2013年3月29日金曜日

書評: 間抜けの構造

間が抜けてる
間に合う
間が悪い
間をはずす
・・・

みなさんは、他にどんな”間”を思いつくだろうか?

”ま”、”MA””マ””間”・・・”間”は、文字通り、空間・時間の隙間を埋めるかのように、いたるところに登場する不思議な言葉だ。そんな何気ない存在である”間”を理解すると、人生ちょっと面白いかもよ、面白くできるかもよ・・・そんなささやきが聞こえてきそうなのが、この本だ。

間抜けの構造
著者: ビートたけし
出版社: 新潮新書



本書はビートたけし氏が、様々な立場で、”間”を観察し、体感し、理解し、果ては使いこなそうと努めて生きてきた・・・そこから得た”人生の気づき”をまとめた本である。そもそも”間”とはなにか? どんな”間”があるのか?  時間(タイミング)的な概念なのか、空間的な概念なのか? ”間”とは意識して使いこなせるものなのか? 使いこなせるとどんな得があるのか? なぜ、日本語にしかないのか? 著者が、思うところを、ごくごく自然体で語っている。

『軍団の抜け話ばかりしていたらキリがないね。あいつらみたいに抜けなことばかりしていたら、一般企業だったらとっくにクビになっているよ・・・(中略)・・・でも、お笑いは、そうした社会とは違う社会だから・・・(中略)・・・一般の社会通念と照らし合わせて、100パーセント合致するようなことばかりしていたら、それこそお笑いの世界では通用しない。そこがおもしろいところなんだけど。』(本書より)

本書最大の特徴は、言うまでもなく”間”というものが、ビートたけし氏本人の豊富な経験に照らし合わせて、語られていることにある。やるべきことが見えずぶらぶらしていた一大学生として、お笑いタレントとして、たけし軍団団長として、司会者として、映画監督として、俳優として、芸術家として・・・”間”を観察する視点は、ビートたけし氏ならではで、とてつもなく広範囲だ。

それだけに語る内容に説得力があり、「ふんふん、なるほど」と頷かされることが多い。たとえば、最近、世の中から”間”というものがなくなっていると、たけし氏は指摘する。確かにテレビ画面は端から端まで文字のオンパレードだ。映画館に行けば、映像空間の1つである奥行き・・・その”間”が3D技術によって埋められつつある。”間”は、人に考える時間を与える。人の想像力を掻き立てる。その間が、どんどん奪われている・・・という。まさにそのとおりだと思う。

本書の魅力はこうした説得力ある主張に加えて、読者のちょっとした好奇心をも満たしてくれることにある。考えても見て欲しい。社会的に一目置かれる人が、”間”という言葉をきっかけに、自分の人生を赤裸々に語ってくれている。普段テレビで、なかなか見ることのできない巨匠の人生の裏側を覗かせてもらっている。そんな気分だ。最後の一ページまで好奇心が掻き立てられる。

『大学に行きたくない、働きたくもない、けれど何かをやりたいわけじゃない。それがこの頃のおいらだった。今だったら完全にニートだよね。人生において唯一、「何者でもなかった」という時期かもしれない。ぽっかり”間”が空いたわけだけど、自分から積極的にそれを埋めようとは思わなくて、ただ何となく流されていただけ』(本書より)

ビートたけし氏のような人でも、自分と似たような時期があったんだな・・・と。それが不思議であり、感慨深くもあり・・・なんか、親近感がわくわけで・・・。

そんなわけで、”ま”、”MA””マ””間”・・・わたしたちをとりまく”間”。”間”を侮ることなかれ。その言葉自体に重みがあり、深みがあり・・・新しい発見がある。普段気にもとめない・・・当たり前の”間”。”間”の取り方をちょっと意識してみると、人とのコミュニケーションがちょっとうまくなった気分になる。笑いをとろうと、”間”のはずしかたをちょっと意識してみる自分がいる。”間がいいこともあれば、間が悪いこともあるさ・・・それはたまたま間が悪かったんだよ・・・”と言い聞かせる自分がいる。

”間”をちょこっと意識してみることで、人生ちょっぴり豊かになるのかも・・・そんなことを考えさせられた一冊でござんした。


【ユニークな視点で”当たり前を観察する面白さ”という観点での類書】
ハーバード白熱日本史教室(北川智子著)
地図から読む歴史(足利健亮著)

2013年3月22日金曜日

書評: ブラック企業 ~日本を食いつぶす妖怪~

最初の会社で失敗 → 腰掛けのつもりで期間工 → 派遣 → 日雇い → 飯場 → 路上生活」

『ルポ若者ホームレス』の著者飯島裕子氏は、20~30代の若者がホームレスに陥る負のプロセスをこのように明らかにした。では、このプロセスの”最初の会社で失敗”は、どうして起こるのか? 単に本人の運が悪かっただけか? 本人の根性がなかったからだけか?

