2013年9月29日日曜日

書評: 静かなるイノベーション

静かなるイノベーション ~私が世界の社会起業家たちに学んだこと~
著者: ビバリー・シュワルツ(藤崎香里 訳)
出版社: 英治出版


■What's this book about?(何の本だろう?)

社会人または、これから社会人になろうとする者に、人生の新たな選択肢を示してくれる本だ。その選択肢とは"社会起業家(ソーシャルアントレナーシップ)"だ。

社会企業家とは、本書の言葉を借りれば、公正を重視し重要な社会変革を起こすためにシステムを破壊してつくりかえる人々のことだ。一瞬、「政治家のことか?」とも思うが、”起業家”という言葉がつくことからも分かるように、もっと簡単に言えば、世の中をより良くするための活動をビジネスとして成り立たせてしまおうという人々のことだ。お金が絡めば勢いがつくし、それによって半永久的な活動となりやすいからだ。従来、「世の中に役立つことをしたい」という人は、活動家や提唱者、医者や人権弁護士、教授、研究所、学者などになるという道を選んできた。そこに現実的な選択肢が加わった。それが社会起業家なのである。ちなみに、わたしがMBAを習得した2005年頃には既に”社会起業家”という言葉が登場していたが、当時は今ほどの注目度はなかった。ところが2008年~9年頃から「先輩が行った大学院では、社会起業家についてどんな学びを得られるのか・・・教えてください」と頻繁に聞かれるようになった。社会起業家は、まさにトレンドといえるのだろう。

とはいえ、社会起業家が何であるのか、まだイメージがわきづらい。まして、どうやったらなれるのか、わからない。著者もまさにその一人だったようである。そんな著者が、世界最大の社会企業ネットワークを持つアショカグループの存在を知った。そこで、社会に大きな変革をもたらすことに成功している人たちがたくさんいることを目の当たりにしたのである。彼らを突き動かしたモチベーションは何なのか。そこに共通点はないのか。本書は、世界中で大きな成功を収めたアショカフェロー18人に直接インタビューを行った結果がまとめられている。

■What's so good about it?(この本の何がいいのか?)

社会起業家をテーマにした本は数多くある。Amazon.co.jpで検索したら、700件以上もヒットがあった。そんな中で本書が特徴的なのは、世界最大の社会企業ネットワークアショカグループで大きな成功を遂げているメンバー達に直接インタビューを敢行した結果が反映されている点だろう。ドイツで人々が所有する電力会社を作り上げたウアズラ・スラーデク、グアテマラの農村への物流革命をもたらす小規模委託販売モデルを作り上げたグレッグ・ヴァン・カーク、新しい仕事を創出することでペルーの町を美しくする仕組みを作り上げたアルビナイ・ルイス・・・など、文字通り、世界中で成功した人たちの生きた事例を読むことができる。

そして、もう1つ特徴的なのは、本書の構成だ。事例を5種類に分類し、それをそのまま章立てとしている。具体的には「時代遅れの考え方をつくりかえる」「市場の力学を変える」「市場の力で社会的価値をつくる」「完全な市民権を追求する」「共感力を育む」という5つだ。この分類は、読者が「どんな社会起業家になれるか?」を考える際のヒントになる。社会起業家に共通するものとして、身近な生活に感じた不満がきっかけになっていることが多いと本書は指摘するが、たとえば私に置き換えて考えてみると「通勤電車の混雑具合、孤独死、自殺・・・」などがパッと思いつく。ではそれらがこれら5つの章のどれに当てはまるのか・・・それを見つけてページを開くと、そこには具体的な事例が載っている。こんな感じでヒントになるのだ。

それと意外に気がつかないことだが、敢闘賞だと思うのが翻訳だ。和訳された文章というものは一般的に堅苦しく、どこか、ぎこちがない。内容が内容だけに、読みづらくなるのが常であるが、本書の本の文章はスムーズで、読みやすかった。

■To whom do you recommend this book? (で、誰にお勧めの本なのか?)

いいことばかり書き連ねたが、留意点も挙げておきたい。別の視点から見れば、社会起業家の事例が載っているだけの本・・・と言えなくもない。(どんな本を読むときにも当てはまることだが、本書を読むときは特に)何の意識もせずただボーッと読んでいると、頭には何も残らない可能性がある。一回目は軽く流し読みするとして、二回目からは、自らのケースを当てはめて読むといいだろう。自分が感じている社会の不満などを列挙してみて、それが本書のどの章立てに当てはまるかを考え、自分ができる身近なことってなんだろうかと考えてみる・・・。そうすると、本書が生きてくる。

というわけで、人生に選択肢を増やしたい人、社会起業家に強い興味がある人にはぜひお勧めしたい。また、会社の中に起業家マインドを醸成したいという人・・・会社で本書を配るというのもアリかもしれない。


0 件のコメント:

書評: 3 行で撃つ <善く、生きる>ための文章塾

  「文章がうまくなりたけりゃ、常套句を使うのをやめろ」 どこかで聞いたようなフレーズ。自分のメモ帳をパラパラとめくる。あったあった。約一年前にニューズ・ウィークで読んだ「元CIAスパイに学ぶ最高のライティング技法※1」。そこに掲載されていた「うまい文章のシンプルな原則」という記...