ところで、この本を読んでみて、最も印象的だったのは”プロジェクト推進者達が共通して持っていた何としてもやり遂げるぞ、という強い意思・・・つまり、”ヤル気の大きさ”だ。

きっかけは様々だが、どのプロジェクトの責任者も「やり遂げたい!」、「やり遂げるぞ!」、「絶対にやり遂げなければならない!」という”大きなヤル気”を持っていたことが分かる。

そして、その想いが、他の要素・・・たとえば技術力や政治力、現場力など(※詳しい詳細についてはみなさん自身が、本を読んで確認していただきたい)と合間って、プロジェクトを成功に導いている。

言い換えれば、富士通が持つ強みの1つ・・・すなわち、”成功の法則”の1つは、プロジェクト責任者達の”大きなヤル気”を醸成させる、あるいは、それをプロジェクトパワーに変換する力にある、ということではなかろうか。

『(3・11の震災後、野口氏からの提案を役員に提案すると)「予算は何とかするので、すぐにやろう」と即決された。このときには僕は、このプロジェクトは億単位で経費がかかると思っていましたが、それが即決されるのが、さすが本社だな、と思いました。』

そもそも新しい”ヤル気”が生まれるような工夫をしたり、新しく生まれた”ヤル気”が冷めないうちに具現化されるような工夫をしたり、あるいは、プロジェクトに投入された人が”ヤル気”を持てるような工夫をしたり・・・

そんな工夫の仕方を学べるのが本書最大の魅力かもしれない。

(企業に学ぶという観点での)類書】
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【関連リンク】
「挑む力」公式WEBページ



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