2013年9月6日金曜日

書評: 井沢元彦の学校では教えてくれない日本史の授業3 悪人英雄論

井沢元彦の学校では教えてくれない日本史の授業3 悪人英雄論
著者: 井沢元彦
発行元: PHP研究所


■歴史の裏教科書 第3弾


本書は、シリーズ3作目。何のシリーズかというと、歴史学という見地のみならず、宗教学や考古学、言語学など複合的かつ斬新な見地から、日本史をひもとき解説してくれるシリーズだ。シリーズ第3弾にあたる今作は、題して「悪人英雄論」。日本の歴史に登場する誰もが知る・・・英雄と謳われた人、悪人と謳われた人たち・・・を井沢元彦の流儀でぶったぎった本である。

具体的に登場人物の名を挙げると、天智天皇、持統天皇、中臣鎌足と藤原不比等、藤原仲麻呂と道鏡、平将門、源頼義と頼家、源頼朝と義経、後醍醐天皇、足利尊氏、足利義満、北条早雲、斎藤道三、毛利元就、である。この名前を見ただけでも、本書が日本史の中のどのあたりの時代をターゲットにしているか、自分が興味を持って読めそうな本か・・・ある程度、判断がつくだろう。

■日本史の点と点を線にしてくれる魅力は相変わらず


前々作前作の書評でも触れたが、本書最大の特徴は、我々が学校で習ったときには点でしかなかった歴史上のイベントを、みごとに線でつなげてくれる点にある。この特徴は本書でも健在だ。具体例を挙げてみたい。以下は、学校の歴史教科書に登場する解説文だ。足利義満が造った金閣寺についての解説文だ。

『義満が京都北山の山荘(のちの鹿苑寺)にもうけた金閣は、1層(初層)が伝統的な寝殿造、2層が和洋の仏堂、3層が禅宗様式という建築様式で、この文化の特徴をよく示していることから、室町時代初期の文化を北山文化とよんでいる(日本史B 改訂版)三省堂122ページ)』

正直、年くった今読んでも、お世辞にも「おー、すごいっ!」とか「へぇー!」という感想は出ない。せいぜい「金閣寺ね。あー、あの黄金の。おれわりと好きだな・・・」くらいだろうか。学生時代、文意を理解することよりも、ただイベントを丸暗記しようとしていたことしか記憶にない。足利義満、金閣寺、北山文化・・・というキーワードを必死で暗記していたような気がする。

この解説が、井沢元彦にかかるとどうだろう。彼は次のようにひもとく。「なぜ、金閣寺を3層違う様式で建築したのか。そこには足利義満の隠れた想いが反映されている。1層の寝殿造りに住むのはもともと天皇だ・・・貴族だ・・・すなわち朝廷勢力だ、2層の仏堂は武家造りを表している・・・すなわち武士、3層の禅宗様式は中国人の禅僧・・・ただし、中国人とは中国で生まれたかどうかなどDNAのことではなく、中華の思想・・・世界の中心・・・という意味での中国(中心)人・・・のこと、つまり、これは足利義満自身を指す。つまり、金閣寺は、足利義満がすべてのトップに君臨したいという彼の野望の象徴そのものである。」・・・とこんな感じである。金閣寺の公式ホームページの歴史解説を読んでも、このような解説は出てこない。あくまでも井沢氏の持論にとどまる話なのかもしれないが、「3種類の様式で造られている。北山文化だ。足利義満が建てたんだ」と教えられるよりも、はるかに印象的で、ものすごく魅力的だ。もっと当時の歴史を知りたい・・・心が動かされる。これが、本書・・・いや、本シリーズの魅力なのだ。

■かめばかむほど味が出るスルメ本


一点、注意点を挙げるとすれば、読むのにややエネルギーがいる、という点だろうか。歴史に家系の話はつきものだ。天皇が登場するならなおさらである。また、昔の人の名前には似たものが多い。そこに輪をかけるように、もともと聞き覚えの薄い天皇や武将の名前も登場するので、著者のいわんとすることを正しく理解するために、何度もページをひっくり返して、家系図と解説を確認しながら読むことになる。だから、一気に読み進めるのが難しい。

一方で、そうしたハードルを乗り越えると・・・つまり、著者の趣旨を理解できると、ぱっと目の前が開けたような発見がある。ある意味、かめばかむほど味が出るスルメ・・・と同じ楽しみ方ができるとも言える。1回目は、”ちなみに・・・”的な解説文はどんどん読み飛ばし、理解できる範囲でさらっとながして楽しみ、2回目はさらに深く読み込む・・・そんな読み方もアリだと思う。実際、私もそうした口だ。

■誰が読むべきか


「悪人英雄論」と題しているものの、前作前々作と類似した年代を切っているので、内容には重複する箇所もある。たとえば、「後醍醐天皇と楠木正成をつなげた思想とは」というテーマが第2弾に登場するが、これと同じ話は第3弾にも登場する。裏を返せば、シリーズのどの本から手をつけても、話を理解できるようになっている、とも言える。なので、歴史本に少しでも興味がある方は、まず自分が興味を持てそうな一冊を手にとり、もし、それでハマったなら、残りの2冊に手を出す・・・そんな本書・・・いや、本シリーズにはそのようなアプローチが最適だろう。

なお、勝手な推測だが、著者がときおりこきおろす歴史専門家・・・彼らからすると本書の内容には反論したいところもたくさんあるのではないかと思う。ただ、井沢元彦氏の解説は説得力がある。そして何より面白い。それは先述したとおりだ。賛否両論分かれるのだろうが、わたしは好奇心を刺激してくれる本書を強く推したい。


【面白い切り口で歴史をひもとくという観点での類書】
学校では教えてくれない日本史の授業(井沢元彦著)
学校では教えてくれない日本史の授業2 天皇編(井沢元彦著)
地図から読む歴史(足利健亮著)
戦国の軍隊(西股総生著)

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