実は、少なからず企業側に問題がある・・・いや、それどころか日本社会の仕組み全体が大きな欠陥を抱えている・・・そう警鐘を鳴らす本がある。

ブラック企業 ~日本を食いつぶす妖怪~
著者: 今野晴貴
文春新書

(キーワード: 違法、企業、若者、セクハラ、パワハラ、新卒、労働基準、36協定)


■一筋縄ではいかないブラック企業に対する処方箋

本書は、いわゆる”ブラック企業”の実態を暴き、そのターゲットとなる若者達に対して、また、社会全体に対して、有効な解決策を提示するものである。なお、ブラック企業について、これといった明確な定義はないようだが、わかりやすく表現すると「違法または違法に近い労働条件で若者を働かせる企業のこと」となる。

さて、このような話を聞くと、みなさんはどのようなイメージを持つだろうか。「要するに、ブラック企業って、法律を守る体力もないようなどこぞの零細企業だったり、日雇いをかき集めて、危険な現場で働かせるような存在そのものが怪しい組織だったり・・・働く前からブラックであることを明確に特定できる・・・そんな企業のことでしょ!?」。そう、思うかもしれない。ところが、どっこい、である。本書が非難するブラック企業は、大企業であり、むしろ、世間ではよいイメージをもたれている企業ばかりだ。だからこそ、タチが悪く、一朝一夕に解決できる問題ではない、と著者は主張する。

なるほど、ひどい企業があるものだ。たとえば、能力が期待値を下回るとわかった新卒社員に対して、とにかく「自己反省」を促す。それも、生やさしいものではない。洗脳と呼ぶにふさわしい行為だ。言葉だけならまだましだ。服装も、(同期はみんなスーツなのに)ジャージ着用を強要し、みんなとは違うんだ、という意識を本人にも周りにも植え付ける。会社が不要と考えた人材を、やめさせるように(しかも本人がそう思うように)しむけているわけだ。これらは組織ぐるみに行われている。

「嫌だったらやめて次の会社に行けばいいじゃん」・・・と、我々の思考回路が働く。ところが、日本社会がそれを許さない。日本企業の多くは、新卒には価値を見いだすが、一度、失敗した人には価値を見いださない。かくして、”最初の会社で失敗”を経験した人達は、冒頭でも述べた負のプロセスへと誘われてゆく。

本書は、こうした絶望的とも言える状況に対する防衛手段を提示しているのである。

■自らを守るために、世の中をよりよくするために、読んでおきたい

ところで、本書を読む際には、やや冷静になる必要がある。著者の強い想いの裏返しなのだろうが、一部客観性を欠いたような表現が垣間見えたのが気になった。たとえば、ブラック企業の実例を描写している次のクダリ。

『入社後すぐの研修に、すでに(その会社の)異様さが現れている。「3月1日から1週間研修があり、大学の卒業式の日だけ休みました」「卒業旅行も春休みもなかった」というのだ。」』

私に言わせれば、こうした取り組みをする企業がユニークであることは間違いないが、これを頭ごなしに”異様である”と表現するのは、どうかと思うのだが・・・。

とは言うものの、本書に書いてあること主張全ての正当性を疑っているわけではない。それは著者のプロフィールを見れば一目瞭然である。今野晴貴氏は、自らが代表を務めるNPO法人を通じ、実際に被害にあった若者達、何十人、何百人達に接してきた張本人である。火のない所に煙は立たない。感情的になりすぎて、客観性を失いたくないが、この本に我々が見過ごしてはならない内容が書かれていることもまた事実だ。
  • これから就職をする(あるいは就職したての)若者達が自らを守る手段として・・・
  • 日本をよりよくするための政策を考える人達や、彼らを苦しめる一因を作っている企業側が、世の中の現状を正しく認識するためのインプットの1つとして・・・
読んでおきたい一冊だ。


