2013年3月10日日曜日

書評: カンブリア宮殿 村上龍×経済人 変化はチャンス

テレビや雑誌に取り上げられる、いわゆる”成功した経営者”は、みな生き生きとしている。外見からは想像だにできないが、成功の大きさに比例するかのごとく、みな過去に人一倍失敗し、人一倍苦労してきている。そして、人一倍こだわりを持っている。そんな彼ら・彼女らが発する一言一言に重みがあり、ハッとさせられる。自分に足りないものを気づかせてくれるだけでなく、エネルギーも分け与えくれるのだ。

そんな機会を与えてくれるテレビ番組がテレビ東京の”カンブリア宮殿”だ。そして、同番組において2010年2月から2010年末までの約1年間に登場した経営者達の中で、「変化はチャンスなり」を体現した21人の回を集め、編集したものが本書だ。

カンブリア宮殿 村上龍×経済人 変化はチャンス
著者: 村上龍
編者: テレビ東京報道局
出版社: 日本経済新聞出版社
発行日: 2012年7月25日



この本は、”カンブリア宮殿”を好きな人(あるいは、それに似た・・・たとえば”ガイアの夜明け”や”情熱大陸”、”プロフェッショナル仕事の流儀”などといった番組が好きな人)で、なおかつ、見る時間をなかなかとれない、という人向きの本である。

なぜなら、テレビ番組から得られるエッセンスとほぼ同じものを、その約6倍のスピードで吸収できるからだ。”エッセンス”と一言で簡単に片付けてしまうのはおこがましいかもしれないが、物書きのプロである村上龍氏が著書であることが大きく貢献しているのだと思う。本当に見ている者・読んでいる者が一番気になる重要な部分を10ページ前後の中にものの見事にまとめあげてくれている。私は同番組を、かなりの数を見ているが、本書を読んだ後に得られる感覚は、テレビを見た後に得られる感覚と全く同じものだった。そんな番組が21本も入っているわけだ。1本あたり1時間の番組だから、全部見ようとすると本来なら占めて21時間かかるところを、3時間程度で楽しめてしまう。

”時間を金で買う”とは、まさにこのことだ。

ところで、実際にこの本で取り上げられている21人の経営者達も、すごい。以下は、私の印象に残った経営者達が発したコメントの一部だ。
  • 強弱はあっても、自分を高めたいという気持ちは、いつの時代にも、世界中の誰にでもあると思っています(パーク・コーポレーション社長 井上秀明)
  • 人のためになることには、必ず利益もついてくると思う(山梨日立建機社長 雨宮清)
  • やはり現場で何が起きているのか、どんな仕事をしているのか、あるいは現場の人たちがどういう思いで、仕事をしているのか、それを五年半勉強できたというのは非常に大きいです(セーレン会長兼社長 川田達男)
こうしたコメントは本当に役に立つ。たとえば、わたし自身、自分の会社経営で日々、人をやる気にさせるためにはどう接したらいいかで、悪戦苦闘している。実は以前、こんなことがあった。

会社の中で意気揚々と「みんな月曜日がくるのを待ち遠しくなる会社にしたい!」と声高に叫んだところ、「仕事なんてそもそも楽しいわけないじゃん。やらなくて金もらえるなら、みんなやらない。仕事を楽しくしようっていう気持ちが理解できない」と反論する仲間が約1名だがいたのだ。

それ以来「本当にそうだろうか」と、ことあるごとに自問自答してきた。だが、上に挙げたパーク・コーポレーション社長 井上秀明氏の言葉を耳にすると、この悩みに対するヒントをもらえたような気になり、励まされる。

本書を読んでいると、まぁ、このようにいろいろなことに気づかされ、励まされるのだ。特に、”時は金なり”を大切にしたい方・・・ぜひ、どうぞ。


【類書】
 ・日本でいちばん大切にしたい会社(坂本光司著)

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