名は北川智子(きたがわともこ)。日本人女性で20代。カナダの大学では理系専攻。そんな彼女が世界の超名門大学、ハーバード大学で日本史の教鞭をふるっている。しかも、かのマイケルサンデル教授のように超人気講師だと言うのだ。
「理系専攻だった人がなぜ日本史?」
「大学で際立った存在に見えなかった彼女が、なぜハーバード?」
「当初16人だった受講生が、今や251人!※ いったい、どんな魔法を使ったの?」
「ハーバード白熱日本史教室」は、この謎に迫った本である。
※同大学の他の日本史のコースは数名・・・ひどい時ではゼロ名の申し込みが常態化しているというわけだから、その凄さが容易にうかがい知れる。
■生徒1人1人を授業の当事者に変える教育術
本を読むと、北川智子氏が、今の地位を築けたのは、ある程度、偶然ではあったが、奇跡ではなかったことが分かる。
どこでどう習得したのか、彼女の教え方が優れているのだ。彼女より日本史に詳しい専門家はゴマンといるだろうが、彼女のように生徒の心をわしづかみにする授業ができる人は、本当にごく一握りだろう。
『学生は授業中・・(中略)・・・今やどの学生も手書きノートを離れラップトップ持参で授業に来ます・・・(中略)・・・学習の障害になるような誘惑と闘いながら授業を受けています。私が真っ白な紙を配っておいて、授業で「お絵描き」を指示すると、学生はまずパソコンを閉じる必要があります。 最初はひやひやしますが、いったん紙に絵を描いてみると聴覚で理解したことが視覚に変換されて、イメージがぐんと広がるのです。』
生徒を積極的に授業に参加させる教育手法をアクティブティーチングと呼ぶのだそうだが、とにかく彼女のその方法が抜群なのである。
■1粒で4度おいしい
本は、北川智子氏がカナダの大学を卒業した24歳の夏(2004年)から、人気講師を博し250名以上もの生徒を抱えるようになった現在(2012年)にいたるまでを、次の観点から書いている。
・つまり、ハーバード大学の先生にはどうやってなれたのか?
・具体的にどんな内容の授業を、どのように教えていたのか?
・その結果、大学や生徒からどのような評価を受けたのか?
・実際のところ、授業にはどのような工夫をしたのか?
本を読んでみると、学べるのは何も教育手法だけではないことに気がつく。
「日本史って、こんな切り口で見てみると確かに面白いな」と思ったり、「ハーバード大学で学ぶことはもちろん、教えることっていうのは決して、夢物語ではないんだ」と勇気づけられたり、様々な想いが沸き起こる。
著者が一体全体、この本を通じて、読者に何を伝えたいのか・・・人生論を伝えたいのか、日本史の面白さを伝えたいのか、人への教え方を伝えたいのか・・・正直、戸惑ったりもするが、要するにそれら全てを伝えたいのだろう。つまり、この本最大の特徴は、一冊で「何が起こるかわからない人生の面白さ」「日本史の奥深さ・面白さ」「ハーバード大学の面白さ」「授業のテクニック」の4つについて学ぶことができるという点だ。
ちなみに、私自身、”眼から鱗”だったのは次の2つである。
・切り口一つ変えるだけで、全く違う世界観が見えてくる
・ちょっとした工夫1つで、生徒の姿勢を受け身から能動に変えられる
私自身コンサルタントを生業にしているので、彼女が記す数多くのアクティブティーチングの事例は大いに役に立った。
■幅広い読者がターゲット
様々な学びを得られるこの本のターゲット読者層は非常に幅広い。これから大学や大学院への進学を考えている人、就職を控えている人、先生やコンサルタントなどのように人を教える立場にある人、日本史を勉強している人、などにはドンピシャの本だろう。
なお、この本は2012年5月20日に出版され、1ヶ月後に既に8刷り目になっている。どうやら北川智子氏の人を惹きつける力は教壇の外でもいかんなく発揮されているようである。
【日本史つながりでの関連書籍】
・井沢元彦の学校では教えてくれない日本史の授業
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