【関連書籍】

===それをやったら「ブラック企業」(2013年4月14日追記)===
日経ビジネス2013年4月15日号の特集がちょうど「ブラック企業」だった。今日の企業で「ブラック企業」と呼ばれることが看過できないほどのダメージをもたらすリスクがあるということと、そのレッテルを貼られないようにするためのポイントが何かを解説している。その中で次の文章が印象に残った。

『「(ブラック企業との噂が広がった)事件後、全社一丸で意識改革に取り組み、現在の離職率は低い」というが、そうした改善への努力はほとんど報道されないままだ。』

そもそも世の中を良くしようという目的から生まれた「ブラック企業」という言葉だが、軽く触っただけの先生を体罰教師と呼び騒ぎ出す輩がいるように、本来とは異なる意図で「ブラック企業」という言葉が一人歩きしないように、社会全体で配慮していきたいものだ。

2013年3月19日火曜日

災害に強い組織の作り方

月刊VOICE4月号を読んだ。2点気になる記事があったので、書いておきたい。

■グローバル企業という名の落とし穴
(外国人投資家に支配されたサムスンの悲劇 by 三橋貴明)

グローバリズムとかグローバル企業という言葉は、なんとなくモダンでポジティブな印象を受ける。ところが、そこに大きな落とし穴が待っているというお話。なお、三橋氏によれば、グローバル企業とは次の3つのいずれか、または複数が達成された組織を指すとのこと。

1. モノ・サービスの国外への輸出
2. 労働者の国外への移動
3. 資本(お金)の国外への移動

このいずれもイメージしやすい。トヨタは、クルマを世界中に輸出(=①)しているし、ユニクロは海外労働者の雇用を増やしている(=②)。また、これらの企業いずれも国外で稼いだ金の一部を国外の工場や店舗などに投資している(=③)。

さて、三橋氏の言う落とし穴だが、これは③が過度に進んだケースを指す。③が過度に進むと、企業は儲かっても、企業の母国は儲かるとは限らない・・・という構図ができあがる。なぜなら、企業がいくら国外で儲けてもそれが母国に落ちてこないからだ。母国民の失業は減らないし、母国民にお金が落ちてこないからだ。ちなみに、これは日本企業に限った話ではない。ここ最近ではアップル社が、このケースにぴったり当てはまる企業としてよく取り上げられている。2011年8月7日の「苦悩するアメリカ」という日経新聞の記事でも、やはり同じようなことが言及されている。

三橋氏の指摘で、驚いたのは、この落とし穴に・・・モロ・・・ハマっているのが我がお隣、韓国という事実だ。韓国というと、サムスンやLG、現代自動車など、世界に名だたる会社を連ねた勢いのある国・・・というイメージが(個人的に)あるが、その基盤は脆弱・・・らしい。脆弱な理由が、先に述べた③が過度に進んだ企業が多い、ということに加え、そうした大企業の株主のほとんどが、実は外国人であるということにある。なんとサムスンの株主の54%は外国人投資家だとか。さらに驚くべきことに、韓国では、韓国国内の中小企業より、サムスンなどグローバル企業の払う税金の方が少なくなるよう優遇措置がはかられているとのこと。

韓国は一度、IMFが介入していることもあり、このように歪な構造ができあがったとある。日本のグローバル企業に、そのままこれを当てはめるのは無理があるが、少なくともこの韓国の事例に、日本企業・・・というか、日本国としての学びは、大いにありそうだ。国民も、企業のように、自由気ままに、来年からイギリスに永住するから・・・とできるのなら別の話だが・・・。

■災害に強い組織の作り方
(「震災から二年」記憶すべきあの企業の対応 by 夏目幸明)

東日本大震災の混乱下で、大きな被害を受けたにもかかわらず、迅速果敢に行動し、成果を上げた企業が紹介されている。

いずれの成功事例にも共通するのは、災害の影響でトップと現場の間のコミュニケーションやモノの流れが切断されても、機能できる態勢を持っていた、という点だ。平時は、組織図どおり、トップから現場に指示が落ちそのとおりに機能するが、有事だと何が起こるかわからない。通信手段は生命線だから強化しておこう・・・と仮に、二重・三重の備えをしておいたとしても、いざ、それが機能するか、人が慌てずに動けるか、なんて誰もわからない。

記事によれば、態勢作りのヒントは次の3つだ。

#1. 現場への権限委譲
#2. 災害時に#1を即実践できるための日頃の訓練と方針の周知徹底
#3. 過去の震災履歴の活用

記事では、有事に現場が平時の権限をオーバーライドできる方針を周知徹底していた例として、NEXCO東日本を取り上げている。

『緊急時には、大まかにいえば、「見積もりはあとでいい。資材も、別の工事のためのものを使っていい。とにかく震災が起きたら、被災地に救援物資を運ぶ道を通すことが最優先」という態勢を築いていたのだ。』

