たった一人の熱狂
出版社: 幻冬舎文庫
そもそも、なぜこの本に手を出したのか? 見城徹氏のことをもっと知りたいと思ったからだ。日本テレビ系列「アナザースカイ」でも取り上げられ、彼の生き様は、とても”とんがっている”ように見えた。見城氏は、尾崎豊など、数々の著名人を口説き落とし、これまでにたくさんの本を独占出版してきた。石原慎太郎氏を口説き落とす際に、彼の過去の作品を丸暗記して暗唱してみせた・・・という。衝撃的である。飽和状態に近い出版業界にあって、遅咲きながら出版社(幻冬舎文庫)を立ち上げ、軌道に乗せた。ハワイで不動産ビジネスを始め、ジュースビジネスにも着手する。経歴を聞いただけでも、そのパワフルなエネルギーに圧倒される。
そんな見城氏の人生哲学がまとめられているのが、本書だ。なお、ベースは、彼が最近手を出したというソーシャルネットワークサービス(SNS)※でのユーザとのやりとりである。ただし、誤解のないように述べておくと、ユーザとのやりとりがそのまま文章に起こされた・・・という最近流行りのシロモノとは違う。テーマこそ、やりとりの中で出てきたものだが、それに対する彼の考えがしっかりとまとめられているのだ。
※このSNSは755(ナナゴーゴー)と呼ばれるもので、ツイッターとブログの中間的な位置づけのサービスだ
本書を読むと、びっくりする。活字ですら熱を帯びているからだ。「憂鬱じゃない仕事は、仕事じゃない」「結果の出ない努力に意味は無い」「圧倒的な努力をしろ」「誠意とはスピードだ」「君がなんとなく生きた今日は、昨日死んでいった人たちがどうしても行きたかった1日だ」・・・投げかけるメッセージとともに、彼がそれをどうやって実践しているか、克明にそれを示してくれている。上っ面だけでもっともらしいことを語る人はいっぱいいるが、彼ほど、発する言葉と生き様そのものが完全にシンクロする人はいないのではなかろうか。
熱を帯びた人の話を聞くと、その熱は伝播するのだろうか。本書を読むと、自らももっとやらねば、という思いが湧いてくる。とりわけ、「単なる努力ではなく、圧倒的な努力をしているか」という問いかけは、私の心に響く。「まだ足りない」「まだ足りない」「まだまだ足りない」と・・・今以上に、さらに一生懸命に生きてみたくなった。
ところで、とにかく生き急いでいる感が半端ない。あまりに凄すぎて、やや引いてしまうくらいだ。このエネルギーは一体どこからやってくるのか。本書のネタばらしになるわけではないので、述べておくと、その答えは“死”である。「生まれたその日から、死に一日一日と近づいていて・・・それを紛らわすためにとにかく必死に生きている」のだそうだ。ソフトバンクの孫会長も生き急いでいる感があるが、孫会長の場合は「とにかく偉大なことを成し遂げたい。そのための時間はいくらあっても足りない」と言ったものだった。その意味で両者が生き急ぐ理由はやや異なるが、“やがては訪れる死”というものが、今を必死に生きるモチベーションになっている点は共通している。
ふと思う。“生に限りがあること”に理不尽さや虚しさを感じる一方で、“生に限りがあること”こそが人間が生きていくためのパワーなのであると。なんと矛盾する答えであることか。
やや哲学じみた話になってしまったが、彼の死生観に共感できない人は、読んでも???となるかもしれない。逆に、一生懸命生きていて、さらに生きるエネルギーをもらいたい人にはありがたい一冊と言えるだろう。「憂鬱じゃない仕事は仕事じゃない」という一言で、救われる人もたくさんいるはずだ。頑張ってみようと。私がそう感じたように。
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