『ルポ若者ホームレス』の著者飯島裕子氏は、20~30代の若者がホームレスに陥る負のプロセスをこのように明らかにした。では、このプロセスの”最初の会社で失敗”は、どうして起こるのか? 単に本人の運が悪かっただけか? 本人の根性がなかったからだけか?
実は、少なからず企業側に問題がある・・・いや、それどころか日本社会の仕組み全体が大きな欠陥を抱えている・・・そう警鐘を鳴らす本がある。
ブラック企業 ~日本を食いつぶす妖怪~
著者: 今野晴貴
文春新書
(キーワード: 違法、企業、若者、セクハラ、パワハラ、新卒、労働基準、36協定)
■一筋縄ではいかないブラック企業に対する処方箋
本書は、いわゆる”ブラック企業”の実態を暴き、そのターゲットとなる若者達に対して、また、社会全体に対して、有効な解決策を提示するものである。なお、ブラック企業について、これといった明確な定義はないようだが、わかりやすく表現すると「違法または違法に近い労働条件で若者を働かせる企業のこと」となる。
さて、このような話を聞くと、みなさんはどのようなイメージを持つだろうか。「要するに、ブラック企業って、法律を守る体力もないようなどこぞの零細企業だったり、日雇いをかき集めて、危険な現場で働かせるような存在そのものが怪しい組織だったり・・・働く前からブラックであることを明確に特定できる・・・そんな企業のことでしょ!?」。そう、思うかもしれない。ところが、どっこい、である。本書が非難するブラック企業は、大企業であり、むしろ、世間ではよいイメージをもたれている企業ばかりだ。だからこそ、タチが悪く、一朝一夕に解決できる問題ではない、と著者は主張する。
なるほど、ひどい企業があるものだ。たとえば、能力が期待値を下回るとわかった新卒社員に対して、とにかく「自己反省」を促す。それも、生やさしいものではない。洗脳と呼ぶにふさわしい行為だ。言葉だけならまだましだ。服装も、(同期はみんなスーツなのに)ジャージ着用を強要し、みんなとは違うんだ、という意識を本人にも周りにも植え付ける。会社が不要と考えた人材を、やめさせるように(しかも本人がそう思うように)しむけているわけだ。これらは組織ぐるみに行われている。
「嫌だったらやめて次の会社に行けばいいじゃん」・・・と、我々の思考回路が働く。ところが、日本社会がそれを許さない。日本企業の多くは、新卒には価値を見いだすが、一度、失敗した人には価値を見いださない。かくして、”最初の会社で失敗”を経験した人達は、冒頭でも述べた負のプロセスへと誘われてゆく。
本書は、こうした絶望的とも言える状況に対する防衛手段を提示しているのである。
■自らを守るために、世の中をよりよくするために、読んでおきたい
ところで、本書を読む際には、やや冷静になる必要がある。著者の強い想いの裏返しなのだろうが、一部客観性を欠いたような表現が垣間見えたのが気になった。たとえば、ブラック企業の実例を描写している次のクダリ。
『入社後すぐの研修に、すでに(その会社の)異様さが現れている。「3月1日から1週間研修があり、大学の卒業式の日だけ休みました」「卒業旅行も春休みもなかった」というのだ。」』
私に言わせれば、こうした取り組みをする企業がユニークであることは間違いないが、これを頭ごなしに”異様である”と表現するのは、どうかと思うのだが・・・。
とは言うものの、本書に書いてあること主張全ての正当性を疑っているわけではない。それは著者のプロフィールを見れば一目瞭然である。今野晴貴氏は、自らが代表を務めるNPO法人を通じ、実際に被害にあった若者達、何十人、何百人達に接してきた張本人である。火のない所に煙は立たない。感情的になりすぎて、客観性を失いたくないが、この本に我々が見過ごしてはならない内容が書かれていることもまた事実だ。
- これから就職をする(あるいは就職したての)若者達が自らを守る手段として・・・
- 日本をよりよくするための政策を考える人達や、彼らを苦しめる一因を作っている企業側が、世の中の現状を正しく認識するためのインプットの1つとして・・・
【関連書籍】
===それをやったら「ブラック企業」(2013年4月14日追記)===
日経ビジネス2013年4月15日号の特集がちょうど「ブラック企業」だった。今日の企業で「ブラック企業」と呼ばれることが看過できないほどのダメージをもたらすリスクがあるということと、そのレッテルを貼られないようにするためのポイントが何かを解説している。その中で次の文章が印象に残った。
『「(ブラック企業との噂が広がった)事件後、全社一丸で意識改革に取り組み、現在の離職率は低い」というが、そうした改善への努力はほとんど報道されないままだ。』
そもそも世の中を良くしようという目的から生まれた「ブラック企業」という言葉だが、軽く触っただけの先生を体罰教師と呼び騒ぎ出す輩がいるように、本来とは異なる意図で「ブラック企業」という言葉が一人歩きしないように、社会全体で配慮していきたいものだ。
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