また、日頃から現場が判断できる能力を養っていた組織の例としてヤマト運輸を挙げている。ちなみに、本記事では紹介されていなかったが、確かどこぞの記事で、ローソンも日頃から進めていた権限委譲が、災害時に役立ったと紹介されていたことを、ふと思い出した。

こうした話を聞くにつけ、思うことがある。今、どの企業でも、有事の行動計画(BCP)を策定する際には、「有事の方針」なるものを策定するのが王道にはなっている。王道・・・にはなっているのだが、本当に現場が有事の判断のよりどころにできる方針になっているかどうかと言えば、それは別の話だ。たとえば、「人命保護を最優先にする。つぎに、事業の継続・・・」といった感じで方針を策定する企業が多いが、果たして、このような当たり障りのない方針が、先のNEXCO東日本のような現場の迅速な行動を促すものと言えるのか・・・企業は、熟慮が必要だと思う。

さらに、何でもかんでも行動ルールを文書化しておけばいいという風潮もまだ根強い。これは大企業になればなるほど、当てはまる。やはり、先述した成功事例に鑑みれば、これもまた、危険な思い込み・・・である。我々は東日本大震災をはじめ、過去の大震災から、たくさん学んだハズだ。それを活かさないでなんとするか。

月刊VOICE 2013年4月号

2013年3月16日土曜日

商社の異変

日経ビジネス2013.3.18号の特集は「商社の異変」。儲かってウハウハなハズの商社に、異変ってなんだよ、おいっ!?・・・と思ってしまう。

ここで「異変」とは、商社各社の収益が資源ビジネスへ大きく依存している・・・その反動のことだ。そして「反動」とは、「掘れば売れる」という資源バブルの上にあぐらをかいてきたせいで、商社マン達の鋭敏な感が鈍ってしまったということと、そもそもその資源バブルが崩壊しつつあるということ・・・を指す。

記事では、そんな異変を乗り切るため、商社の様々な取り組みが紹介されている。中でも、印象的だったのは、三井物産の事例だ。投資を行う際の判断基準を見直した、という。その新たな投資基準とは・・・

①収益の柱になる事業性があること
②特定の市場で重要なニーズがあること
③予測困難な不確実要因があえて存在すること

の3つだが、③番目の「予測困難な不確実要因があえて存在すること」がユニークだ。不確実性はできる限り排除しろ・・・が一般的なアプローチだが、そこをあえて好め!と宣言しているようなものだ。

リスクマネジメントの世界ではよく、経営が「リスク受容基準(企業としてどこまでリスクを受け入れるのか)」を現場がわかる言葉で示すべし、と言われるが、具体的にどのように現場に示せばいいか、なかなかイメージを持ちづらい。三井物産の例のように「予測困難な不確実要因があえて存在すること」という基準の示し方も1つの解だと思う。

参考にしたい。

日経ビジネス2013.3.18号

2013年3月14日木曜日

書評: MBA流チームが勝手に結果を出す仕組み

日頃、当たり前のように実施していることに、ちょっとした合理性を持ち込んでみると、大きな改善につながることがある。フォード社は、作業者の一人一人の能力に頼ることが当たり前だった自動車製造に、生産管理法という考え方を持ち込むことで、生産性に大きな革命をもたらした。

同様に、組織のマネジメントで苦労するマネージャーが、日頃当たり前のように行っている活動の中に、ちょっとした合理性を持ち込んでみてはいかがだろう・・・というものが、この本の狙いだ。

MBA流チームが勝手に結果を出す仕組み
著者: 若林 計志
出版社: PHPビジネス新書
レビュープラス様から献本いただいた本です

本書は、”マネジメントコントロール”と呼ばれる管理手法を紹介し、その使い方を指南するものだ。管理手法・・・と言うと、ややアカデミックな響きがあり「理論よりもまず実践だろ!」という主義の人は、アレルギー反応を示すかもしれない。しかし、難解な用語が並ぶ、だらだらと眠くなる・・・大学時代を思い出す・・・あのようなな講義とは全く違う。総論的な話の後には、必ずといっていいほど具体例が紹介されており、読み手への配慮がうかがい知れる。

『マネジメントコントロールのなかで、最も直接的な方法が「行動コントロール」である。やって欲しい行動を極めて具体的に指示し、それに沿って動いてもらうことで、望ましいゴールへと導く・・・(中略)・・・よく人気のラーメン屋が、チェーン展開したとたんに味が落ちて失敗してしまう例がある。その原因は、「行動コントロール」が甘いからだ。・・・』(本書第3章行動コントロールより)

また、実践性を重視した本とも言える。最近、やはりマネージャー向けのもので「結果を出すリーダーはみな非情である」(冨山和彦著)」を読んだばかりだが、あちらが”広く浅く”ならば、こちらは”狭く深く”といった感がある。すなわち、本書の200ページ全てが、マネジメントコントロールと呼ばれる1つのツール解説に注ぎ込まれており、この本を読み終えたときには必要な知識が一通り身につくような設計になっている。MBAにはマネジメントコントロールと呼ぶ科目があるが、言ってみれば、この本一冊にその科目の全てをまとめたようなものだ。

さて、ここで冷静になって考えてみたい。この本を読むメリットは何だろうか?

実はあまり世に知られていなかったマネジメントに役立つツールを習得できることだろうか? いや、違う。マネジメントコントロール自体は目新しいものじゃない。実は、わたしがこの本を読んでみて最初に感じたのは、「あー、それ何となくわかるし、今まで自分自身でも無意識の中に実践してきたものだな」というものだった。そうなのだ。実はマネジメントコントロールは、そんなに斬新な考え方ではないのだ。マネジメントの人たちはみな、多かれ少なかれ、無意識のうちに実践しているハズなのだ。

では、改めて、読むメリットはあるのだろうか?

その答えはYESだ。わたしが前段であえて”無意識のうちに実践しているハズ”と述べた点がポイントだ。そう、「無意識を(有)意識に変えてくれる」ということがこの本最大のメリットなのだ。多くの夢を実現し続けてきた渡邉美樹氏は「僕の夢には日付がある」と語ったことで有名だが、その真意は「夢を夢として漠然と考えているだけでは駄目で、いつまでに実現したいという意識を持つことで、実際のアクションへとつながっていく」ということだと思う。無意識を(有)意識に変えることが以下に大事かということの一例だ。ひるがえって、本書が指南するマネジメントコントロール。これも、無意識を(有)意識に変えることが実践性を高める第一歩なのではなかろうか。

著者も次のように語っている。

『大切なのは、自分の指示がどのマネジメントコントロールに当たるかを念頭に、そのプラス面とマイナス面を意識して使うことなのである』

組織のマネジメントに苦労しているマネージャー達におすすめの一冊だ。


【類書】
 ・結果を出すリーダーはみな非情である(冨山和彦著)

2013年3月10日日曜日

書評: カンブリア宮殿 村上龍×経済人 変化はチャンス

テレビや雑誌に取り上げられる、いわゆる”成功した経営者”は、みな生き生きとしている。外見からは想像だにできないが、成功の大きさに比例するかのごとく、みな過去に人一倍失敗し、人一倍苦労してきている。そして、人一倍こだわりを持っている。そんな彼ら・彼女らが発する一言一言に重みがあり、ハッとさせられる。自分に足りないものを気づかせてくれるだけでなく、エネルギーも分け与えくれるのだ。

そんな機会を与えてくれるテレビ番組がテレビ東京の”カンブリア宮殿”だ。そして、同番組において2010年2月から2010年末までの約1年間に登場した経営者達の中で、「変化はチャンスなり」を体現した21人の回を集め、編集したものが本書だ。

カンブリア宮殿 村上龍×経済人 変化はチャンス
著者: 村上龍
編者: テレビ東京報道局
出版社: 日本経済新聞出版社
発行日: 2012年7月25日



この本は、”カンブリア宮殿”を好きな人(あるいは、それに似た・・・たとえば”ガイアの夜明け”や”情熱大陸”、”プロフェッショナル仕事の流儀”などといった番組が好きな人)で、なおかつ、見る時間をなかなかとれない、という人向きの本である。

なぜなら、テレビ番組から得られるエッセンスとほぼ同じものを、その約6倍のスピードで吸収できるからだ。”エッセンス”と一言で簡単に片付けてしまうのはおこがましいかもしれないが、物書きのプロである村上龍氏が著書であることが大きく貢献しているのだと思う。本当に見ている者・読んでいる者が一番気になる重要な部分を10ページ前後の中にものの見事にまとめあげてくれている。私は同番組を、かなりの数を見ているが、本書を読んだ後に得られる感覚は、テレビを見た後に得られる感覚と全く同じものだった。そんな番組が21本も入っているわけだ。1本あたり1時間の番組だから、全部見ようとすると本来なら占めて21時間かかるところを、3時間程度で楽しめてしまう。

”時間を金で買う”とは、まさにこのことだ。

ところで、実際にこの本で取り上げられている21人の経営者達も、すごい。以下は、私の印象に残った経営者達が発したコメントの一部だ。
  • 強弱はあっても、自分を高めたいという気持ちは、いつの時代にも、世界中の誰にでもあると思っています(パーク・コーポレーション社長 井上秀明)
  • 人のためになることには、必ず利益もついてくると思う(山梨日立建機社長 雨宮清)
  • やはり現場で何が起きているのか、どんな仕事をしているのか、あるいは現場の人たちがどういう思いで、仕事をしているのか、それを五年半勉強できたというのは非常に大きいです(セーレン会長兼社長 川田達男)
こうしたコメントは本当に役に立つ。たとえば、わたし自身、自分の会社経営で日々、人をやる気にさせるためにはどう接したらいいかで、悪戦苦闘している。実は以前、こんなことがあった。

会社の中で意気揚々と「みんな月曜日がくるのを待ち遠しくなる会社にしたい!」と声高に叫んだところ、「仕事なんてそもそも楽しいわけないじゃん。やらなくて金もらえるなら、みんなやらない。仕事を楽しくしようっていう気持ちが理解できない」と反論する仲間が約1名だがいたのだ。

それ以来「本当にそうだろうか」と、ことあるごとに自問自答してきた。だが、上に挙げたパーク・コーポレーション社長 井上秀明氏の言葉を耳にすると、この悩みに対するヒントをもらえたような気になり、励まされる。

本書を読んでいると、まぁ、このようにいろいろなことに気づかされ、励まされるのだ。特に、”時は金なり”を大切にしたい方・・・ぜひ、どうぞ。


【類書】
 ・日本でいちばん大切にしたい会社(坂本光司著)

2013年3月4日月曜日

年をとることは引き算することと一緒!?

前回投稿からすっかりご無沙汰してしまった。かなり、プレッシャーのかかるプロジェクトを担当しており、その余波で土日がつぶれにつぶれて今日にいたった次第。

さて、VOICE3月号。テーマは「バブルは再来するか」。

■値段が先か、機能・デザインが先か
 プレミアムマーケットに「値引き競争」はいらない(大喜多寛アウディジャパン社長)より

以前、確か勝間和代氏の「利益の方程式」という本か何かで...(うろ覚えのまま書き出すと)

「食べ物屋さんの多くがする過ちは、作ってから値段を決めてしまうことにある。そうではなく、その立地ならば、どんな値段が好まれるか・・・そういったことを先にそれを決めた上で、その値段の中でベストなものを作らないと駄目なのだ」

そんなことを言っていた。記事では、アウディジャパン社長の大喜多寛氏が、一見?・・・その真逆の主張をしてるのが印象的だ。

『日本のクルマづくりはプライスから決まるのです。たとえば、120万円で出すと決めて、その範囲内でどれだけ機能を盛り込めるかを考え、パワーウインドーや、自動ブレーキシステムまで入れてしまう・・・(中略)・・・。でも、それが個性を弱くしている。・・・(中略)・・・アウディをはじめとするドイツのクルマづくりはまったく逆です。まずは走って楽しいクルマ。こういうニーズを満たすとしたら、こんなデザインがきれいだね、じゃあそれに合わせてエンジンをつくりましょう、という具合に考える。』

両社は真逆のことを言っているようで実は同じことを言っているのだと思う。勝間氏の値段を・・・というのは、裏返せば、地域のレストランのニーズはコストに重きがあって、値段的な要件を把握してから、それに見合うものを用意すべきだろう・・・といっているに過ぎないのだ。ただし、気をつけなければいけないのは、常にコスト=ニーズではないということだ。現にコスト、コスト・・・でお得感に主眼をおいて用意してきた日本のクルマ業界はお客の心をつかめないでもがいている、というわけだ。つまるところ、顧客を見よ・・・となる。


■中国共産党の大罪
 共産党政府崩壊 「Xデーに備えよ」(櫻井よしこ、ウィリー・ラム)より

中国共産党の大きな罪を指摘している。その中でわかりやすい指摘があったので以下に取り上げておきたい。

ウィリー・ラム『すべての国民が平等に豊かさを教授できるはずの社会過ぎを掲げているにもかかわらず、実際には大きな経済格差が生まれている』

櫻井よしこ『”ニューヨークタイムズ”紙が3ページの特集記事を組み、温家宝首相の一族が27億ドル以上、1ドル90円換算でじつに2430億円の巨額の資産を蓄財していることを報道しました。・・・中国の国民所得が6000ドル(54万円)という状況で、政府要人が2430億円も蓄財しているのは、犯罪です・・・』


よく言われるように、まるで中国が資本主義で、日本が社会主義みたいだが、まさにこの矛盾が中国共産党の矛盾であり、罪であり、崩壊が叫ばれる理由というわけだ。

===2013年10月14日追記(”毛沢東の教え”)===
2013年10月7日号の日経ビジネスで、なぜ、共産主義を目指すハズの中国で今日のような劇的な格差が生まれ始めたかについて、ズバリの解説コメントが載っていた。

1978年に改革開放政策を始めた鄧小平は、「先に富める者から豊かになれ」という先富論を打ち出したとのこと。その論は見事にはまり、今日見るように富めるものが続出したのだが、先に富んだ者は既得権益層となってしまい、「先に富んだ者は富んでいない者を牽引して共に豊かになれ」という教えについては実行されず・・・それが今日の劇的な格差を生み出したカラクリらしい。既得権益・・・つーのは、どなんな主義を持ったどんな国も持つ、癌みたいなもののようだ。


■シェールガスは幻!?
 日本は金融緩和をただちに止めよ(ジム・ロジャースより)

わたしがシェールガスという言葉を初めて耳にしたのは、忘れもしない2011年5月2日号の日経ビジネス。半信半疑だったが、それから瞬く間に世界を席巻し、今では新聞やビジネス誌でこの言葉を目にしない日はない。「アメリカが産油国から、世界一の産出国へ」という見出しももはや珍しくない。そんな中、「おっ」と思える記事があったので取り上げておきたい。

ジム・ロジャース氏によれば、実際のリグ掘削はこの2~3年で75%減少しており、シェールガス田用に注文されたポンプの数も50%減っているという。

『掘削した井戸は寿命が非常に短いことがわかったのです。最初の30日はたくさん算出しますが、その後、急に減少する。米エネルギー省も、今年はシェールガスの算出は2~3%増えるが、2014年には減少する、と言っています』

いろいろな記事に目を通しているが、このような指摘を目にしたのは初めてだ。確かにやや過熱気味とも言える今の動きには、このような指摘を聞かずとも直感的に警戒感が走るのもまた事実だが、果たしてどうなのだろう。これからも、ウォッチしていきたい。

======シェールガスその後(2013年9月25日追記)=======
2013年・・・いよいよメディアは、どこもかしこもシェールガスやシェールオイルというキーワードを扱うようになってきた。日経ビジネス2013年9月23日号「米国はエネルギー輸出大国にはならない」という記事を見ると、確かにシェールガスが減少する・・・いや、している・・・という話が出ている。ただし、それは埋蔵量の問題ではなく、コストの問題である(採算割れを起こす)という指摘だ。シェールガスがいたるところで採掘されるようになった結果、米国では、ガスの価格が下がり続け・・・シェールガスの採掘に必要なコストをも下回るようになってしまったというのだ。記事によれば、シェールガスに比べて、既存設備を流用できることからより安価な採掘が可能なシェールオイルへ注目が集まるが、こちらは埋蔵量の問題で、2020年頃にピークアウトするだろうと言われている。で、シェールガスの埋蔵量ってのはどうなんだろう・・・。


■年をとることは引き算することと一緒!?
 五輪招致で東京を 「21世紀のスポーツ都市」に(竹村真一、為末大)

記事は五輪招致をテーマにした話だが、その中に出てくる為末選手の次の言葉が印象的だった。

『私は競技人生を通じて、凝縮された「人の人生」を経験してきました。27歳くらいまでは能力が上がっていきますが、そこからはトレーニング量が落ちる、関節が痛む、体力の回復も遅くなると言った「肉体の衰え」を実感するようになる。そうなると、体力を拡大させていく「足し算」から、大事なものだけを残していく「引き算」へと、考えを改める必要が出てきます。』

私自身は一流のアスリートでも何でもないのだが、40歳に到達した今、これを実感できる。それこそ、小学生の頃から、運動には縁があったし、今でも早朝ジョギングをやっているので、体力の衰えを人並み・・・またはそれ以上に・・・感じる場面が多々ある。たとえば、以前は、8Kmのジョギングをひたすら毎日走っていたが、今、そんなことをすると、翌日、膝が痛くて歩けなくなってしまう。今ではせいぜい週3~4日程度だ。

別にスポーツに限った話ではなく、仕事・私生活全てにおいてそうだ。睡眠時間も昔ほど削ることはできなくなったし、パソコンの前に座っていられる時間も短くなった。そのような制約条件の中、若い頃と同じ・・・いや、それ以上の品質を保とうとしたら、普通のことをやっているだけでは達成できない。日々、工夫の連続だ。

為末氏の言葉を聞いて、自分だけでなく、みんな苦労しているんだと知って、なんとなく励まされた気になった。

月刊VOICE2013年3月号

書評: 戦略の本質

戦略の本質 ~戦史に学ぶ逆転のリーダーシップ~
著者: 野中郁次郎、戸部良一、鎌田伸一、寺元義也、杉之尾宣生、村井友秀
発行元: 日本経済新聞出版社


同著者陣の前著「失敗の本質」では、戦略の重要性を学んだ。本書「戦略の本質」では、有効な戦略とは何たるかを学んだ。

■過去の歴史に”戦略のあるべき姿”を求めた本

本書は、過去の戦争や紛争の中で劇的な逆転劇を引き起こした事例をとりあげ、そこでの戦略を詳しく観察・分析することを通じて、”戦略のあるべき姿とは何か?”を追究した本だ。なお、取り上げられる事例は、いずれも有名なものばかりで、次の6つだ。
  • 毛沢東の反「包囲討伐」戦
  • バトル・オブ・ブリテン
  • スターリングラードの戦い
  • 朝鮮戦争
  • 第4次中東戦争
  • ベトナム戦争
書き出しこそ戦略論に関する学術的な話が多くとまどってしまうが、最後まで読みすすめると”有効な戦略”の共通点というものが、確かに見えてくる。それがどんなものか・・・詳しくは、ぜひ本書を読んで確認してもらいたい。

なお、私にとって最も興味深かったのは、戦略目的(≒たとえば相手を屈服させること)を実現できるかどうかは「有効な戦略を立てられたかどうか」というよりも・・・もちろん、それも重要ではあるがそれよりもむしろ・・・「状況変化に合わせて、有効な戦略を立て続けられたかどうか(あるいは変化を織り込んで戦略を立てられたかどうか)」にかかっている、という点だ。つまり、戦略とは何らかの前提(たとえば自分の保有する資源や、能力、相手の動きなどに対する想定)があってはじめて立案できるものだが、そうした前提は時間の経過とともにどんどん変化するのが常であり、その変化に合わせて、柔軟かつ適切に相手の効果を上回る戦略を立てられるかどうかが目的達成のカギとなる、というわけだ。そして、その鍵を握っているのは、言わずもがなリーダー。ゆえに、本のサブタイトルに「リーダーシップ」という言葉がつくのも納得できる。

ところで、本書の魅力は、戦略に対する学びだけではない。歴史そのものを学べるというおもしろさもある。取り上げられているケースは全て有名な戦争・紛争だが、歴史好きでもない限り、我々が知っているのはせいぜい、戦争・紛争が起きた年と、その結末くらいだ。ちなみに、私が一番興奮したのは第4次中東戦争、そしてバトル・オブ・ブリテンの話だ。結果がわかっていても、思わずのめりこんでしまうというのは面白い。

■いきなり飛びついても理解ができる

本書は、決して易しい読み物ではないものの、戦略の基礎知識がなくても読むことができるという点が嬉しい。加えて、著者陣の前著「失敗の本質」を読んでいなくても全く問題ない。

組織においては、特に戦略を考える立場にある人・・・つまり、経営者や経営企画部の人、あるいはそのような立場を目指す人に、おすすめできるものだと思う。


【関連書籍】
・失敗の本質(野中郁次郎氏ほか)

書評: 3 行で撃つ <善く、生きる>ための文章塾

  「文章がうまくなりたけりゃ、常套句を使うのをやめろ」 どこかで聞いたようなフレーズ。自分のメモ帳をパラパラとめくる。あったあった。約一年前にニューズ・ウィークで読んだ「元CIAスパイに学ぶ最高のライティング技法※1」。そこに掲載されていた「うまい文章のシンプルな原則」という記...